コミックナタリー PowerPush - 高橋のぼる「チンピラのび~る」

「土竜の唄」作者による“ほぼ”自伝マンガ

夜中のラブレターにならないように

──高橋先生は昔のインタビューで、プロットは基本的にブレーン役のライターさんと編集者の合議制で進めるとおっしゃっていましたが、それはいまでも変わらずそうなんですか?

「土竜の唄」39巻

「土竜の唄」はそうですね。あのね、ラブレターって書いたことある?

──はい。

書くじゃん、夜。相当いい感じで書いたと思ったのに、起きて朝読むとぶったまげない? こんなものもらった女の子はどうしたらいいんだよって。

──ははは(笑)。

だけどラブレターを書くときに3、4人で書いていけば「ここは言い過ぎだ」「こんなこと言ったらキモいだろ」とかわかるじゃないですか。それと一緒で、意見をいっぱいもらったほうがいいんですよ。ただ僕のやり方はそこでおしまいじゃなくて、みんなで考えたものを家に持って帰ってきて、もう1回自分で吟味して、書き直していくという作業をしてます。

──なるほど。ただライターやブレーンが入っていることを公言されてるのは珍しいなと思いました。人に介入されるのを好まないタイプの作家さんも多いですし。

いっぱいいますね。僕のほうが稀なタイプだと思いますよ。みんな天邪鬼だし反抗したりしますね。僕は大丈夫です。作品が良くなるためなら我慢できるし、読者のためですから。いい読者には喜んでもらいたいですからね。2ちゃんで悪口言う奴とかじゃなくてね(笑)。

「無事これ名馬」であろう

──ええ(笑)。

いい読者にはちゃんと楽しんでもらいたい。だから僕は休まないことが大前提です。毎週楽しみで読んでるのに載ってなかったら「どういうことだよ」って思うじゃないですか。ちょっと理由つけたら休めちゃいますからね。でもそれはやめようと思って。だから「土竜の唄」は1回も休んでないですよ。

──週刊だと、不定期連載とか隔週連載の作家さんも多いですが。

いや、ほかの人はいいんだよ。俺は休まないって自分に課してるだけだから。逆に「2週休んでくれ」って言われるようになったら仕方ないしね。とにかく「無事これ名馬」であろうと思ったわけよ。立派なサラブレッドじゃないなら、とにかく怪我しないで描き続けようと。一時期すごい作品を描いても消えちゃう人っているじゃない。競走馬でもそうだけど。フジキセキっていうすごい馬が出てきても、骨折して引退しっちゃったら獲得賞金は1億円を少し超えたぐらいで終わっちゃう。だけどナイスネイチャなんてG1で3着とか4着でずっと頑張ってる。あれは5着だか6着までは賞金がもらえるから、生涯の獲得賞金はすごいわけ。決して立派な血統じゃなくてもね。だからとにかく消えないでやることだなと思いましたよ。

──続けることが大事だと。

そういう真理や正義、善がないと、なんの仕事しても続かないんですよ。低い地位にいても、高い地位にいてもね。「チンピラのび~る」じゃないですけど、そういうことにだんだん気付いていくんです。昔はやっつけ仕事もしたし手抜きをしたときもありましたよ。

──そうだったんですね。真理や善というのは具体的に言うと?

高橋のぼる

やっぱりマンガにはマンガの神様がいるし、インタビューにはインタビューの神様がいるし、ラーメンにはラーメンの神様がいるんだよ。いい加減な濃いスープ作って体に悪いもの出してたらいつか潰れる。マンガもそうなんだよね。いい姿勢で向き合うことが大事なんだよ。

──その場しのぎで適当なことをやってたら、いつか報いがくるということですよね。わかります。では「チンピラのび~る」の今後がどうなっていくのかも、お聞きしたいのですが。

伸がマンガの持ち込みとか、賞に出したりとか、そういう話になっていくのかな。あとは巨匠・楳図かずお先生との出会いとかね。もちろん名前は変えますけど(笑)。

高橋のぼる「チンピラのび~る(1)」 / 2014年2月6日発売 / 590円 / 講談社
高橋のぼる「チンピラのび~る(1)」
あらすじ

中野伸(なかののびる)19歳、趣味はナンパ。千葉県野団市に住む底辺チンピラだ! いつもフラフラしながら、金持ちボンボンをやっつけたり、乳首の取れかかった女性を抱いたり、怪しい磁気布団を販売したりとヤンチャな毎日を送る! そんな駄目駄目のび~るが、あの傑作漫画を描く!? 「土竜の唄」の作者・高橋のぼるの「ほぼ実録」自伝にして破天荒チンピラライフ!!

高橋のぼる(たかはしのぼる)

1964年千葉県野田市生まれ。1988年、ビッグコミックオリジナル増刊に「強引(ゴーイング)’マイウェイ」が掲載されデビュー。2005年からはヤングサンデーにて暴力団に潜入捜査する警察官の物語「土竜の唄」を連載する。後に週刊ビッグコミックスピリッツ(ともに小学館)に移籍。同作は2014年2月に実写映画化された。そのほか著作に「駅員ジョニー」「警視正大門寺さくら子」「リーマンギャンブラーマウス」など。