コミックナタリー Power Push - 絹田村子「さんすくみ」
「最注目新人」が愉快に描く 寺・神社・教会ジュニアのゆるふわデイズ!
神社・お寺・教会の跡取り息子3人を主役に、宗教法人の現場で巻き起こる日常劇を描いた「さんすくみ」。世間一般のイメージする聖職者とはギャップのある、ほぼ普通の若者、けれどやっぱりどこかズレてる3人の生活模様に注目が集まっている。
この「最注目の新人」と太鼓判を押される絹田村子はいかなる人物なのか、コミックナタリーでは絹田の正体を探るべく、掲載誌flowersの編集長武者正昭氏と、担当編集の由木デザイン真島聡氏、重鎮ふたりを迎えて「さんすくみ」鼎談を企画してみた。
取材・文・撮影/唐木元
私にしか出せない企画ってなんだろう
──きょうは作家さんと担当編集と編集長、3人の関係者に集まっていただきましたので、いわば「さんすくみ」鼎談として、作品の魅力についてお話できたらと。
絹田村子 ありがとうございます。何かすいません、大ごとになってしまって……。
──ちょっとオジサンに囲まれて話しづらいかもしれませんが、許してください。さて「さんすくみ」はお寺の子、神社の子、教会の子の仲良し3人組が主人公という、なかなかにキャッチーな企画です。これはどこから思いついたのでしょうか。
絹田 まだ担当が真島さんになる前なんですけど、プロットを3本ずつ提出していくという課題みたいのがありまして。そのときに、「あなたにしか出せないような企画を考えてみては」って言われたんですね。
真島聡 前担当の方ですね。
絹田 それで、私にしか出せないものって何だろう……自分が体験したことで考えてみたらいいかもって考えたら、正月に巫女さんのバイトに行ったことがあったんです。それなら地元の感じも出せるし、ちょっといいかなと思いまして。
──巫女さんてバイトなんですね。
絹田 大きい神社の、お正月の人手が要るときは、高校生や一般の方なんですよ。私が働いたところは本職の方と区別が付くようになっていて、(和服の)合わせが多いとか髪の飾りが豪華な人が本職の人です。
──もうそれだけで面白いですね。でも神社コメディにはしなかった。
絹田 イメージしてた神社の近くにお寺があるんですよ。だから神社の息子さんで読み切りを考えてたときに、近くに同じ境遇の友達がいたらいいなって思って、お坊さんの友達を作ったんです。そのお話を前の担当の方に見せたら、いっそもう1人、教会も入れたらどうですかってことになり、それで3つ揃ったんです。
ほんとに僕が言ったんですか?
──そのシリーズ読み切りを集めて、最初の単行本「読経しちゃうぞ!」がリリースされました。連載になるとき、タイトルを変えたのはなぜですか。
真島 「読経」のままだと、どうしてもお寺の子メインみたいに見えてしまいますから。そうじゃなくて3つの宗教の3人が主人公だってことを見せたかったので、変えた方が良いと思いました。
──確かに「さんすくみ」は作品自体をよく体現しているタイトルですよね。これはどなたの案ですか。
絹田 基本的には自分で考えるんですけど、これは武者さんがですね、ご飯をご一緒させていただいたときに、さんすくみって単語をおっしゃったんですよ。
武者正昭 え、僕が?
絹田 ぜんぜん関係ない話をしていたときに。覚えてらっしゃらないと思うんですけど。
武者 覚えてないです。まったく。
真島 私も覚えてないです。そうだったんですか。
絹田 候補はいろいろあったんですけど、まあこれがちょうどいい単語で。
真島 決めるときはほとんど迷わず決まりましたもんね。
武者 ほんとに僕が言ったんですか? 状況も覚えてない。
──絹田さんのアンテナにだけ、引っかかっていたんですね。
武者 言った本人は割と忘れてるもんなんですよね。けっこうそういうもんで、昔も似たようなことがありました。メシ食いながら冗談パカパカ言い合ってたら、誰かが「それだー!」って。言った本人より拾い上げる人がすごいんです。でもそうか、僕が言ったのか。それはよかったですね(笑)。
絹田村子(きぬたむらこ)
9月24日生まれ奈良県出身。第36回コミックオーディション銀の花賞受賞を受賞した「道行き」が、月刊flowers2008年9月号(小学館)に掲載されデビューした。読み切りシリーズをまとめた初単行本「読経しちゃうぞ!」を2010年に刊行。月刊flowers2010年4月号から、「読経しちゃうぞ!」の設定を引き継いだ「さんすくみ」を連載している。月刊flowersの増刊誌・凜花でも「花食う乙女」を連載中。