LINEマンガのランキング上位に突如現れた「作戦名は純情」って?話題のwebtoonをマンガライターが読み、人気の理由を徹底分析

LINEマンガで連載されている「作戦名は純情」は、主人公の女子高生が“人が一生の間に愛される量”が見える不思議なガラケーを手に入れたことから始まる物語。2022年11月に連載が始まったばかりだが、LINEマンガの2023上半期ランキングでは人気作がひしめく中で初登場7位にランクインした。

瞬く間にLINEマンガの人気作となった「作戦名は純情」は、一体どこが人々の心を惹きつけているのか。その理由が気になったコミックナタリーは、月に100冊以上のマンガを読むというマンガライター・ちゃんめいに同作を分析してもらった。さまざまな魅力が見えてくる中で、導き出される1つの答えとは──。

「作戦名は純情」

人は一生を通して「愛される量」が決まっているという。しかし高校生の木無愛実は「愛される量」がゼロ。彼氏からの扱いも雑で、ついには自分の妹同然である親友と浮気されてしまう。そんな最低な運命を変えようと、愛実は同じクラスの無愛想男・橘蓮とある作戦を実行。ところが、その作戦を進めていく中で2人は惹かれ合っていき……。

「作戦名は純情」より。

第1話はこちらから!

愛すことはすべてを凌駕する、そんな希望が見たくて

文 / ちゃんめい

誰からも好かれてかわいがられる。そんな“愛されキャラ”な人、あなたの周りにもいないだろうか? 例えば愛嬌があったり、周囲のムードメーカーであるなど、愛されキャラと呼ばれる人の特徴はいくつか具体的に挙げられる。ならば、その特徴を意識して振る舞うことで自分もなれるのではないかと考えたこともある。けれど、時には失敗や失言さえも笑って許されてしまう……目に見えない不思議な力が働いているとしか思えないような、天性の愛されキャラを目の当たりにすると、どうしてもこう感じてしまうのだ。自分が“愛されキャラ”なのかどうかは、生まれながらにして決まっているのではないかと。

愛される力とは天性? この世の真理を奇抜な設定で突いていく

ここ最近LINEマンガのランキング上位を席巻している「作戦名は純情」では、人が一生の間に“愛される量”は決まっているという奇抜な設定が組み込まれている。つまり、愛される力は天性だと言われているのだが、それはこの世の真理を突いているようにも思う。そして、主人公である女子高生の愛実は、世にも珍しい生まれながらにして“愛され量ゼロ”という過酷な運命を背負っているのだ。

愛実が手に入れた不思議なガラケーでは、メーターの数字で“愛される量”が可視化される。

愛実が手に入れた不思議なガラケーでは、メーターの数字で“愛される量”が可視化される。

とはいえ、愛実は優しい両親に、美人で自慢の親友で妹のように思っている来夢、そしてイケメンの彼氏・智哉に囲まれ平穏な日々を過ごしている。一見すると、どこが“愛され量ゼロ”なのか?というほどに割と恵まれている状況の愛実。けれど、物語が進むにつれて「本当に付き合ってる?」と疑いたくなるほど智哉からは酷い対応をされていること、そして智哉は来夢と浮気関係にあることが明らかになる。

悲惨な状況にもかかわらず、智哉に尽くす愛実は周囲から完全にイタい女扱いをされているし、読者から見てもこれは確かに……と頷きたくなるほどに愛実は“愛されキャラ”とは程遠い存在として描かれている。そんな彼女は、ある日“愛される量”が見えるという不思議なガラケーを手に入れたことをきっかけに、自らの愛され量がゼロであることを目の当たりにする。つまり、智哉とうまくいかないのも、周囲からの扱いも、すべて、すべて必然だったと思い知るのだ。

愛され力もビジュも抜群! 主人公を取り囲む個性豊かなイケメンたち

愛実が手に入れた不思議なガラケーは、人に向けるとまるで体温計のごとく、その人が一生の間に愛される量、これまでに愛されてきた量が数値で表示される。数値が高ければ高いほど、学園の人気者であったり、告白される回数が多かったり……本作の世界では、人は外見でも内面でもなく、生まれ持った“愛され量”が周囲からの扱いや人間関係に大きく影響するのだ。

清々しいほどにそのどちらもゼロの愛実は、なんとかして“愛され量”を増やし、自分の運命を変えるべく人知れず奮闘することになる。そんな彼女の周囲には、皮肉にも十分な“愛され量”を持って生まれたものたちが集う。

例えば、横暴な振る舞いですら魅力に変えてしまう彼氏の智哉。そして、のちに愛実の救世主となるイケメンだけど無愛想な蓮。さらに、アイドル級の美貌とミステリアスな空気を醸し出す百谷……。彼らのビジュアルは、抜群の頭身、スッと通った鼻筋に切れ長の目、トレンドを感じるヘアタイルといった、webtoonではお馴染みの“こなれ感”のあるスタイリッシュなタッチと贅沢なフルカラーで描かれているが、誰1人といって被らないかつ、圧倒的なビジュアルがとにかく目を引く。

さらに言及すると、軟派だけれどワイルドさも感じるオオカミ系の智哉、シックな魅力が溢れるクール系の蓮、王子様のような美貌に反して強めな物言いが目立つ、ヤンキー系の百谷……彼らのジャンル違いのビジュアルはもちろん、内面を知っていくうちに、誰か1人は必ず夢中になって追ってしまう。そんな個性豊かな男性キャラクターたちが「作戦名は純情」を一層盛り立てる。

左から遠野智哉、橘蓮、百谷玲央。

左から遠野智哉、橘蓮、百谷玲央。

「好き」をもぎ取る? 世にも珍しいヒロインの行動原理

愛実はそんな魅力的な男性キャラクターたちとどんな恋に落ちるのだろうか?と、期待したのも束の間。実はここで冒頭に説明した奇抜な設定が活きてくる。もう一度整理すると、「作戦名は純情」の世界では愛される力とは天性であり、主人公である愛実は、生まれながらにして“愛され量ゼロ”という運命を背負っているのだ。

自分の運命を変えるべく、愛実は不思議なガラケーを片手に“愛され量”を増やそうと、数々の「作戦」を企て奔走していく。例えば、智哉に一生懸命に尽くしたり、逆に嫉妬させることで愛を深めようとしたり……。その過程には、“愛され量ゼロ”というワードから感じる悲壮感は一切なし。ハイテンションなラブコメ感が漂っており、心地よいテンポのよさで読者のスクロールする手を誘導するが、この愛実の行動こそが本作のユニークな点である。

(左)智哉と関係を再構築するため、夜な夜な作戦を考える愛実。(右)こちらは愛実が作戦をしたためたノート。愛実は蓮が来夢のことを好きだと思い込んでいるため、智哉と来夢が別れれば蓮にとってもメリットがあるだろうと考える。

(左)智哉と関係を再構築するため、夜な夜な作戦を考える愛実。(右)こちらは愛実が作戦をしたためたノート。愛実は蓮が来夢のことを好きだと思い込んでいるため、智哉と来夢が別れれば蓮にとってもメリットがあるだろうと考える。

元来、恋愛がテーマの作品において、ヒロインの行動原理は「好き」の一心で、思いを伝えるために、あるいは両思いになるために、奔走する姿はよく見受けられた。だが、愛実は違う。自分が本当に好きなのは誰か?という恋愛感情を置き去りにして、相手からの「好き」即ち“愛され量”をもぎ取るために駆け回るのだ。