楽園 Le Paradis [ル パラディ]|竹宮ジンがナビゲートするガールズラブの“楽園”

恋を描くと戦争になる? シギサワカヤ「プレパラート」

──第26、27号に掲載されている、シギサワカヤさんの「プレパラート」は、女子高校生同士の言葉にしづらい関係を描いたものです。友達が少ない暗い女子高生・八田が、ある一件をきっかけに孤立した、明るい同級生・崎谷と仲良くなるんだけれど……という話です。

「プレパラート」前編より。

シギサワさんのマンガは、いつ読んでも、「これはもしやバトルマンガなのでは?」という気持ちになりますよね。キャラクター同士の殺し合いが繰り広げられている……。

──「恋愛ではなく戦争マンガを描いている」と、ご本人もおっしゃっていますね。もともと戦中のヒューマンドラマをお描きになりたくて、でも人や兵器を描くのが大変なので「最小の単位で戦争してるのが、人と人との戦い……つまり恋愛かなって」と(参照:楽園特集 蒼樹うめ×シギサワカヤ×位置原光Z×幾花にいろ座談会、中村明日美子&竹田昼インタビュー)。

ああ、やっぱり。読むと、すごく体力を持っていかれる。それほど惹き込まれるということなんですけども。単行本の「誰にも言えない」に収録されている「エンディング」を読んだときも、寝込むかと思いました。

──職場同士で付き合った女同士が、お互いを愛し合うがゆえにこじれていく話ですね。確かに寝込んでもおかしくないくらい、ヘビーな感情が描かれています。

「誰にも言えない」

衝撃ですよ。「静実(つぐみ)ちゃんのような女、いる!」って思って。ものすごく刺さりました。

──周囲や将来のことも考えず、一途に感情をぶつけてきて、見境がなくて、でも肝心なところで逃げて、恋人であり上司である恵を苦しめていく……という静実のキャラクターの造形、本当に圧倒されました。

人の心の抉り方が、あまりにも鮮烈ですよね。初読のときは、静実に対しての怒りが本当に抑えられなくて、「うーーっ!」と唸りました。つまり、読者を本気で怒らせたり悲しませたりする作品が描ける人なんですね。「プレパラート」も、八田は崎谷に心惹かれていく一方で、「できる子」である崎谷へのジェラシーをだんだんと募らせていく。

──感情のこんがらがり方がすごいですよね。

シギサワさんって、Twitterとかだととてもかわいらしい方なんですよね。作品を読むたびに、そことのギャップにも圧倒されます。

ガールズラブの“楽園”描き下ろしイラスト

シギサワカヤ

シギサワカヤ

黒咲練導

黒咲練導

西UKO

西UKO

ドロドロが癖になる。ハルミチヒロ「蓮の花」

「蓮の花」より。

──同じく26、27号では、ハルミチヒロさんの「蓮の花」も掲載されています。これは、人気モデルの兄を持ち、友達のたくさんいる女子高生・かりんと、かりんがどうしても「きらいなやつ」として意識してしまうクラスメイト・静の関係を描いた前後編です。

ハルミチヒロさんも、本当にすごいですよね。きれいな絵柄なんですけれど、人間のドロドロした内面を描くのがとてもうまい。しかも、そのドロドロが単一じゃなくて、それぞれのキャラクターに合わせたものになっている。大人の話なら大人ならではのドロドロだし、今回のように女子高生の話なら、女子高生ならではのドロドロだし。

「あにいもうと」

──シチュエーションは多種多様ながら、いつもリアリティがありますよね。例えば「あにいもうと」では、お兄ちゃんが好きすぎて彼の連れてきた婚約者が許せない妹の気持ちと、それに負けじと対話をする婚約者の思いがしっかりと描かれていて、子供ならではの葛藤と、大人ならではの葛藤の対比が素晴らしかったです。一方、「あにいもうと」と同じ単行本に収録された「ガールフレンド」では、同じ学校の中でも所属する集団によって異なってくる女子の気持ちを細かく描いています。

「想いの欠片」を描いているときも痛感しましたが、リアルな学生同士の、今この時代の百合を描くというのは、とても難しいことです。相手との連絡手段ひとつを取っても、描いているこちらが高校生時代に経験したことと、今の高校生を取り巻く環境って、全然違うから。

──確かにポケベル、ガラケー、スマホとガジェットは移り変わってきていますし、それに伴って、生じる問題や葛藤も変化していますね。

ハルミさんはそうしたリアリティをきちんと押さえて、人間の感情を深いところまで描いている。しかも、読んだ後味が悪くないんですよね。「怖い!」と思う部分もありつつ、どこか懐かしさもある。

ガールズラブの“楽園”描き下ろしイラスト

ハルミチヒロ

ハルミチヒロ

林家志弦

林家志弦

平方イコルスン

平方イコルスン

──懐かしさを感じるというのは、共感できるということかもしれません。「蓮の花」のかれんは、「ネット掲示板に、静についての嘘を書き込む」という悪意に満ちた行動をとるんですけど、彼女の心の機微がしっかりと描かれてるので、「でも、かれんの気持ちわかる! こんな気持ちになったことある!」と。

それでいて、かれんに肩入れしすぎずに、ドロドロも丁寧に描くじゃないですか。前編を読み終わった時点では「私だったらこの話の続きなんて描けない……」と思いましたよ。

飯田編集長 竹宮さんは、ドロドロになりきる前に、スパーンと「さよなら」を突きつける展開が多いですもんね。

私はちょっと甘いところがあるんですよ。失恋の話を描くにしても、キャラが悲しい状態を続けたくないから、切れ味がよくなるのかもしれません。ハルミさんには、ドロドロをドロドロで終わらせられる力があるんですよね。そこが素晴らしいと思っています。

楽園 Le Paradis [ル パラディ]第27号
発売中 / 白泉社
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中村明日美子、蒼樹うめ、木尾士目、シギサワカヤ、水谷フーカ、かずまこを、黒咲練導、迂闊、鶴田謙二、ハルミチヒロ、kashmir、位置原光Z、panpanyaほか豪華執筆陣に加え、幾花にいろ新連載第2話掲載!

シギサワカヤ「君だけが光」
2018年7月31日発売 / 白泉社
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“ダメ社会人ガールズラブ”をテーマにした異色のシリーズ全10話と、高校時代の出会いから社会人になっての再会までを描いた「プレパラート」全話を収録した著者初のガールズラブ作品集。

かずまこを「純水ルミネッセンス」
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年の差ガールズラブの最高峰コミックス「純水アドレッセンス完全版」の続編5本と、BL同人誌を軸に芽生えた女の子同士の恋愛を描く異色GL「楽園まで、あと…」を全話収録したガールズラブ作品集。

竹宮ジン「想いの欠片」がボイスドラマ化

声優陣によるボイスドラマを楽しめるサービス・A-koeにて、7月27日より竹宮ジン「想いの欠片」のボイスドラマが配信スタート。ヒロインの高岡ミカ役は赤﨑千夏、年下の美少女・原田マユ役は田中あいみ、マユの友人・伊藤サキ役は稗田寧々、「カフェPiece」のマスター・松本タカコ役は髙瀨友が演じる。

竹宮ジン(タケミヤジン)
竹宮ジン
6月13日生まれ。大阪在住。2007年に創作百合ジャンルで同人活動を始め、2009年にコミック百合姫(一迅社)にて商業デビュー。同年、楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)にて、「想いの欠片」で商業初連載を果たす。2018年7月、「想いの欠片」がA-koeにてボイスドラマ化。同年8月より、コミック百合姫で初の連載を開始する予定。現在白泉社より6冊、一迅社より10冊の単行本が発売中。