コミックナタリー PowerPush - 朝霧カフカ / 仲村ユキトシ「汐ノ宮綾音は間違えない。」

「文豪ストレイドッグス」原作者の原点となる作品は「わらしべ長者」!?

ひとつのセリフを決めるのに2時間ぐらい悩んだり

──「汐ノ宮綾音は間違えない。」を作る上で、心がけていることをお聞きしたいのですが、その前に仲村さんとはどういう形で原稿を作成しているのか、伺ってもいいですか。

まず僕が脚本を書いて、そこから仲村さんがネームを切ります。で、ネームが上がったところで僕がまた確認して、改めてセリフを直したり、表情に意見させてもらったりして、作画の方針が固まり、仲村さんが完成させるという流れですね。

──その工程の中で特に気をつけているのはどんな部分ですか?

「汐ノ宮綾音は間違えない。」1巻より。

セリフを短くして、最小限の情報だけで状況を説明することにはかなりこだわってますね。短い言葉のほうが却って感情が伝わりやすかったりするので。例えば「私が倒す」と言わせるのか、「倒す」と一言だけにするのかっていうのを、2時間ぐらい悩んだりしてます(笑)。

──ワンフレーズで2時間も。

削る技術ってすごく大事なんですけど、そこはかなり磨いていると自分でも思っていて。

──セリフの簡略化以外には、どんなことを意識されてますか?

「汐ノ宮綾音は間違えない。」カット

あとはほかのマンガ家さんが考え付かないような演出が思い浮かぶように、動画的に話を考えることですね。はじめからマンガの絵で話を考えるのではなく、映像でイメージするというか。

──キャラクターがアニメーションのように動いているイメージでしょうか。

というより、俳優が演技をしているところをカメラで映しているような。

──それは意識的にやられているんですか?

自然とですね。僕自身、もともと文字や映像で話を考えてきた人間なので、そのほうが考えやすいんです。それに動画的に考えることで、メディアミックスがしやすいんじゃないかっていう(笑)。

──そこまで見据えてらっしゃる(笑)。

あとは締め切りを守ること。これ大事。

──ははは。

僕もサラリーマン時代に経験があるんですけど、ギリギリに送ってこられるとすごい腹が立ちますからね。マネジメントする側の苦労は知っているつもりなので、そこは仲村さんに苦労をかけないように努めています。でも、今のところはまだ守れてますけど、この年末はどうなるか……(笑)。

究極のこと言うと、「ONE PIECE」を作りたいんです

──「汐ノ宮綾音は間違えない。」を書いていく上で、モチベーションにしていることがあれば教えてください。

僕は割と、作家としては商業的な考え方をするタイプなんですね。何を語るかよりは、どうしたら売れるかを優先的に考えてて。でもそれは売れたいわけじゃなくて、1人でも多くの人に読んでもらいたいからなんですよ。

──よく考え方が割れるところですよね。多くの人に読んでもらってなんぼという意見と、伝わる人にだけ伝わればいいという意見と。

朝霧カフカ

作家として仕事をする以上、作家性、テーマ性、自分の考えを誰かに伝えなければという衝動は、確かにあります。が、普通は知らない人にいきなり説教なんてされたくないんですよね。

──確かに。

面白くて楽しくて、たくさんの人が熱狂するようなストーリーが長く続いていく中で、ふと深い話をされたら見てる人は「そうかもな」って思う。僕がやりたいのはそういう事です。何よりも楽しんでもらうこと、それによって多くの人に手にとってもらうこと。何か伝えるのはその後に来ると思ってます。なので僕の原動力になっているのは、1人でも多くの人に読んでもらいたい、という欲ですね。だから究極のこと言うと、「ONE PIECE」を作りたいんです。

──おお。確かに1人でも多くの人に読んでもらうという目標としては、今これ以上ない作品です。

少しでも皆に楽しんでもらえるよう頑張ります。目標3億部(笑)。

朝霧カフカ / 仲村ユキトシ「汐ノ宮綾音は間違えない。」1巻 / 2013年11月25日 / 588円 / 角川書店
朝霧カフカ / 仲村ユキトシ「汐ノ宮綾音は間違えない。」1巻

汐ノ宮綾音は窮地に立っていた。それは綾音を慕っている妹の胡桃に、パンツを盗まれたからだ。ノーパンになり怒り心頭な綾音は、異能の力で胡桃に襲いかかるのだった!? 異能と知略が融合するエクスチェンジバトル!

朝霧カフカ(あさぎりかふか)
朝霧カフカ

シナリオライター。テーブルトークRPGのリプレイ風動画をWEBで発表したことで人気を博し、「文豪ストレイドッグス」で商業デビュー。現在は少年エース(角川書店)連載の「汐ノ宮綾音は間違えない。」、ニコニコエース(角川書店)連載の「水瀬陽夢と本当はこわいクトゥルフ神話」の原作も担当している。