歌詞はどうやって書いている?
カミツキ 歌詞を書くときって、どういうふうに生みだしていくんですか? 物語を作るのとは違うわけじゃないですか。どうやって書いているのか、あまり想像がつかないんですよね。
獅子志司 僕の場合はピアノを弾きながらメロディを歌ってみて、そのときに自然に出てきた言葉を拾っていくことが多いです。「この響きいいな」と思ったら、そのワードを紐解いて前後のつながりを作っていく。さっきレイニー先生がおっしゃっていた「家が燃えるシーンを起点にストーリーをつなげていく」というお話と、たぶん近いんじゃないかと思います。何か1つアイデアが出たら、それをもとに膨らませていく感じですね。
カミツキ なるほど。それに加えて、獅子志司さんの場合は韻を踏んだり、メロディに言葉尻を合わせたりもあるわけですよね。
獅子志司 そうですね、韻はマジで大事にしています。
カミツキ 豊富なボキャブラリーがないとできないことだと思います。韻も踏みつつ、文字数も合わせつつ、「シーカー」においてはしっかり物語にもなっている。しかも最初と最後で「大罪」と「大海」が対になっていたりとか、途方もないパズルの組み方をされているのがすごいなあと。
獅子志司 いやいや、ありがとうございます……!
カミツキ あと、ちょっと細かいことなんですけど……1番の最後で「裏腹に煌めく青緑に」となっている部分が、ラストのほうでは「項垂れたひとたび 青紫」となりますよね。この「青緑」と「青紫」は何かの暗喩だったりするんですか?
獅子志司 「青緑」は沖縄の海をイメージしたもので、「青紫」は死体の色ですね。海上での戦いで、くじけたやつから先に死んでいくイメージというか。
カミツキ はあー、なるほど。そういうふうにつなげて詞になっていくんですね。もう1個気になったのが、鳥のモチーフが出てくるじゃないですか。「鴨」と「鶴の一声」と。
獅子志司 海っぽさを想起させるものが欲しいなと思って「鴨」を出したんですけど、あとで調べたら、カモって沖縄にはいないらしくて(笑)。
(マネージャー注釈:こちらは誤りです。彼はカモメを鴨だと思って話しています。鴨は沖縄に生息しております)
カミツキ そうなんだ、それは知らなかった(笑)。でもあれですよね、「鴨」は“奪われる者”の比喩ですもんね。それとの対比として、気品の象徴である「鶴」が出てくるのが面白いなと。そういう細かなレトリックを、メロディという制約の中でやっているのが本当にすごい。「この言葉はどうしても入らないな」とかって、やっぱりありますよね?
獅子志司 全然あります。そういうときはなんとかして削って、音数に合わせていくんですけど。
カミツキ それはたぶん、マンガのフキダシに合わせてセリフ量を調節する作業と近いのかもしれないですね。
獅子志司 そうですね! まさにその通りだと思います。
一生、好きな作品とだけコラボしたい
カミツキ コラボMVのほうも、めちゃくちゃ「琉球バッカニア」をイメージした映像に仕上げてくださっていて。ここを入口にして、獅子志司さんのファンをはじめとした多くの方に「どんな物語かな?」と興味を持っていただけたらいいなと思います。
獅子志司 MVはMVとして単体でも楽しんでほしいんですけど、やっぱり「琉球バッカニア」という作品があってこそのものなので、僕としてはどっちも味わってもらいたいです。
カミツキ 将来的には、アニメ化されてほしいなと思いますね。
獅子志司 そうですね! アニメ化してほしい!
カミツキ 曲を聴いていると、キャラクターたちが動き出す感じがするんですよ。僕はよく物語を考えながら散歩をするんですけど、最近は気がつくと頭の中で武太たちがアニメーションとして生き生きと動き始めている(笑)。おかげさまでプロット作りが楽しくなりました。
獅子志司 お話を考えるときって、普段から音楽を聴かれるんですか?
カミツキ 普段は洋楽が多くて。日本語の歌詞だと別のイメージが入ってきちゃうので……でも、「シーカー」に関してはバリバリの「琉球バッカニア」の歌なので、むしろイメージを増幅してくれる。もうプロット作りのときのテーマソングみたいになっています。
獅子志司 うれしい……! 最初にも話しましたけど、僕はいつも曲を書くときは自分でシナリオみたいなものを作って、物語をイメージして書いているんですね。だから今回のように、初めからできあがった物語が存在してくれていると、その手順をスキップできるからものすごく作りやすいんです。今まではこんなふうにタイアップで曲を書くことがほとんどなかったので、「好きな作品とのコラボだとこんなに書きやすいんだ?」と実感しました。もう、一生好きな作品とだけコラボしていたいなと思うくらい(笑)。
カミツキ アニメ化が実現した暁には、ぜひ獅子志司さんにオープニングを歌っていただいて。
獅子志司 いやもう、本当にそうなってほしいです(笑)。そのためにも、まずはやっぱり「琉球バッカニア」に大ヒットしてもらいたいですね。僕が好きになったこの物語を多くの人に楽しんでもらいたい、という気持ちを込めて「シーカー」を作ったので、作品がどんどん広がっていくことを期待しています。
カミツキ 獅子志司さんの影響力はすでに多大なものがあると思うので……先日ライブにも行かせていただきましたが、お客さんたちが熱狂している姿を目の当たりにして、これだけ多くの人の心を動かしている方なんだなと感服しました。我々物書きは、なかなかああやってお客さんとダイレクトに向き合える機会はないですから。
獅子志司 確かにそうですよね。
カミツキ 獅子志司さんが売れれば売れるほど「シーカー」を聴く人たちも増えるわけだから、これは未来が明るいぞと(笑)。今後のご活躍も大いに期待しております。
獅子志司 ありがとうございます! 「琉球バッカニア」の今後の展開にも期待しております!
コラボ楽曲「シーカー」のMVは、獅子志司のYouTubeチャンネルにて12月17日(水)19:00公開予定
──「琉球バッカニア」で作画を手がけることになった経緯について教えてください。
Xのダイレクトメッセージにて現担当さんから「こういうストーリーの話を制作中で、作画を探してる」と話をいただき、和風っぽいキャラや殺陣を描くのが好きだったため、やってみることにしました。ロボット系や西洋ファンタジー、スポーツものだったら引き受けていなかったと思います(興味が全く無いものを嫌々描くのは原作者さんや読者さんに失礼でしかないので……)。自分自身、マンガで伝えたいことが何もなく、ただバトルだけ描いていたいと思ってたところに、作画として話が来ました。0から話を作るのは苦手ですが、そこからより魅力的な作品になる手伝いをしていきます。
──原作のカミツキレイニー先生とのやり取りで、印象に残ってることはありますか?
連載前、キャラデザを決める際、ただのデザインとして主人公の口に丸い墨を描いたのですが、コレをカミツキさんが「江戸時代にあった入墨刑」として主人公の設定を「罪人」に路線変更していたことがあり、とても柔軟な方だなと思いました。
──土井先生はこれまでも原作付きの作品を手がけてきたと思いますが、作画を手がけるうえで特に心がけていることはなんでしょうか?
「見やすさ」です。「絵は上手いけど何やってるかわからない」は作画担当としてもったいないと思っていて、バトルシーンは特に、何やってるかわからなければ読者はストレスなので、バストアップの多用は控えて、立ち位置のわかるコマを入れるようにしています。上手に描くだけではなく、フキダシの位置や読みやすく構図を工夫することも心がけています。
──「琉球バッカニア」は幕末が舞台の作品です。時代物ということで下調べなどの準備や、書き慣れていない絵も多く登場するかと思うのですが、何か工夫されていることはありますか?
まったく下調べなどしていなかったので、琉球の建物・植物・衣装など詳しい人には「これ琉球?」となってしまったことに気づいてから入念に調べることを学びました。資料はいろんな角度からの画像が欲しいため、Googleレンズで探し回っています。
──特にお気に入りのキャラクターや、思い入れのあるキャラクターはいますか?
薩摩陣営にいた顔にのれんのような布を垂らしたキャラがお気に入りです。出番はほぼなかったですが、デザインが好きです。清国の巨体もいいキャラしてると思います。オネエキャラで強そうなのがカッコいいです。清国は黒服で統一感があり全体的にカッコいいです。
──特に印象に残っているシーン、エピソードやシーンはありますか?
9話にエカチェリーナがシタルを銃で撃つシーンがあるのですが、本当に撃つとは思いませんでした。命落とすとかはなかったですが、脅しの道具ではなかったので緊張感が高まったシーンでした。全体で言うと、心泉のバトルシーンはスピード感もあってカッコいいです。
──今回、獅子志司さんとコラボの話を聞いたときはどう思いましたか?
ボカロ曲で育ったので、獅子志司さんの名前は知っていました。ですが曲は聴いたことがありませんでした(汗)。ですが、マンガをもとに曲を作ってくださると聞いて、うれしくないわけがありません。こういうコラボがあること自体知らなかったので驚きもありました。この機会にYouTubeにある曲すべて聴かせていただきました。前奏や間奏に入るピアノが印象的で「うつけ論争」が特に好きでした。和風テイストの曲も素敵でした。
──コラボ曲の「シーカー」を聴いたときの感想を聞かせてください。
とても好きな曲でした。自分が好きになる曲は、歌詞とかよりも聴き心地で決めてしまうのですが、「シーカー」は獅子志司さんらしさ(?)であるピアノが入っていて、サビ終わりの急に変わるところが特に刺さりました。2番は1番と違ったリズムなどもあり、和楽器が使われているところも含め耳に残る曲でした。
──最後に、読者へメッセージをお願いします。
迫力のあるバトルシーンをもっと届けたいです。
プロフィール
カミツキレイニー
沖縄県出身の小説家。2011年に「こうして彼は屋上を燃やすことにした」が小学館ライトノベル大賞の大賞を受賞し、同作で作家デビュー。代表作に「憂鬱なヴィランズ」「七日の喰い神」「魔女と猟犬」などがある。
カミツキレイニー (@kamitsuki_rainy) | X
獅子志司(シシシシ)
2018年より動画共有サイトに楽曲を投稿しているボカロP。ボカロ曲を投稿するのと同時に自身が歌唱するセルフカバーも投稿しており、ボーカリストとしても活動している。
土井那羽(ドイナウ)
愛知県出身。主な作品に「琉球バッカニア」(原作:カミツキレイニー)、「ブルーウルスス」(原作:サンドロビッチ・ヤバ子)などがある。

