コミックナタリー PowerPush - 新谷かおる「クリスティ・ロンドンマッシブ」×環望「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」

月刊コミックフラッパー看板作家の師弟対談

新谷かおるがシャーロック・ホームズの姪クリスティを描く「クリスティ・ロンドンマッシブ」の最新2巻と、環望「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」の第1部と第2部をつなぐ「スレッジ・ハマーの追憶」1巻が、3月23日に同時発売される。どちらも月刊コミックフラッパー(メディアファクトリー)の看板作品だ。

この同時刊行を記念し、コミックナタリーでは新谷と環の対談を実施した。新谷のマンガを読んで育ったという環と、早くから環の才能を見込んでいたという新谷。対談ではお互いの作品についての印象から、キャラクターやストーリーの創作論まで、2人の師弟トークが繰り広げられた。

取材・文/斎藤宣彦 撮影/唐木元

 
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フラッパーって大御所作家しか載ってない本だと思って(環)

──2006年にコミックフラッパー1月号で「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」が始まり、同じ年の9月号から「クリスティ・ハイテンション」が連載開始しました。今回、両作のスピンオフ作品・続編が同時に発売になります。まずは環さんから、少し時間を遡って、連載開始の頃の雑誌の印象や、新谷かおる作品をどのように楽しまれていたかについて、お聞かせください。

月刊コミックフラッパー創刊号

環望 フラッパーって大御所作家しか載ってない本だと思って、あとから入る若造がはたしてこの中でピキッとしたものを描けるのかどうか、心配でした。まあそんなこと考えていても仕方ないので好きなもの描こうと思って描いていたら、新谷先生から面白いねって言ってもらえて。

新谷かおる タマやんは絵がね、綺麗なの。線の引き方とかが綺麗で、下積みを相当やってこないとこういう絵柄にはならない。だから「ああ、こいつ大分苦労してるよね」「骨太なものがストーリーの下に敷いてあるから、この作品大丈夫だ」って担当編集者に言ってたんです。我々にとって、作品のテーマ性は「骨」なんです。キャラを作るっていうのは「肉付け」なんですよ。で、その骨の部分がしっかりしてて肉付きが綺麗についてるから、「ああバランスとれてる、これいけるよ」と。

「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」1巻より、ミナ姫。

──「ヴァンパイアバンド」が骨太な作品と感じられたのはよくわかります。高校生のアキラの前に、古の契約によりヴァンパイアを統べる女王=少女ミナ・ツェペッシュが現れる。彼女は日本にヴァンパイア専用居住区をつくる……という、一種の建国を扱っているあたりは、大友克洋「AKIRA」以降のSFアクションだと印象されましたし、智略に長けた女性を描いたという意味では、対テロ傭兵団の女性指揮官を主人公とする新谷さんの「砂の薔薇(デザート・ローズ)」のような爽快感もありました。

新谷 言ってしまえば、新人っていうのは普通、肉だけがついちゃってるんですよ。骨が弱くて、肉で太っちゃうんで、そのまま折れちゃうことが多いんです。テーマが弱いところにキャラクターの魅力だけを投入しても作品を支えられない。

「ヴァンパイアバンド」は2巻で畳むつもりだった(環)

──おふたりにお聞きしたいのですが、話を構築してゆく時は、何が起こるかという全体像のようなものを想定してから細部を詰めてゆくのでしょうか。それとも演繹的に、話を次へ次へと伸ばしてゆく形で考えられるのでしょうか。

左から環望、新谷かおる。

 先生はマンガを最終回まで考えて描いたことあります?

新谷 えっとね、お話の作り方って大雑把に分けると2種類しかないんです。ひとつは構築型、もうひとつは、おはじき型。構築型っていうのは土台からどんどん柱を立てて、初めから設計図を見て家一軒作るつもりでやるんですよ。だから仕上がったときは綺麗なんです。ただ面白みがない。

 「やっぱり家か」ってなってしまう。

新谷 ところが、おはじき型は、いくつかのエピソードをバラッと撒いて弾いていくので、作者にもよくわからない面白い展開っていうのが出てくるんです。もちろん、両方ともメリット・デメリットがあります。構築型は途中から設定変更して、こっち側を日本家屋に、こっち側を洋風にしようなんてできないんです。最初からそれ用に土台を組んでますから。一方おはじき型は、どんどん弾いていって収拾がつかなくなる。

 あさっての方向にいったまま、拾いに行けなくなる。その場合は、なかったことにしちゃう。

新谷 でもそれ、覚えてる読者がいるんだな。話の伏線として、向こうの端っこに1個残ってますよってわざわざ教えてくれる読者がいるんだ(笑)。

「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」2巻の最終ページ。

 実は、僕はもともと構築型だったんです。連載をどこまで続けられるかわからないから、とりあえず2巻分くらいまで考えて、あとはもう野となれ山となれ、という気持ちでした。だから2巻が実はいちばん完成度が高いって、みんなにからかわれるんですよ。「あそこで終わってたら完璧だったよね」って。

──初期の構想では、2巻分で一度、広げた風呂敷を畳むはずだった。

 畳むつもりでした。東雲ななみって生徒会長が出てくるんですけど、2巻では生徒会長という役職だけで名前がなかったんですよ。3巻でそのキャラクターを拾ってきて、その場の思いつきで口にしたら面白そうな名前をつけたんですが、あとでアニメ化された時、声優さんたちに「東雲ななみって、言いにくい」ってすごく怒られた。

「どうしたらいいでしょうね」って新谷さんに聞きました(環)

環望

──新谷さんはどのあたりに「ヴァンパイアバンド」の魅力を感じていましたか。

新谷 4、5巻目あたり、おはじき型の謎をいっぱい出してしまっていて、「これにひとつずつ回答を出していくの、結構大変だぞ」と思ってました。まあでも実力はもう折り紙付きだったので、「いや、これでなんとかなるもんだよ」とも感じてました(笑)。

 5巻が終わった頃に先生にお会いしたとき、「どうしたらいいでしょうね、僕」って聞きましたもの(笑)。「一応話は続けられるんですけど、これ以上続けるっていいもんでしょうか?」ってお聞きしたら、「なんとかなるよ」って。「わかりました。もう新谷先生がそう言ったってことで……」と納得しました。

新谷かおる「エリア88」1巻

新谷 私が昔「エリア88」を描いたとき、半年でもしかしたら雑誌がなくなるかもしれないからって言われて、じゃあ半年の予定でと話を組んだら、人気が出てそのまま雑誌が続きまして。本当に途中で何回もネタ切れを起こしましたよ。でもなんとかなって、そのまま8年連載を続けましたから。

 「エリア88」は当初半年予定だったんですよね。だから、さきほど先生がおっしゃったように、骨組みだけはがっちり作っておいて、そこに肉付き・キャラクターを随時足してくっていう、こういう方法は、それこそもう「エリア88」とか「砂の薔薇」を読んで学んだことなんですよ。新谷先生のマンガのやり方を、そのまま読んでパクって描いているのです(笑)。

ホームズの姪クリスティがふとした時に出会った謎の紳士はモリアーティと名乗った。平然と悪すら肯定するその哲学に、妙な魅力を感じるクリスティ。舞踏会の後、彼女が耳にしたのは女王陛下暗殺の情報と、海外での爆破事件。2つの事件は「黒のゼウス」のキーワードで繋がって行く。そしてクリスティとモリアーティは協力してこの事件と対峙することに! 全7巻で発売された「クリスティ・ハイテンション」の続編第2巻。

ミナによるヴァンパイアバンド奪還から3カ月。深く傷つけられながらも、復興へと向かいつつある人間社会と吸血鬼社会だったが、そんな中バンド奪還の人間側の立役者・後藤元参事官が狙われる事件が起こる。 一方、彼女の右腕として活躍していた人狼の浜は、なぜか彼女の下を離れていた。10年前のふたりの出会い。2人が分かれた理由、その全てがこの事件で明かされる! アニメ化され、海外で高い評判を受け、7年にわたる第1部の連載を終えた「ダンス インザ ヴァンパイアバンド」。2部へと続く灼熱のブリッジストーリー開幕!

図らずも吸血鬼となった青年アキラと同じく不慮の事態で吸血鬼となったが人間へと戻った瑠璃。アキラはミナとアルフォンスの下でヴァンパイアバンドのトラブルシューターとして様々な事件と対峙する。様々な思いと過去を秘めた吸血鬼たち。そして人と鬼の垣根を越えた恋に、大きな事件が襲い掛かる! 2010年にアニメ化された「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」の好評スピンオフ、最新刊。「ダンス」本編の裏側を描きつつ、吸血鬼アキラの恋を描いた物語。

新谷かおる(しんたにかおる)

1951年生まれ、大阪府出身。1972年「吸血鬼はおいや!?」でデビュー後、松本零士のアシスタントを経て独立。1985年「エリア88」「ふたり鷹」で第30回小学館漫画賞を受賞。ほか代表作に「戦場ロマンシリーズ」「クレオパトラD.C」「砂の薔薇」など。精緻なメカニックと魅力あふれるキャラクター描写、新谷ゼリフと呼ばれるロマン溢れる台詞回しが人気を博している。月刊コミックフラッパー(メディアファクトリー)では、創刊号より「刀神妖緋伝」を連載したのち、シャーロック・ホームズの姪が活躍する「クリスティ・ハイテンション」、そして2011年からは「クリスティ・ロンドンマッシブ」を連載している

環望(たまきのぞむ)

1966年生まれ、東京都出身。少年サンデー大別冊(小学館)でデビュー。ダイナミックなアクションと品の良いエロティックな女性描写、ペダントリーに富んだドラマティックな物語作りに定評がある。幾多の雑誌での連載を経て、2005年より「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」を月刊コミックフラッパー(メディアファクトリー)にて連載。2010年にはアニメ化され人気を博す。同作は2012年9月に第1部を終えたが、同年11月より「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド スレッジ・ハマーの追憶」として第2部へのブリッジストーリーを連載している。マンガ原作者としても活動中。