模写して改めてわかる赤塚のセンス
──「ア太郎!」でのオリジナルキャラクターもいろいろ出てきますが、そちらはどういうイメージで?
アケミさんはちょっと悩みましたね。
──惚れっぽいア太郎が例によって惚れちゃう、本作のヒロイン的なキャラクターですね。
彼女は普段の僕のマンガやキャラクターから最も遠い立場のキャラクターなので。僕が彼女のような立場の人のことをすごく理解できているわけじゃないから、わかったようなことを描くのもどうかと思ってしまうし。かといって、通り一遍のキャラクターにしてしまうのも違う。だから、ちょっと苦労しながら描きました。あと、商店街の人たちをどんなふうに描くかですね。途中で出てくる古着屋さんの女の子の彼氏とかも含め、どの程度“悪いやつ”として描くかはちょっと悩みました。
──古着屋さんの彼氏はシンプルにイヤな男にもできそうでしたよね。
ええ。でも、それじゃあ気持ちよくない。全体として気持ちよく終わりたいなと思っていたので。悪いやつなんだけど、人間ってみんな弱い部分を持っていて、それで悪いところが出てしまうことがある。そういうバランスにできたらなと思ってあのキャラクターになりました。
──赤塚先生の模写もありますよね。第7話はまるごと、ほかのエピソードでも作中で模写が挟まれています。
第7話は、当初予定になかったんです。全6話のつもりで描いていたら、最後に全7話だって言われて(笑)。予定していた話を7話分に伸ばしてもよかったんですが、それじゃ面白くないので、1話だけおまけ的にギャグを描こうって決めてやったお話。いろいろ考えて楽しかったんですが、まあ難しいこと(笑)。
──難しいというのはどういうところが?
絵のバランスですね。やっぱり赤塚先生の絵のバランスってすごいんですよ。例えば、赤塚先生ってキャラクターをフキダシで隠さない。フキダシの前にキャラクターを置くんです。でも、フキダシがキャラクターで隠されて文字がガタガタになるのもきれいじゃない。だから、コマの中にきれいに収まるようにキャラクターとフキダシを配置するんですが、でも、僕がやるとなんかバランスが悪くなるんですよ。それで、デジタルで拡大したり縮小したりしながら配置を動かしていってなんとか仕上げたんです。赤塚先生はアナログで、しかもものすごく美しく配置してたわけでしょう? すごいセンスですよ。キャラクターにしても、ココロのボスとか「うまく描けた!」と思っても見返すとなんだか長細いんです。
──長細い?
赤塚先生のキャラクターって、パッと見たときの印象としてはそんなに寸詰まりではないんです。
──確かに等身が極端に低くは感じないですね。
でも、そのイメージで自分で描くと長細くなる。実際にはもうちょっと寸詰まりなんです。赤塚先生の絵はそれでいてギャグ体型って感じがしない。バランスがものすごくいいんです。
──描いていて楽しかったキャラクターやエピソードはありますか?
ココロのボスは本編でも描いていて楽しかったですね。和室にロッキングチェア置いてるあの感じとかも好きでした。ボスっていい家で育ってるんですよね。教養がある家で育っている。まあ、それも本人が言っているだけだから本当かどうかわからないですけど、文化の匂いはしているキャラクターだと思います。
──「ア太郎!」のココロのボス、僕も好きです。
僕も昔からおっさんを描くのは好きです。いわゆる美形って表情が付けにくいんです。おっさんは崩しやすいし、いろんな表情ができる。だから、描いてても楽しいです。
パロディタイトルから生まれたコミティア第1作
──「ア太郎!」と同時発売になる「ミスター味っ子/将太の寿司 令和対決編」はデジタルの勉強をきっかけに描いたということですが、内容はどんなふうにできていったんですか?
最初はオリジナル作品も考えていたんです。妖怪もののアクションとか。でも、30枚ちょっとだと慌ただしくなっちゃう。風呂敷を広げても畳み切れないんですよね。そうなるとワンエピソードでじっくり描くというような形がしっくりくる。だから、読者サービスを含めて、「味っ子」や「将太」のキャラクターのスピンオフにすることにしました。
──最初に描いたのが「ミスター味っ子」の下仲さんが主人公の「ソースをこぼすと染みになる」ですか?
そうです。これ、実はタイトルはギャグなんです。同人誌を出そうと思ったときに、コミティアを紹介してくれたのが、発酵食品やグルメマンガの研究家で、マンガ原作もやっている杉村啓さんだったんです。コミケは人も多いし、真夏と真冬の開催だから大変だなと思っていたら、コミティアはコミケより人が少ないですよって教えてくれて。その杉村さんのサークル名が「醤油をこぼすと染みになる」なんです。そこから「ソースをこぼすと染みになる」ってタイトルを思いついて。
──パロディだったんですね(笑)。
そうそう。で、ソースというとフランス料理でしょう? それでフランス料理が専門の下仲の話に。内容も元ネタがあって。幸田露伴の「太郎坊」っていう小説があるんです。老夫婦がお酒を飲んでいるときに旦那さんがうっかりぐい呑みを割ってしまう。聞くと、結婚する前に約束をしていた相手がいて、ぐい呑みはその相手からの心付けだったと。これがすごくいい話なんです。で、この話を拝借した。下仲と葉子さんも過去に何があったのかはっきり描かないほうが面白いなと思って、こういう形にしたんです。
──ポンポンといろんな要素が組み合わさっていったんですね。
ええ。最初はせっかくのファンサービスなんだからもっといろんなキャラクターを出そうと思ってたんですが、それだと30ページちょっとで収まらなくなってしまう。それで削ぎ落として削ぎ落として今の形になりました。初めてのフルデジタルだったので苦労しましたが、最初にしてはうまくいったなと思います。
──実際話題になったんじゃないですか?
ありがたいことに。初めてだと普通は(同人誌の刷り部数は)10部とか20部くらいだとは聞いていたんです。「先生の場合は一応知名度もあるから100部ぐらいいけますかね」なんて言われてたんですが、じゃあ思い切って200部にって決めて。さらに注文するとき勢いで250部にしちゃって(笑)。ただ、たくさん刷ったはいいけど、やっぱり売れるかは不安でした。売り上げはどっちでもいいですけど、売れ残ったら悲しいじゃないですか。だから、ドキドキして行ったんですけど、いきなり行列ができてすぐ売り切れてしまった。自信にはなりましたね。
──そこからこうして単行本化にまで至ったわけですもんね。
「ア太郎!」を描いてる途中で、酒の席で編集さんに「同人誌の原稿も本にならない?」って言ってみたら「いいですよ」ってあっさり言われて(笑)。
──即答だったんですね(笑)。
でも、いざ出すってなると不安ですよ。売れなかったら怒られるんだろうなって(笑)。
──そこは編集長が責任を取ってくれますから(笑)。
少年マンガでは、もっとピュアな気持ちが見たい
──今回改めて描いて面白かったエピソードはありますか?
大年寺の話はなんぼでも描けますね。
──「将太の寿司」に登場する寿司職人ですね。
「将太の寿司」が終わった後、「大年寺が日本中を駆け回る続編はどうですか?」なんて話もしていたんです。結局実現しませんでしたけど、大年寺の話はいくらでも描ける気がしますね。まあ、ある意味定型化してしまってるとも思いますが。「味皇、寿司を喰らう!」で寿司について考えていたことをまとめられたのもよかったですね。
──長年描いてきたからこその寿司批評という感じで印象的なエピソードでした。
それと、やっぱり笹木の話ですかね。
──笹木は今も語り草になる「将太の寿司」の伝説的なヒールですね。「SSSS 笹木は寿司の夢を見るか」ではそんな笹木の内面が垣間見えます。
笹木ってやっぱり悪いやつだし、嫌なやつなんですよ。でも、誰の心の中にも笹木はいるだろうし、ちょっと間違ったら自分だって笹木みたいなやつになっちゃうかもしれないなと思いながら描いた話です。だからといって笹木に同情するわけじゃないですけど、彼にも彼の葛藤がある。そういうちょっと痛切なものがあって、それが割と刺さったって人が多くてうれしかったですね。
──笹木のエピソードだけでなく、「ア太郎!」とも共通するところなんですが、「大人の少年マンガ」という印象を強く感じました。あらゆる人に葛藤がある。
最近の少年マンガってみんな子供じゃないなって思うんです。キャラクターが大人みたいな理屈で動いてる作品が多い。自分の立場だからこうなんだとか、人からどう見られるか、いろんな人の理屈を飲み込んで、最初からどこか言い訳してるみたいなキャラクターが目立つと思うんです。ある種老成している。でも僕は、もっとピュアというか、率直な本音が見たいんです。ア太郎も陽一もそうでしょ?
──自分の気持ちにストレートですよね。ア太郎なんか、みっともないくらい嫉妬したりする。
笹木だってある意味ピュアだと思うんです。気に入らないから気に入らないんだって言ってしまう。
──よくも悪くもストレートですよね。
本心を吐き出しているんですよね。物語ってそこからだと思うんです。ウソのない本心があって、ぶつかったり間違ったりもあって、そこからどうしていくのか、どう解決していくのかが問題なんです。
──それってとってもカッコ悪いんだけど、そのカッコ悪さがいいんですよね。今回のア太郎はまさにそういうキャラクターです。
赤塚先生の作品の上品さもそこにあると思うんです。赤塚作品って、ちょっと下品なことをやってもどこかで上品じゃないですか。
──ああ、上品なギャグじゃないですよね。でも確かに、下品だなとは感じない。
赤塚先生って一歩引いたところからキャラクターを見ていて、その眼差しに温かさがあると思うんです。お金が欲しいとか、結婚したいとか、みんなあけすけな本心を素直にさらけ出してる。フラれたら泣くしね。そういう姿ってバカだなって思うんですけど、かわいらしいじゃないですか。
──そう、かわいらしいんですよね。
ウソやごまかしが一番醜い。そういうものがないんですよね。そこに上品さがあるんだと思います。
──「ア太郎!」でデコッ八が出ていったときのア太郎なんかがまさにそうですよね。カッコ悪いんだけど、すごく響くものがある。
昔「カッコ悪いことがカッコいいんだよな」って言ってる友達がいたんですね。それは単にひねくれた物言いだったのかもしれないけど、なんとなくわかるんです。カッコ悪いところがいい。だから、あのエピソードのア太郎のセリフも悩んだんだけど、最終的に「寂しいよう デコッ八…!!」というすごくストレートな言葉が一番ストンと腑に落ちた。
──身も蓋もない、素直な感情ですよね。滑稽ですごくア太郎らしい。
そういうピュアな気持ちの先で、何が幸せなんだろうっていうのを描けていたらいいなと思います。
読者プレゼントキャンペーン
寺沢大介の直筆サイン入り複製原画を計2名にプレゼント!
「ア太郎!」「ミスター味っ子/将太の寿司 令和対決編」の2冊同時発売を記念し、X(旧Twitter)にて発売日の4月30日より寺沢大介の直筆サイン入り複製原画が当たるプレゼントキャンペーンを実施する。
- プレゼント内容
-
「ア太郎!」直筆サイン入り複製原画:1名
「ミスター味っ子/将太の寿司 令和対決編」直筆サイン入り複製原画:1名
- 応募方法
-
- COMIC MeDu公式Xにアクセス
- 対象の固定ポストを引用リポスト
- 引用リポストの際、【欲しい作品のハッシュタグ】をつけて作品の感想を投稿
・「ア太郎!」をご希望の方:【#ア太郎感想】
・「ミスター味っ子/将太の寿司 令和対決編」をご希望の方:【#味っ子将太感想】
※両方のタグをつけての応募も大歓迎!
- 応募期間
-
2026年4月30日(木)~5月17日(日)23:59
- 当選発表
-
当選者には、COMIC MeDu公式Xよりダイレクトメッセージ(DM)にて連絡します。
※当選してもDMが送れない方は落選となるため、応募時にDMの受信設定をご確認ください。
詳細はCOMIC MeDu公式Xで確認を。
プロフィール
寺沢大介(テラサワダイスケ)
1959年6月10日兵庫県生まれ。1985年、フレッシュマガジン(講談社)にて「イシュク」でデビュー。1986年に週刊少年マガジン(講談社)で「ミスター味っ子」を連載開始。同作は1987年にアニメ化され、1988年に第12回講談社漫画賞少年部門を受賞している。1992年より週刊少年マガジンで「将太の寿司」を連載開始し、1996年にはドラマ化を果たす。そのほか代表作に「喰いタン」「修理もん研究室」「キッテデカ」など多数。赤塚不二夫の「もーれつア太郎」をリメイクした「ア太郎!」は、2024年12月から2026年1月までCOMIC MeDuで配信された。

