コミックナタリー PowerPush - 高橋のぼる「チンピラのび~る」

「土竜の唄」作者による“ほぼ”自伝マンガ

高校中退前の話が本当は一番面白い

──伸は第1話からソアラを転がしてますが、その前に何をやっていたのかも気になります。

ローンで購入した高級クーペ・ソアラ2800GTエクストラを乗り回す伸。

本当はそこが一番面白いんですよ! 僕が高校に入ったときの話なんですが、工業高校で男ばっかりだったんで、この学年をシメてやろうと計画を立てたんです。ケンカなんて全然強くなかったんですけど(笑)。その話を編集さんにしたら、それ面白いのでマンガにしましょうという話になって。でもそんな長編を始める時間がなかったから、高校を中退してからの話をまず描くことになったんです。

──それがヤングマガジンで短期連載され、今回1巻に収録されている部分、と。

ええ。高校生活がバカバカしくて楽しかったんで、本当はそれを描こうと思っていたんですけどね。

高橋のぼる

──じゃあ、その話もいつか読めるかもしれないということですね。

本当はそっちが本筋なのでね。それを描こうとすると、避けて通れないのが主人公の境遇や生い立ちなんです。描かないよりは絶対に描いたほうがいいと思うので。いままでだと、適当に主人公は風呂屋の息子にしようとか、面白そうなノリで考えるんだけど、そうじゃなくて、そのまんま自分の境遇を描こうと。

──確かに現実的にありそうな感じです。「乳首の取れかかった女」とか(笑)。

本当、本当(笑)。ほぼほぼ事実なんで。若いときはこれ、描けなかったでしょうね。

経験を積んだからこそ自伝が描ける

──今は距離ができたからこそ描けるようになったんでしょうか。

それもあるし、「駅員ジョニー」を描いてる頃は、こんなの描ける能力も技術もなかったんですよ。うまく料理できなかったと思う。マンガってやっぱり経験がモノを言うんですよね。これは熟練の板前の技と一緒ですよ。巨匠と素人とじゃ、同じマグロと柳刃包丁を渡しても全然違う刺身になりますから。

モーニングで連載された初期作「駅員ジョニー」の1巻。

──美味しく切れるわけがない。

ありとあらゆる技があるんですよ。たとえば弘兼(憲史)先生のマンガなんて、読んでても構成も完璧だし、さまざまな技が炸裂してる。新人は勢いや絵の魅力があったりするけど、マンガとして総合的に見ればベテランには太刀打ちできないですから。経験を積めば積むほどいい職業ってあるじゃないですか。マンガ家はその中のひとつだと思うんですよね。

──先ほど弘兼先生は構成だとおっしゃいましたが、高橋先生が経験を積まれて、一番自信を持っている熟練の技術は、たとえばどの部分でしょうか。

うーん、偉そうなことは何も言えないですけど、盛り上げ方ですかね。盛り上げることは一応できるので。

理想の女性像は桜井幸子

──なるほど、確かに展開の盛り上げ方にはいつも持っていかれます。一方で、初期の頃と変わらないなと思う部分はどのあたりでしょうか。

絵は変わらないですね。特に女キャラは。

女性キャラを描くのに苦戦する伸。

──「チンピラのび~る」でも、女性キャラに苦戦している伸の姿が描かれていますね。

僕は絵が上手くないですから。理想の女性の絵がひとつくらい描けるだけで、あとは苦しんでますよ。女の子は描くのが難しいんです。

──高橋先生の作品に登場するマドンナは、理想の女性像なんですか?

桜井幸子さんって女優がいるじゃないですか。あれが僕の好きな顔のひとつなんです。品がある、清楚な感じの。

──なるほど、口唇にちょっと表情のある感じの。ちなみに高橋先生のキャラクターっていつも名前に特徴がありますが、どう着想されているんでしょうか。

結構適当ですけどね。伸は「(高橋)のぼる」から「のびる」になっただけだし、野団市は僕の出身地からだし。ああ、でもね、僕あれが嫌いなんですよ。講談組とか集英組とかってやつ。「考えろよ、それくらい」って思っちゃう(笑)。実在したらいけないからだろうけど、だったら「阿湖義組」とか「檄火羅組」とか、あり得ない名前あるじゃないですか。

──ははは(笑)。檄火羅組、悪そうですもんね。

あり得なくて、かつ面白い、読んだら語呂が良くてイメージできるっていうのがベストですね。読者に対するサービスですよ。

高橋のぼる「チンピラのび~る(1)」 / 2014年2月6日発売 / 590円 / 講談社
高橋のぼる「チンピラのび~る(1)」
あらすじ

中野伸(なかののびる)19歳、趣味はナンパ。千葉県野団市に住む底辺チンピラだ! いつもフラフラしながら、金持ちボンボンをやっつけたり、乳首の取れかかった女性を抱いたり、怪しい磁気布団を販売したりとヤンチャな毎日を送る! そんな駄目駄目のび~るが、あの傑作漫画を描く!? 「土竜の唄」の作者・高橋のぼるの「ほぼ実録」自伝にして破天荒チンピラライフ!!

高橋のぼる(たかはしのぼる)

1964年千葉県野田市生まれ。1988年、ビッグコミックオリジナル増刊に「強引(ゴーイング)’マイウェイ」が掲載されデビュー。2005年からはヤングサンデーにて暴力団に潜入捜査する警察官の物語「土竜の唄」を連載する。後に週刊ビッグコミックスピリッツ(ともに小学館)に移籍。同作は2014年2月に実写映画化された。そのほか著作に「駅員ジョニー」「警視正大門寺さくら子」「リーマンギャンブラーマウス」など。