幸村誠×諫山創が初対談!互いをリスペクトし合う2人が「ヴィンランド・サガ」を語り合う (3/3)

幸村誠と諌山創がそれぞれリスペクトしていることとは

──おふたりがお互いマンガ家としてリスペクトしていることはありますか?

諫山 幸村先生はすべてのパラメーターが高いんです。例えば画はめちゃくちゃうまいけど、何が起こっているのかわからないという方もいます。でも、「ヴィンランド・サガ」はそうじゃない。画力や構成力をはじめ、マンガに必要なことすべてが揃っているんですよね。あまりにも隙がなさ過ぎるのも個性の1つだと思います。

幸村 ありがとうございます! この記事がアップされたら、息子たちに必ず読ませないと(笑)。僕が「進撃の巨人」を拝読して諫山先生に感じたのは、あのスピードであの物量を描ききったことです。あのスペクタクルを描いていた中で、何回休まれました?

諫山 コロナ禍で連載雑誌が休刊した1回ですね。

「進撃の巨人」34巻

「進撃の巨人」34巻

幸村 その1回だけで最後まで描ききった作家魂を本気で尊敬しています。作品の内容はもちろんなんですけど、休まずに続けて描くということを、僕はマンガ家に一番大切な素養だと考えているんです。僕はとっても休んじゃいますから。

諫山 でも、休まずに「ヴィンランド・サガ」のクオリティは保てませんよ。

幸村 いやいや。「進撃の巨人」は毎回40ページほどの連載で、年に3冊は単行本が出ていたじゃないですか。繰り返しますけど、最後まで休まずに続けて描くことがどれだけ胆力のいるものなのか、自分ができないだけによく知っています。それができている人の中でも諫山さんは高いレベルで実行されていた。爪の垢を煎じて飲みたいくらいです。

諫山 でも、僕は週刊連載に比べればだいぶ楽だと思っているんですよ。週刊だと月産70~80ページじゃないですか。

幸村 僕は先月16ページでした(苦笑)。

諫山 それだけのものを描かれていますから、仕方ないですよ。

──「ヴィンランド・サガ」の画は、どのカットも繊細で美麗ですからね。

幸村 画面が綺麗なのは、うちのスタッフのがんばりですね。仕上げも手を抜かずにがんばってくださる人たちばかりなので。あと、デジタル環境の恩恵もあります。

──デジタル環境で執筆されているんですか。

幸村 はい。コロナ禍になってから、フルデジタルに変わりました。具体的に言うと、168~169話くらいですね。それまではペン入れまではアナログで行って、それをスキャンして仕上げ作業を行っていたんです。今はペン入れからすべてパソコン上で描いています。やはりスタッフをコロナ禍で通勤させるわけにはいきませんからね。

諫山 僕も「進撃の巨人」の終盤はコロナ禍だったこともあって、デジタルに移行していましたね。でも、完全にはできなくて、アシスタントさんにはタクシーで往復してもらっていました。次の機会があれば完全移行したいと思っています。

「ヴィンランド・サガ」の完結は近い!?

──「ヴィンランド・サガ」の連載開始からすでに17年となります。これまでのマンガ家人生を振り返ってみて、幸村先生の今の心境をお聞かせください。

幸村 マンガ家になって約25年になりますが、今の僕の望みは子供たちを無事に大人にすること、そして「ヴィンランド・サガ」を最終回までちゃんと描くことです。幸か不幸か完全デジタルという環境を手に入れたので、これを活かしたマンガを描いていけたらと思っています。スクリーントーンを貼っている手間を色塗りに変えれば、フルカラーもできると思うんですよね。そういった作業にも挑戦してみたいです。

──ファンが特に気になることは「ヴィンランド・サガ」の今後のストーリーだと思いますが、完結までの道筋は立っているのでしょうか。

幸村 実を言うと、ロードマップはもうそんなに残っていないんですよ。最終回までそんなに遠くないです。ロードマップを立てたのは連載開始前だったんですが、細かい部分は違っています。最初の想定では出てこなかったキャラクターもたくさんいますからね。でも、細かいところは状況に応じてフレキシブルに描いてきました。そういうふうにしっかりとした骨のほかに遊びの部分を残しておいたほうがいいことは、最近になってわかってきましたね。

「ヴィンランド・サガ」26巻

「ヴィンランド・サガ」26巻

諫山 ロードマップって描く度に膨らんで、キャラクターも増えたりしてきますよね。「進撃の巨人」も最初の想定よりキャラクターが大分増えました。今考えると、足りなかったかなとも思うんですが。

幸村 少なかったということはないんじゃないですかね。

諫山 マーレ側にジャンたちの明確な友達がいてもよかったのかなと。それが踏み潰されることで、一波乱描けたと思うんです。

幸村 でも、難民の子供たちをぐしゃっと踏み潰すシーンは衝撃でしたよ。この子供たちは、踏み潰されるために生まれてきたんだなとゾッとしましたが。あれがエレンのしたことの罪深さを端的に表していますよね。

諫山 まさにその通りです。でも、罪を償うことがいかに大変だったかという描写について言えば、「ヴィンランド・サガ」最新巻まで読むと、違うラストもあったように思うんです。これだけ巻数をかけて、トルフィンが苦しんでいると描いてきた。それだけに感動するシーンを描くためには、ストーリーを重ねる大事さを知ったんです。その贖罪の重さは、これまでトルフィンの旅路を追ってきた読者なら、必ず共感できますよね。

幸村 ありがとうございます。何年もかけて絶対に感動させるぞと思いながら描いていましたから、あのシーンは自分でも感慨深かったですね。

──そのシーンがいつかアニメで描かれる日を楽しみにしています。来年1月からはいよいよSEASON 2となる奴隷編が放送開始となるわけですが、おふたりから期待するポイントを伺いたいです。

諫山 トルフィンがしっかりとした自分を見つけるまでの過程が描かれるのが奴隷編です。そこを注目したいですね。あと、やはりアニメならではのディテールも楽しみです。重機がないのに森を畑にする。その大変さがどのように表現されるのか、期待しています。

幸村 SEASON 2で楽しみなのは、やっぱりキャラクターですかね。蛇という男が出てきますが、ほんとにナイスガイなキャラクターなんです。ほかにもエイナルにオルマル、アルネイズと一生懸命描いた人々が登場します。トルフィンももちろんですが、彼らの心境の変化や成長も含めて、今(国内で)放送中のSEASON 1から通してご覧いただければうれしいですね。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2より。

プロフィール

幸村誠(ユキムラマコト)

1976年生まれ、神奈川県出身。1999年よりモーニング(講談社)で連載された「プラネテス」でデビュー。同作は2002年に星雲賞コミック部門を受賞。2003年に放送されたTVアニメでも高い評価を得る。2005年からは月刊アフタヌーン(講談社)で「ヴィンランド・サガ」を連載開始。同作が評価され、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞や第35回講談社漫画賞一般部門を受賞した。

諫山創(イサヤマハジメ)

1986年生まれ、大分県出身。持ち込みを経て、2008年にデビュー。2009年より別冊少年マガジン(講談社)にて初の連載作品となる「進撃の巨人」を開始する。同作はTVアニメ化や実写映画化され、高い評価を得た。2021年7月に最終34巻が発売。