大ヒットメーカーから同人誌を中心に活動する知る人ぞ知る作家まで、充実の作家陣で年3回刊行される楽園 Le Paradis [ル パラディ]。何事にも縛られない同誌作品のなかで、確実な存在感を放っているジャンルがある。それはガールズラブ。創刊以来のラインナップを振り返ると、実は多くの作品で、女の子同士の関係を描いている。
コミックナタリーでは、「百合以外描かない!」と断言し、楽園のWeb増刊にて「不条理なあたし達」を連載中の竹宮ジンにインタビュー。個々の作品にも触れながら、“ガールズラブの楽園”の魅力をナビゲートしてもらった。また楽園にてガールズラブ作品を描いている13人の作家からの描き下ろしイラストも到着。最終ページには楽園のガールズラブ作品の一覧を掲載しているので、合わせてチェックしてほしい。
取材・文 / 平松梨沙
私自身が女性同性愛者なんです
──「百合以外は描かない!」と断言している竹宮ジンさん。SNSでも日々ガールズラブ(以下、GL)への愛を綴ってらっしゃいます。
今日百合の日なのか(n‘∀‘)η …って、やべえ、私365日百合の日やん。 毎日百合のことばっか考えてるううう(η ՞ਊ ՞)η
— 竹宮ジン@3日目あ59a (@takemiya_jin) 2017年6月25日
私なんてまだ軽いほうだと思いますよ……! でも、GLを描くのは、私にとって自然なことなんです。というのも、私自身が女性同性愛者なんですね。デビュー前には、男女の恋愛やボーイズラブなども描いていた時期があったのですが、今が一番しっくり描けています。
──竹宮さんは2009年にコミック百合姫(一迅社)でデビューした後、同年刊行の楽園創刊号に参加され、今に至ります。専門雑誌以外で百合を描き始めた当初は、緊張もあったんじゃないでしょうか?
そもそも、私が楽園に参加した経緯は結構特殊なんです。2009年5月のコミティアに参加していたら、飯田編集長が挨拶に来てくださったんですね。ちょうど「ニセ編集者が出没している」という情報が出回っていた時期で、最初は警戒していたんですけど(笑)、マンガにまつわる話をしているうちに「この人は間違いなく本物の編集者だ」と確信しまして。それでつい勢いづいて「今描きたい話があるんです」ということを話したら、創刊号から「想いの欠片」の連載を始めることに……。
──ものすごいスピード感!
楽園の創刊号には個人的にファンだった作家さんも参加していて、連載当初、「私がここにいてもいいのかな……?」とは思いました(笑)。しかも、「恋愛」がテーマの雑誌ということで、男女の恋愛がメインだろうと思っていたんです。でもフタを開けてみたら、中村明日美子さんの(「鉄道少女漫画」シリーズの)「立体交差の駅」、西UKOさんの「コレクターズ」、鬼龍駿河さんの「乙女ループ」……と、百合要素の入った作品がいくつも載っていました。今にして思えば、最初から「GLの楽園」だったかもしれない?
飯田編集長 編集している側として言いますと、創刊当初から「恋愛」であること以外の枠は一切設けていないんです。GLも、それぞれの作家さんが描きたいときに描いていただきたいと思っていますし、こちらから「描いてみませんか?」と提案することもあります。
美しい寄宿舎GL…中村明日美子「メジロバナの咲く」
──「立体交差の駅」で、女同士の関係を描かれていた中村明日美子さん。第25号からは、「メジロバナの咲く」という連載が始まりました。「海外の寄宿舎を舞台に少女たちの邂逅と交流を描くガールズラブ長編」と、学園もの好きにはたまらないキャッチコピーもついています(参照:中村明日美子初の長編ガールズラブが開幕、寄宿学校描く「メジロバナの咲く」)。
第1話を読みましたが(※取材は6月に行われた。現在発売中の楽園第27号には第2話を収録)、美しくて印象的なシーンがこれでもかと入っていて、読み切りのような完成度でしたよね。特に、ルビーがステフの足にキスするシーンが本当にきれいで。読みながら、「ふぁーーーっ!」と声を出しそうになったくらいです。
──わかります(笑)。中村さんはGLの長編は本作で初挑戦とのことですが、以前に「GLはあまり食指が動かなかったのですが(読み切りくらいの長さならともかく長いものとなると)、第1話を描いたらそんな気持ちが吹っ飛びました。この二人ならいろいろどんどん描きたいぞという気持ちです」とおっしゃっており、気合いが入っているのが伝わってくる作品です(参照:楽園特集 蒼樹うめ×シギサワカヤ×位置原光Z×幾花にいろ座談会、中村明日美子&竹田昼インタビュー)。
本当にそうですね。中村さんはBLもたくさん描かれていますが、GLを描くときに、「女子のめんどくささ」の描き方が絶妙なんですよ。
──今回の「メジロバナの咲く」でも、女子同士ならではの空気感や間が、的確に切り取られていましたね。ステフのいないところで、女の子たちが彼女のことをものすごく噂している描写とか。
でも、読んでいる側が嫌にならない、愛らしいなと思って眺められる程度で見せてくれる。読者の予想を裏切っていくストーリー運びも見事で。なんとなくこういう流れになるのかな、と予想していても、絶対そうならない。「え、そっち!?」「そこの流れに持っていくんだ!」と、いつも新鮮に驚かされます。ここから2話目、3話目と続いていくのが楽しみです。
──竹宮さんも、「想いの欠片」では高校生・ミカを中心にした恋愛模様を描いていました。ご自身が学生ものを描くときの楽しさは、どこにあるのでしょうか?
あえて大人びた性格のキャラを出すのが好きですね。女子高生くらいのときって、ちょっと背伸びしてる子がいるじゃないですか。「いかにも学生です」というキャラも好きなんですけど、カッコつけて大人ぶっている子が等身大の姿を出すところが好きなんです。逆に、大人を描くときは、所帯じみてるところや情けないところを描きたいと思ってしまいます。
──とすると、無垢でかわいいルビーとクールビューティーなステフなら、ステフのほうが好きなタイプですか?
ミステリアスなキャラに惹かれるので、確かにステフかな。今後ステフ視点でストーリーが進んでステフの内面が語られるのかどうかも、気になるポイントです。
次のページ »
恋を描くと戦争になる? シギサワカヤ「プレパラート」
- 楽園 Le Paradis [ル パラディ]第27号
- 発売中 / 白泉社
中村明日美子、蒼樹うめ、木尾士目、シギサワカヤ、水谷フーカ、かずまこを、黒咲練導、迂闊、鶴田謙二、ハルミチヒロ、kashmir、位置原光Z、panpanyaほか豪華執筆陣に加え、幾花にいろ新連載第2話掲載!
- シギサワカヤ「君だけが光」
- 2018年7月31日発売 / 白泉社
-
コミックス 810円
“ダメ社会人ガールズラブ”をテーマにした異色のシリーズ全10話と、高校時代の出会いから社会人になっての再会までを描いた「プレパラート」全話を収録した著者初のガールズラブ作品集。
- かずまこを「純水ルミネッセンス」
- 2018年7月31日発売 / 白泉社
-
コミックス 810円
年の差ガールズラブの最高峰コミックス「純水アドレッセンス完全版」の続編5本と、BL同人誌を軸に芽生えた女の子同士の恋愛を描く異色GL「楽園まで、あと…」を全話収録したガールズラブ作品集。
- 竹宮ジン「想いの欠片」がボイスドラマ化
-
声優陣によるボイスドラマを楽しめるサービス・A-koeにて、7月27日より竹宮ジン「想いの欠片」のボイスドラマが配信スタート。ヒロインの高岡ミカ役は赤﨑千夏、年下の美少女・原田マユ役は田中あいみ、マユの友人・伊藤サキ役は稗田寧々、「カフェPiece」のマスター・松本タカコ役は髙瀨友が演じる。
- 竹宮ジン(タケミヤジン)
- 6月13日生まれ。大阪在住。2007年に創作百合ジャンルで同人活動を始め、2009年にコミック百合姫(一迅社)にて商業デビュー。同年、楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)にて、「想いの欠片」で商業初連載を果たす。2018年7月、「想いの欠片」がA-koeにてボイスドラマ化。同年8月より、コミック百合姫で初の連載を開始する予定。現在白泉社より6冊、一迅社より10冊の単行本が発売中。