「シアロア」|田口囁一×「覆面系ノイズ」福山リョウコ 青春を捨て、丸腰になった自分が再び描いたら

共依存的な関係、萌え要素ありまくりです(福山)

「none」より。作った曲をなぜ自分に歌わせるのか、というサエからの問いかけに答えるミナ。

福山 田口さん自身が思い入れのあるエピソードはどれですか?

田口 正体不明だったシアロアの誕生秘話として、ミナとサエというメンバー2人を描く「none」は、初めて原稿を落としそうになったので、ある意味印象深いです。実はミナがサエに「ここにはどんな楽器だってあるけど 私に男(あなた)の声は出せないもの」と言うシーン、もともと「シアロア」の連載開始を告知するチラシやポストカード用に描いたものなんですよ。この1カットにたどり着かせようと当初から決めていたので、ネームを制作するのにだいぶ試行錯誤しましたね。

福山 確かにタッチがほかより濃いので、気合いを注入して描いたのか、徐々に描き込みが増えていって自然とそうなったのか気になってたんです。

「none」より。凡庸なサエは、天才肌の幼馴染・ミナにコンプレックスを抱えていた。

田口 でもミナとサエを描くのはものすごく楽しくて。正直に言うと、自分のフェチを詰め込んだキャラクターなんですよ。

福山 え、ちょっと待ってください。私も、この2人は萌え要素がありまくりだなって思ってて。

田口 (笑)。女の子のほうはヤンデレに近いくらい相手のことが好きなんだけど、対して男の子のほうは嫌いなほど憎んでいて……でも突き放しきれなくて、みたいな。サエはミナの天才的な音楽の才能に激しい悔しさを抱きつつ、彼女の作った曲を歌わずにはいられない。一方でミナが生み出した音楽はすべてサエのものだったんですよね。

「none」より。自身のバンドが解散した日、サエは15年ぶりにミナと再会し、彼女の作った楽曲に衝撃を受ける。

福山 共依存的な関係、もう最高です……。サエがミナの音楽を初めて聴いたとき、モノローグで本心と正反対なことを言わせてるんですよね。「最悪だった」っていう言葉に、ミナに対する感情と、ミナの作る音楽に受けた衝撃がよく表れててすごくよかったです。

田口 ミナは1人で家に閉じこもっていた状況から、エピソードを追うごとにいい方向へ変化していくじゃないですか。でもサエのほうは当時の全10話を通してまったく成長してないという(笑)。

福山 言われてみれば……でもまだ未完成な少年でいてほしい気持ちもありますね(笑)。

「覆面系ノイズ」って“ちゃんとうるさい”なって(田口)

田口 ミナとサエによるシアロアの関係って、男女逆にはなりますけど「覆面系ノイズ」と同じですよね。自分の思いを込めた歌詞を、好きな相手に歌わせるっていう。

福山 確かに。というより田口さん、読んでくださってたんですか……!?

田口 はい、アニメも観てました。変な言い方になっちゃいますけど、「覆面系ノイズ」って音楽マンガの描き方として1つの正解だと思うんですよ。

福山 え!? というと……。

「覆面系ノイズ」より、in NO hurry to shout;のライブシーン。

田口 音楽そのものと、キャラクターが抱えてる問題の絡ませ方がものすごく巧みだなあと思うんです。例えばライブシーンの描写って、作品によっていろんな表現方法があるじゃないですか。詩と音符を載せたり、キャラクターの身動きだけにスポットを当てたり。そんな中で「覆面系ノイズ」は音楽に合わせて、キャラクターたちの感情をモノローグで綴っていくんですよね。音の盛り上がりと収束にかけて、心の動きが連動しているのが読んでいてとても気持ちよくて。

福山 褒めていただけてうれしいです。でも音楽と一緒にモノローグを入れるのは特別な狙いがあるわけではなくて、自然とそうなったんですよ。もともとこのマンガを立ち上げるときに担当さんと決めた約束事として、歌詞だけは書かないようにしようというのがあったので。

田口 そうだったんですね。マンガなのに音にしっかり包まれてる感があって、構図や絵柄も重なり合ってのことだと思いますけど“ちゃんとうるさい”というのが印象的でした。

福山 うれしいです……! 大学時代にサークルでバンド活動をやってたんですが、演者の視点を少し加えつつ、主に観客側の視点でジャカジャカと音が鳴っている感じが伝わればいいなと思っていつも描いているんです。

「覆面系ノイズ」より、in NO hurry to shout;のライブシーン。

田口 なるほど。ちゃんとライブの中にいる感じがしましたもん。

福山 音楽をマンガに落とし込むって、やっぱりどうしても嘘が入ってくることもあるんですよね。でも現在進行形で音楽をやっている田口さんから、そんなふうに言っていただけるなんて少し自信につながります。

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田口囁一「シアロア」

田口囁一を中心としたロックバンド、感傷ベクトルが2011年よりWebサイトにて連載した1話完結型の音楽マンガ。正体不明の覆面バンド“シアロア”と、彼らの楽曲に影響を受けるさまざまな人々の物語が交錯して描かれた。連載時には各話をイメージしたオリジナル曲も同時公開され、ネットユーザーを中心に大きな話題を呼ぶ。2012年8月には全エピソードを収録した単行本と、イメージソング10曲にボイスドラマを加えたアルバム「シアロア」を同時発売。2017年12月から新規描き下ろしエピソード「リユニオン」と共に、LINEマンガオリジナルとして再連載がスタートした。既存の第10話以降は、全編新作による隔週連載も予定されている。

田口囁一(タグチショウイチ)
田口囁一
2010年よりジャンプSQ.19(集英社)にて平坂読のライトノベル「僕は友達が少ない」のスピンオフ「僕は友達が少ない+」を連載。自身を中心とするユニット・感傷ベクトルとして2011年6月から10カ月にわたりメディアミックス作品「シアロア」をWeb上で連載し、2012年8月には本作の単行本とアルバムを同時リリースした。その後、別冊少年マガジン(講談社)で「フジキュー!!!~Fuji Cue's Music~」、少年ジャンプ+(集英社)にて「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」のコミカライズ連載を開始。2017年12月にはLINEマンガで、「シアロア」の再連載をスタートさせた。
福山リョウコ(フクヤマリョウコ)
福山リョウコ
和歌山県出身。2000年にザ花とゆめ(白泉社)に掲載された「カミナリ」でマンガ家デビュー。2003年に花とゆめ(白泉社)で10代のモデルを主人公とした「悩殺ジャンキー」の連載を開始、同作がヒットし代表作となる。その後、2008年より2012年まで「モノクロ少年少女」を発表。2013年、バンドと片恋をテーマとした「覆面系ノイズ」の連載を開始。「覆面系ノイズ」は2017年に4月にテレビアニメ化、11月に実写映画化を果たした。