幸村誠×諫山創が初対談!互いをリスペクトし合う2人が「ヴィンランド・サガ」を語り合う

11世紀初頭の北ヨーロッパを舞台に、熱きヴァイキングたちの生き様を描いたマンガ「ヴィンランド・サガ」。少年・トルフィンは、目の前で殺された父の仇を取るべく戦士となった。仇であるアシェラッドや巨漢の戦士・トルケル、幼き王子・クヌートらと出会いながら、彼は戦士として生きていく。しかし、アシェラッドが処刑をされたことでトルフィンは、錯乱。廃人同然となり、奴隷身分になってしまう……。2019年にプロローグであるトルフィンの少年編がTVアニメSEASON 1として放送。2023年1月には待望のSEASON 2となる奴隷編が放送予定だ。

コミックナタリーではSEASON 2の放送決定を記念し、原作者である幸村誠と、「進撃の巨人」で知られる諫山創の対談を実施。壮大なる大河マンガである「ヴィンランド・サガ」をどのように描いていったのか、作者の目線だけではなく、傑作を描ききった諫山の目線からも深掘りしていく。それぞれの「ヴィンランド・サガ」に対する思いも必見だ。

取材・文 / 太田祥暉(TARKUS)

「ヴィンランド・サガ」で描きたいテーマは“暴力”

──幸村先生と諫山先生は、今回が初対面ということで。

幸村誠 そうですね。はじめまして。諫山先生のことを知ったのは「進撃の巨人」の第1巻が発売されたときですから、約11年前です。1ページ目から「え? なにこのマンガ!?」と驚きながら読んでいました。

諫山創 はじめまして、諫山です。僕が幸村先生のことを知ったのは、高校か専門学校時代のことでした。「プラネテス」のアニメを観て、これはすごいと原作を読んだんです。「ヴィンランド・サガ」は奴隷編が始まった辺りから読み始めて……。

──いきなりの奴隷編となると、かなりハードですね。

諫山 奴隷編からだとトルフィンの過去がわからないので、エイナルの気持ちで読みはじめました。もちろんその後に最初から読み返したわけですが、通して読んでから構成の素晴らしさに驚きました。話全体が三幕構成みたいになっていて、凄まじい完成度の作品の途中を読んでいるんだなと気付いたんですよ。頭がよくて勉強をとてもされている方じゃないとこんなことはできないですよね。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

幸村 諫山先生にそう言ってもらえるとは、畏れ多いことです。

──そもそも、前作である「プラネテス」は宇宙を舞台としたSF作品でしたが、「ヴィンランド・サガ」は11世紀のヴァイキングを描いた作品と毛色がかなり異なります。どのような経緯でこの題材に挑戦することになったのでしょうか。

幸村 「プラネテス」はあまり準備をせずに始めた連載だったので、毎回ネタ集めが大変でした。なので、次の連載はテーマと流れを決めてからスタートしようと思っていたんです。そこで思いついたテーマが「暴力」でした。自分なりに暴力について考えていることを描きながら深めていきたいと思って。そこで題材に選んだのが、ヴァイキングだったんです。人を斬り殺しても罪に問われない彼らを通して、暴力を否定することは可能なのか、人類は暴力というものを捨てられるのかを描いてみようと決めた。そこが「ヴィンランド・サガ」の出発点でしたね。

諫山 ヴァイキングの時代が舞台でありながら、「ヴィンランド・サガ」ではとても現代的なことを描いていますよね。死んだらヴァルハラに行けると考えながら彼らは戦っている。そこにトルフィンという被害者の視点が入ることによって、現代に生きる読者にもすっと繋がるようになっているのがうまいですよね。昔の男性は今よりももっと動物に近かったんだろうなという怖さが、誌面から伝わってきます。

幸村 キリスト教が浸透する以前は、どうやら暴力に対する抵抗感が人々の中になかったようなんですよ。ヨーロッパ中にキリスト教が普及したのは、ちょうど「ヴィンランド・サガ」が描いている時代の直後のこと。なので、広範な倫理観が与えられる前の彼らは、あれくらい野蛮だったわけです。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

──そういった理由で、日常的に暴力があった。

幸村 例えば「赤毛のオルムの冒険」という小説があるんですが、その話の中で、農場に若い人を飼った偉いヴァイキングが出てきます。その若い人は彼の子分であり、戦力でもある。でも、若い人たち同士で争っていると、ボスは怒って2人とも斬り殺してしまうわけです。

──あっさりと2人の命が奪われてしまう時代なんですね。

幸村 はい。かわいがっていた2人を殺したわけですが、彼は「俺もまだまだ若い者に負けないとわかってうれしいよ」と笑うわけです。家族も家族で「お父さんは強い」とうれしがる。命に対する価値が低いが故に、ドメスティックバイオレンスをはじめとした暴力が跋扈している。その時代だからこそ暴力について「ヴィンランド・サガ」では描けるものがあると信じています。

作品を描いている中で生まれたキャラクターの成長

──「ヴィンランド・サガ」を描いていて苦労されていることはなんですか?

幸村 だいたい筆が乗らないんですよ(苦笑)。自分はこういうふうに物語を進めたいと思っていても、誰もその通りに動いてくれない。そんなことありませんか?

諫山 主人公のやることが決まっているあまり、コントロールできないことは僕にもありましたね。そういう人だっけ?と思いながら、描いていったことがあります。

幸村 このキャラクターはそういうことをしないよなとわかっていながら、どうしても別の方向に進んでしまう。それはマンガ家あるあるだと思います。

──幸村先生が描いていて特にお気に入りのキャラクターは誰ですか?

幸村 みんな好きなんですよ。トルフィンやアシェラッドはもちろん、トルケルやレイフのおっちゃんも大好きです。嫌いな奴を探すほうが難しいですね。フローキも孫がかわいいという人間らしいところがありますし、スヴェン王もいろんな出来事があってこうなってしまったんだろうと思うと嫌いになれませんよね。スヴェン王なんてもともとクヌートみたいな顔をしていたはずなのに、国の命運を預かっていたらあんな感じになってしまったのでしょう。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 1より。

──諫山先生がお気に入りのキャラクターを教えてください。

諫山 やっぱりトルフィンです。マンガで主人公が一番好きというのはあまりないんですけど、トルフィンは別格ですよね。破壊と構築を繰り返しながら進んでいく。奴隷編以降の常に罪を背負っているトルフィンは、人間味に溢れるので魅力的なんですよ。

幸村 よかった。最初の頃と最近のトルフィンは同じ人物かどうかもわからないくらい変化していますから、どう受け止められているのか心配だったんですよ。

──人相というか、デザインもかなり異なりますからね。

幸村 同じなのは身長ぐらいですよ。

諫山 でも、クヌートを前にすると昔のトルフィンが現れるんですよね。やはり昔の性格が出てきちゃうんでしょうか。

幸村 もともとトルフィンはヤンキーですから、油断すると口調が変わるんでしょうね。

諫山 普通に育ったのなら、今のような性格の少年になっていたんだろうと思うと悲しさがありますね。