楽園 Le Paradis [ル パラディ]|かずまこを×水谷フーカが表現する“恋” 鶴田謙二×kashmir×panpanyaが伝えたい“背景”

中村明日美子、蒼樹うめ、木尾士目、久米田康治、沙村広明ら大ヒット作を持つ作家から、8年かけてデビュー単行本を上梓した竹田昼、成人誌で人気を誇る新鋭・幾花にいろまで多種多様な作風のマンガ家たちが、のびのびと自作を発表する “楽園”。2月・6月・10月と年3回だけ、じっくりと時間をかけて制作され、刊行される楽園 Le Paradis [ル パラディ]が今、充実の時を迎えている。

コミックナタリーでは、楽園の連載作を彩る“恋”と“背景”というテーマに注目。それぞれ高校生と中学生の恋愛ストーリーを発表してきた「ディアティア」のかずまこを、「14歳の恋」の水谷フーカに“恋”を描くことについて思うところを聞いた。また「ポム・プリゾニエール La Pomme Prisonniere」の鶴田謙二、「てるみな」「ぱらのま」のkashmir、「枕魚」「二匹目の金魚」のpanpanyaの3人に、その独特の背景への考えを語ってもらった。さらにデビュー20周年を迎えた宇仁田ゆみへのメールインタビューも掲載しているので、合わせて楽しんでほしい。

取材・文 / 増田桃子

「ハーレムもの」って言われた瞬間に「なるほど」と思った(かずま)

──今回は5名の皆さんに集まっていただきましたが、水谷フーカさん、かずまこをさんに「恋愛」、鶴田謙二さん、kashmirさん、panpanyaさんには「背景」というお題で、それぞれお話していただければと思っています。まずはかずまさんと水谷さんが「ディアティア」と「14歳の恋」を楽園で描かれることになった経緯について聞かせてください。

かずまこを 編集の飯田さんに、楽園ができる前から「一緒にお仕事しませんか」というお話をいただいて。でも当時、私はデビューしたてでなかなか執筆のサイクルも掴めなかったんです。自信ないですって話をしているところに、「新しく4カ月に1度の雑誌を作ることになったのでいかがですか」と。

水谷フーカ 「14歳の恋」は、楽園第2号に掲載された「GAME OVER」という作品のプロットを出したとき、飯田さんに「あなた、中学生の恋愛を描きなさい」と言われて(笑)。「描きます」と言ってスタートしました。

──中学生の恋愛、と言われてどう思いましたか?

かずまこをが、水谷フーカの「14歳の恋」のキャラクターを描き下ろした。

水谷 あまり恋愛マンガには触れてこなかったので、「大人の恋愛を」と言われるよりはイメージしやすかったと思います。私は楽園で描く前に百合マンガを描いていたので、男女の恋愛マンガというのはこのときがほぼ初めてで。だから「中学生」って具体的に言っていただけたのはありがたかったですね。漠然と「男女ものの恋愛で」って言われても困ってしまったと思います。

かずま そういう意味では飯田さん、「ディアティア」のときは「ハーレムものを」でしたね。

水谷 へえ、面白い!

かずま そうなんですよ。私も男女の恋愛ものを描いたことがなくて、楽園のテーマが「恋愛」と聞いたときは、男女ってどうやって恋愛してたっけ?ってすごく迷ってしまったんですけど、「ハーレムもの」って言われた瞬間にやることが見えてきました。

水谷 そういうものですよね。私はあと「セーラー服で」とも言われて。「14歳」と「セーラー服」がお題でした(笑)。私は百合作品も、百合が大好きだから描いていたというよりは、「女の子同士を描いてみませんか」と言われて、面白そうだなと思って描き始めたんですよ。

かずま 百合もお題の1つというか、シチュエーションの1つっていう捉え方ですよね。

水谷 ええ。「百合」でも「中学生」でも、「年の差」でも「遠距離」でもいいんです。何かそういった縛りがあれば、イメージが湧いてくるのでストーリーを組み立てやすいですよね。

かずま 「ディアティア」を構想していたとき、私の描く女の子の絵が好きな読者の方がいらっしゃるのはわかっていたので、女の子をたくさん描きたいなっていう気持ちもあったし、女の子の「好き」っていう気持ちを何種類も取り扱えるのは面白そうだなと。あとは飯田さんのそういう注文が面白いなと思ったので、自分の文法で「ハーレムもの」を描いてみたくなって。チャレンジしたい題材だったんだと思います。

水谷フーカが、かずまこをの「ディアティア」キャラクターを描き下ろした。

鶴田謙二 「ハーレムもの」ってリクエストされて、これ(「ディアティア」)ができるのかあ(笑)。

──「ディアティア」の主人公・成田はモテる男子ではありますが、彼女の睦子とはお互い初めての恋人同士ですし、初々しい恋を描いた作品です。一般的な「ハーレムもの」とは受ける印象がだいぶ違いますよね。

鶴田 ええ、相当すごいですよ。

かずま ありがとうございます(笑)。

百合を決して当たり前のことのようには描かない(水谷)

──水谷さんとかずまさんは楽園で描く前に百合マンガを描かれていましたが、描く上で、同性の恋愛と異性の恋愛の違いはありますか?

かずま 自分の力量の問題もあるんですけど、百合を描くときは男の子はあんまり深く絡めないようにしてます。男女の恋愛ものに百合の子やBLの子が出てくることは多いし、読者さんも気にならないと思うんですけど、百合マンガに男の子が出てきたときに、果たして自分は読者さんが望む形で男子を描写できるんだろうか、と思うと躊躇してしまって。

──同性愛の世界観に異性を入れたくない、という読者もいると?

かずま 私個人としては、混合しているものは好きなんですけど、そうじゃない方も多いかなと思って。

かずまこをが描く教師と生徒のガールズラブ「純水アドレッセンス」より。同作は楽園 Le Paradis [ル パラディ]第26号にて新連載としてスタート。

水谷 男の子が出てこないから百合を読んでるのに、っていう読者の方は一定数いると思います。

かずま でもそう思う気持ちもすごくわかるんですよね。だから、女の子だけの世界を求めている人たちが納得する形で男の子を出す力が、私にはちょっとまだないかなって。

水谷 私は、同性愛を描くとき、普通のこととは感じない人もいるってことを念頭に置いてますね。キャラクター自身は、(同性愛を)気にするキャラクターは気にするし、気にしないキャラクターは気にしないと思うんですけど、本人たちよりは、その友達や家族など、周りの環境のほうを意識します。決して当たり前のことのようには描かないというか、同性愛に違和感がある人がいることもちゃんと描きたいなと。

──かずまさんは楽園第26号から、デビュー作の「純水アドレッセンス」の続きを描かれるんですよね。教師と生徒のガールズラブで、単行本も発売されている作品です(※取材は楽園第26号発売前の2月初旬に行われた)。

かずま はい。キャラクターも時間軸も同じ設定で描く予定です。執筆のために久しぶりに読み返してみたら、自分のマンガ、変わったなーって思いました。

──それはどの辺りで感じたんでしょうか。

かずま 昔のほうが、起承転結をしっかり作ったり、“お話を作ろう”とすごくこだわっている感じがしました。あと、私はもともとモノローグを多用するタイプだったんですね。でも「ディアティア」で男の子を主人公にするなら、モノローグは少なめにしたほうがいいなと思って、編集さんとも相談して意図的に減らしたんですよ。その変化は大きかったと思います。

──確かに読者に共感を呼びかけたり、キャラクターの心の内を明かしたりする役割のモノローグは女主人公の作品に多いイメージですね。モノローグを減らすというのは、具体的にどんな作業なのでしょうか。

水谷フーカの「14歳の恋」より。楽園 Le Paradis [ル パラディ]第26号に掲載された第38話では、同性へ恋心を抱く女子中学生・志木の思いが描かれた。

かずま 考え方としては2通りあって。言葉にしにくいんですけど、モノローグが必要なシーンを描くまでの過程で、主人公の思考の内容を限定的にしていくというか、読者が想像しやすいように、主人公が考えていることを制限していく感じですね。もうひとつは、逆にすごく曖昧にして、どうとでも捉えられるようなシーンを続けるか、です。まあモノローグを多用していたときは、自分のマンガを自分の考えている通りに読んでほしいっていう思いが強かったんでしょうね。

──今はキャラクターの解釈を読者に委ねられるようになった?

かずま はい、委ねようって気持ちが強くなったこともあって、自然にモノローグが減ったのかなと思います。

学生はピュアなところを全面に出して描けるのが楽しい(かずま)

──実際に男女ものの、特に中学生、高校生という若い子の恋愛を描いてみて、どう思いましたか?

かずま 学生は純粋な恋愛を素直に描けるのがいいなと思います。恋愛マンガというと、例えば楽園だとシギサワ(カヤ)先生の作品のような毒っぽい描写ってあるじゃないですか。私はそういう描写を描くのが苦手なので、大人の恋愛を描こうとしても嘘っぽくなってしまいそうで。その点、学生はピュアなところを全面に出して描けるのが楽しいです。

水谷 私は「学生はいろんなイベントがいっぱいあって楽しいな」と思いながら描いてます(笑)。

「14歳の恋」5巻。各巻の表紙には、移り変わっていく季節が描かれている。

鶴田 聞きたかったんだけど、「14歳の恋」の主人公たちって、ずっと14歳なの?

水谷 実はそうなんですよ……(小声)。もう8年ぐらい描いているんですけど、中2の夏から始まって、やっと12月に入ったところで。最初はもっとサクサク進んでいたんですけど、飯田さんに「細かく描いても大丈夫ですよ」って言ってもらって。だから秋以降がめちゃくちゃ長い(笑)。夏休みはすぐに終わらせてしまったんですが、夏ってイベントたくさんあるのにもったいなかったです。もっとゆっくりやればよかった。

鶴田 誕生日が来たら15歳になっちゃうよね。

水谷 まだそこまで考えてなくて……誕生日すらちゃんと決めてないんですね(笑)。

楽園 Le Paradis [ル パラディ]第26号
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かずまこを「ディアティア5 —エンゲージ-」
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かずまこを
かずまこを
2月19日兵庫県生まれ。2007年、コミック百合姫(一迅社)にて「パジャマ夜話」でデビュー。以後、コミック百合姫や楽園 Le Paradis(白泉社)にて青春少女マンガを発表している。代表作に「純水アドレッセンス」「ディアティア」など。
水谷フーカ(ミズタニフーカ)
水谷フーカ
7月4日京都生まれ。2006年、同人誌作品集「夜盗姫」(司書房)の単行本でデビュー。ファンタジー、4コマ、百合、その他さまざまなジャンルで執筆。現在は楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)で「14歳の恋」を連載中。
鶴田謙二(ツルタケンジ)
鶴田謙二
1961年静岡県生まれ。1986年、モーニング(講談社)に掲載された「広くて素敵な宇宙じゃないか」でデビューを飾る。代表作に「The Sprit of Wonder」「さすらいエマノン」「冒険エレキテ島」など。
kashimir(カシミール)
kashimir
代表作はアニメ化もされた「百合星人ナオコサン」など。現在、楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)にて「てるみな」「ぱらのま」、まんがタイムきららMAX(芳文社)にて「ななかさんの印税生活入門」を連載中。
panpanya(パンパンヤ)
panpanya
2013年に楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)にて商業デビュー。以降も継続的にマンガ作品を発表中。単行本に「足摺り水族館」(1月と7月)、「蟹に誘われて」「枕魚」「動物たち」「二匹目の金魚」(白泉社)がある。