田口囁一「シアロア」 PR

「シアロア」|田口囁一×「覆面系ノイズ」福山リョウコ 青春を捨て、丸腰になった自分が再び描いたら

「シアロア」は、マンガ家、ミュージシャンとして活躍する田口囁一(たぐちしょういち)のロックバンド・感傷ベクトルのWebサイトで、2011年6月から10カ月間にわたり展開されたメディアミックス企画。架空の音楽ユニット・シアロアとそれを巡る人々を描いたマンガ、そしてそのストーリーをテーマにした楽曲が毎月1話と1曲ずつ連載され、話題を呼んだ。

本作がLINEマンガオリジナルとして約6年ぶりに再始動したことを記念し、コミックナタリーでは田口と「覆面系ノイズ」で知られる福山リョウコの対談をセッティング。感傷ベクトルの大ファンで、自身の作品で音楽を取り扱っている福山は「シアロア」をどう読み解いたのか。互いに緊張しながら始まった対談は、とあるキャラクターに感じたフェティシズムや、好きなアーティスト談義で徐々に盛り上がっていく。

取材・文 / 西村萌

大好きでした、マンガ家さんとは知らずに……(福山)

左から田口囁一、福山リョウコ。

田口囁一 今日はよろしくお願いします。いやあ、緊張しますね……。

福山リョウコ いやいや、緊張してるのはこっちです! 本当に私、田口さんの作る音楽がずっと大好きで……。自分の中で“聴く曲に迷ったら感傷ベクトル”っていうのがお決まりになってるぐらいなんです。

田口 わー、ありがとうございます! 実は僕もこっそり、福山さんがTwitterで感傷ベクトルのことをつぶやいてくださってたのを拝見してました(笑)。

福山 ええっ、お恥ずかしい……(笑)。メロディももちろんですけど、歌詞も素晴らしいですよね。でも感傷ベクトルを聴き始めてしばらくは、マンガ家さんが中心となってるバンドだとまったく知らなくて。確か2年前ぐらいに「フジキュー!!!~Fuji Cue's Music~」が連載スタートするっていうナタリーさんの記事(参考:田口囁一が別マガで連載!連動した曲が感傷ベクトルのCDに)を見て、そこでようやく感傷ベクトルと田口さんの存在が一致したんですよ。だからそれまでは「シアロア」の配信ジャケットを見ても、「なんでマンガのイラストが使われてるんだろう?」って思っていて(笑)。

田口 あはは(笑)。純粋に音楽を聴いてもらえていたということが光栄です。

福山 本当に無知ですみませんでした……(笑)。でもマンガと音楽、両方で連載するって、だいぶ大変だったんじゃないですか?

田口 そうですね、当時はいっぱいいっぱいでした。もとを辿ると「シアロア」って、全10曲あるうち前半5曲はすでに同人時代に作っていたものなんですよ。そこにレコード会社さんからメジャーデビューの声をかけていただいたんですけど、「ただCDを出すだけじゃ面白くないよね。プラスアルファで何かやってみたら?」という提案を受けて、音楽にマンガを付けて発表しようと思い立ったんです。ただ少しがんばりすぎちゃいましたね(笑)。

花とゆめのポエマーとして、シンパシー感じます(福山)

「孤独の分け前」より。闘病生活を送っていた少女・まなみの葬儀に参加した渡瀬と東。

福山 面白いです……! そういう始まりだったんですか。でもマンガのほうもすごい完成度ですよね。田口さんって“多くを語らない”物語作りがめちゃくちゃお上手だと思うんですよ。オムニバス形式のショートを描くときって、それぞれの人物像を短いページで見せるために、説明がどうしても多くなっちゃうはずなんです。だけど「シアロア」は20ページ前後というページ数の中で、キャラクターの動きや会話によって今何が起こっているかというのを読者にしっかり伝えられている。例えば学校では問題児の渡瀬くんが、病院で知り合った女の子のために架空の音楽バンド・シアロアに成り代わろうとする「孤独の分け前」。ラストの渡瀬くんと東くんが並んでるシーンなんですけど、誰かが亡くなったことを2人の喪服だけで表してるんですよ。彼らの服装以外、それっぽい描写はまったくないのがすごくて。わかりやすいのに、説明が最小限なんです。余韻を残す終わり方で、ちょっと泣いちゃいました。

田口 うれしいです……! 「シアロア」は渡瀬が東をバンドに誘う「ストロボライツ」から始まりますけど、この「孤独の分け前」を描くために、各エピソードを織りなしていったようなものだったので。しかもこのエピソードの執筆中に初めて、“キャラが勝手に動く”っていうことを体験したんですよ。感傷的なシーンなんですけど、「ああ、ここで渡瀬は笑うな」ってパッと頭の中に思い浮かんで。

福山 そうそう、笑うところがまたいいんですよね。私の好きなエピソード1位になりました。

「シルク」より。部室でお茶するばかりの天文部だったが、小西は留学を決めた森澤との最初で最後の天体観測を行う。

田口 わあ、ありがとうございます。

福山 あ、でも同率1位で「シルク」も素晴らしかったです。もともと曲のほうも「シアロア」の中で一番お気に入りだったんですけど、マンガを読んだ後に聴くとさらにグッときて。2人きりの天文部員で、女の子のほうがもうすぐ留学に飛び立っちゃうんですよね。男の子は彼女のことが好きなんだけど、最後まで気持ちを伝えられず……というところにロマンチックすぎるモノローグ!「君が見落とした流星の一つだ」って……やられた! って思いましたよ(笑)。

田口 うわー、恥ずかしい! 深夜に書いたポエムを見られてるような気分です……(笑)。

福山 私、自分のこと花とゆめのポエマーだって思ってるんですけど、おそらく田口さんも相当なポエマーですよね?(笑)

田口 そう、油断するとすぐポエムになっちゃうんです(笑)。少女マンガが結構好きなので、その影響もあるのかもしれない。実は僕、花とゆめの編集部さんに「深海と空の駅」を同人誌に落とし込んで持ち込みに行ったこともあるんですよ。

福山 えー! ちょっと編集さん、逸材を逃してますよ!(笑)

田口 (笑)。「うちでは新人賞で入選しないとデビューできない」って言われて、結局諦めたんですけど。

福山 そんなことがあったとは……。でも少女マンガ誌に載っててもおかしくない内容と絵柄ですもんね。編集さんに後で名刺をお渡しするよう伝えておきます(笑)。

関連特集

田口囁一「シアロア」

田口囁一を中心としたロックバンド、感傷ベクトルが2011年よりWebサイトにて連載した1話完結型の音楽マンガ。正体不明の覆面バンド“シアロア”と、彼らの楽曲に影響を受けるさまざまな人々の物語が交錯して描かれた。連載時には各話をイメージしたオリジナル曲も同時公開され、ネットユーザーを中心に大きな話題を呼ぶ。2012年8月には全エピソードを収録した単行本と、イメージソング10曲にボイスドラマを加えたアルバム「シアロア」を同時発売。2017年12月から新規描き下ろしエピソード「リユニオン」と共に、LINEマンガオリジナルとして再連載がスタートした。既存の第10話以降は、全編新作による隔週連載も予定されている。

田口囁一(タグチショウイチ)
田口囁一
2010年よりジャンプSQ.19(集英社)にて平坂読のライトノベル「僕は友達が少ない」のスピンオフ「僕は友達が少ない+」を連載。自身を中心とするユニット・感傷ベクトルとして2011年6月から10カ月にわたりメディアミックス作品「シアロア」をWeb上で連載し、2012年8月には本作の単行本とアルバムを同時リリースした。その後、別冊少年マガジン(講談社)で「フジキュー!!!~Fuji Cue's Music~」、少年ジャンプ+(集英社)にて「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」のコミカライズ連載を開始。2017年12月にはLINEマンガで、「シアロア」の再連載をスタートさせた。
福山リョウコ(フクヤマリョウコ)
福山リョウコ
和歌山県出身。2000年にザ花とゆめ(白泉社)に掲載された「カミナリ」でマンガ家デビュー。2003年に花とゆめ(白泉社)で10代のモデルを主人公とした「悩殺ジャンキー」の連載を開始、同作がヒットし代表作となる。その後、2008年より2012年まで「モノクロ少年少女」を発表。2013年、バンドと片恋をテーマとした「覆面系ノイズ」の連載を開始。「覆面系ノイズ」は2017年に4月にテレビアニメ化、11月に実写映画化を果たした。