「かたわれ令嬢が男装する理由」などを生んだ、ソラジマの新サービス・ソラジマTOON誕生!タテ読みマンガには珍しい読み切りがいっぱいの理由を企画者&開発者に聞く

2019年に創業したソラジマは、これまで「傷だらけ聖女より報復をこめて」や「シンデレラ・コンプレックス」など数多くのタテ読みマンガ作品を放ってきた新進気鋭の会社だ。そんなソラジマが今年10月、自社作品のみを集めたサービス・ソラジマTOONをリリース。タテ読みマンガとしては珍しく読み切り作品にも力を注ぐというそのサービスを、企画者と開発者はどのような思いで制作したのか? 企画者であるソラジマCo-CEOの前田儒郎氏と開発者であるCTOの持田章弘氏に話を伺った。

取材・文 / 太田祥暉撮影 / 武田真和

「かたわれ令嬢が男装する理由」はソラジマの転換点

──そもそも、ソラジマがタテ読みマンガ業界に参入したきっかけはなんだったのでしょうか。

前田儒郎 もともと弊社は、「今世紀を代表するコンテンツを創る」ことをミッションにしています。創業当初はYouTube用のショートアニメを制作していたのですが、生み出すにつれてどんどん海外の壁を感じてきました。日本で好評だったものがそのまま海外でも通用するわけではないとわかったんです。そこにちょうどWebtoonの波が来始めて、前述のミッションを達成するためにも方向転換することを決めました。当時としては大きな意思決定でかなり苦労しましたが、ショートアニメの制作で分業のオペレーションが整っていたこともあり、うまくいった部分もあります。試行錯誤を重ねた結果、かつての課題だった「海外でも通用する」作品を生み出すことができるようになりました。ただ当初の予想よりも、「連載を作り続け、ロングランさせる」という難易度は相当高かったのですが……。

──これまでにも従来の横読みマンガが数多く輸出されてきましたが、それらと異なりタテ読みマンガに着目された理由はなぜですか?

前田 日本では紙の本がとても流通していますけど、世界的にはそこまで多くはありません。その反面、スマートフォンユーザーは多くの国にいらっしゃいます。そのうえ、言語を右から書く文化圏と左から書く文化圏、どちらにもタテ読みだと対応しやすいので、ヨコ読みと比較してローカライズ作業がしやすいんです。この2つから、タテ読みマンガ市場に参入しようと決めました。

前田儒郎氏

前田儒郎氏

──なるほど。そんな思いから一気にソラジマ作品がリリースされていったわけですね。ちなみに、これまで配信されたソラジマ作品の中でおふたりが特に印象深いものはなんですか?

前田 「かたわれ令嬢が男装する理由」は転換点になった作品だと考えていて。国内でも好調な数字を叩き出したんですけど、北米市場でも驚くくらいの売り上げを記録したんですよね。それまでにもどうしたら海外でヒットするのか仮説を立てていたんですけど、実際に成功することができて、会社としても自信がつくきっかけになったと思います。

「かたわれ令嬢が男装する理由」メインビジュアル

「かたわれ令嬢が男装する理由」メインビジュアル

持田章弘 1作目の「婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。」からヒットしたことも、今のソラジマのあり方を形作った一因だと感じていますね。この作品がヒットしていなかったら、今のようなソラジマないしソラジマTOONのリリースはなかったのかもしれません。

「婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。」メインビジュアル

「婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。」メインビジュアル

ソラジマTOONの立ち上げは、日本のタテ読みマンガ市場を育てたいという思いから

──ちょうどお話が出ましたが、今年10月にソラジマTOONがリリースされました(参照:オリジナルのタテ読みマンガに特化した「ソラジマTOON」創刊 アプリ本日リリース)。ソラジマ作品ばかりを集めたサービスとなっていますが、これまでソラジマはほかのストアで配信していましたよね。なぜ独自のサービスを立ち上げられたのでしょうか。

前田 タテ読みマンガは韓国から輸入されてくる場合が多く、それらのほとんどはすでに向こうでヒットしています。つまり連載も長期化していて、話数が多い状態で日本に入ってくるんです。だから日本のタテ読みマンガがそれらに対抗しようとすると、話数をある程度用意してから一気に公開しなければならない。でもそんなことをしていたら準備から公開までに1年ぐらい平気でかかってしまいますよね。PDCAの速度が遅く、作家さんのこともお待たせしてしまいます。僕らがやりたいのは「今世紀を代表するコンテンツを創る」、つまりは特大ヒットのIPを作ること。そのためにはまず才能の発掘だという考えがあったので、それを実現する場としてソラジマTOONを作りました。ソラジマTOONは作家さんにとって、短いスパンで次々とチャレンジできる場であってほしい。そういった理由で、読み切りの制作に力を入れることに決めました。

持田 ソラジマTOONを作るきっかけになったのは立ち話からだったんですよね。前々から読み切りをやろうという話は挙がっていたんですけど、ほかのストアさんだとまだ置く場所が実装されていないという問題があったんです。そこで自分たちでマンガアプリを立ち上げようと決めてからは早かったですね。翌週には合宿が開催されて、方針やコンセプトや予算などすべての意思決定がなされましたから……。確かそれが今年の2月下旬だったかな。

前田 そうそう。ソラジマはプロジェクトから人事采配まで、思ったことはすぐに伝える文化があるので、些細な立ち話や飲み会がきっかけになった企画もいっぱいあるんです(笑)。読み切りを作っていくこと自体はその少し前に決めていたんですけど、ソラジマTOONの立ち上げが決まって、一気に加速していきましたね。

左から前田儒郎氏、持田章弘氏。

左から前田儒郎氏、持田章弘氏。

──ソラジマTOONがリリースされるまでには企画者・開発者それぞれに大変なことがあったかと思います。まず、編集長でもある企画者の前田さんは、読み切り作品を掲載していくためにどのようなことを意識されていましたか?

前田 読み切り作品は無限の可能性を秘めているんです。何を作ってもいいけれど、連載作品とは異なり尺が短い。そこで編集者全員の目線を揃えて、方向性を共有できるように意識していきました。読み切り作品でタテ読みマンガ業界に新たな風を吹かせることが目標の1つですから、これまでの作品とは変わったことがしたい。弊社は編集者4人で1つのサークルとしているのですが、彼らがどんな作品を作家さんと作っているのか、各サークルの全ミーティングに出席して把握することに努めていました。なんかとっ散らかってきたと感じたときには適時軌道修正していました。

持田 僕はいち開発者であって編集方針には関与していないですし、実際に公開されるまで中身は見ないようにしているんですよ。Slack上にネームが上がっても、極力目に入れないようにしていて(笑)。そうやって作っているからこそ、内部を知っている人間でも、「こんな作品が生まれるの!?」と驚くときもあります。最近だと「笑うが勝ち!」はよかったですね。あまりマンガを読んで泣くタイプではないのですが、目がうるうるしてしまいました。

前田 読み切りがヒットすれば、そこから短期連載、本連載の企画が生まれるかもしれません。従来のマンガ雑誌のように、ぜひ短編から金の卵を探してほしいですね。

──この取材はソラジマのオフィスでさせていただいていますが、いたるところに読み切りコンテストのチラシが貼ってありますよね。読み切りに対する熱量を強く感じます。

読み切りコンテストのチラシ。

読み切りコンテストのチラシ。

前田 タテ読みマンガとしては珍しい読み切りをやるわけですからね。編集者としても、なぜ作るのか懐疑的なわけです。採算も取りづらいし、通常業務も忙しいですから。なので、社内コンテストという形で盛り上げることで、頭の片隅に「読み切りであればこういう企画ができるかも?」「読み切りなら……」と考えることを狙って、オフィスのいろんなところにチラシを貼りました(苦笑)。いつか読み切りをきっかけに、作家さんの才能が解放されて、新たなタテ読みマンガが生まれていけばいいなと切に願っています。

──読み切り作品が増えるとなると、作家さんとしてもチャレンジしやすさが増しますよね。先ほど触れられたようにいきなり20話描き溜めとなると、これまでヨコ読みマンガしか描いたことのない方にはかなりのハードルでしょうし。

持田 いきなりタテ読みマンガは描けないけれど気になっている、というこれまでヨコ読みマンガを描かれていた作家さんにこそ、ぜひチャレンジしていただきたいですよね。

前田 今年度は40作品から50作品ほどタテ読みの読み切りを公開するつもりなんですが、来年度は100本を予定しています。そこから徐々に増やしていって、2030年度くらいには年間365本公開したい! となると、それはつまり作家さんの才能に投資したいということでもあります。タテ読みマンガというインターフェースで、作家さんたちがどんな才能を花開かせていくのか。ぜひ、ソラジマTOONという媒体で僕たちと一緒に作品作りをしていただきたいですね。作家さんからの連絡、お待ちしています!