タスクオーナの「HF」は間違いなく“ゲームのコミカライズ”
──Fate公園というのは面白い考え方ですね。タスクオーナさんの言葉をお借りするなら、その公園の遊具の1つである、「HF」のお話もうかがえればと思います。タスクオーナさんがコミカライズしている本作は、「Fate/stay night」の3つあるルートのうちの1つ。主人公の士郎と、その後輩・間桐桜を軸にしたルートです。ひろやまさんは、最初にマンガ版「HF」を読んだときどう感じました?
ひろやま 「Fate」のゲームをやったことがあるファンならわかってくれると思うんですが、タスクオーナさんの「HF」は“ゲームのコミカライズ”なんですよ、間違いなく。「Fate」っていろいろ広がっていて、「HF」も劇場版アニメが公開されていますけど、タスクオーナさんの「HF」は、本当に混じり気なしの純粋な原作ゲームのコミカライズなんです。1話目からそれをビンビン感じました。
──それはどういう描写から?
ひろやま 言葉にするのが難しいんですが、原作ゲームの空気感、セリフ回し、日常の描写とかをかなり忠実にマンガにしているんです。マンガの「HF」を読んでいると、14年前にプレイした「HF」の記憶とか、ゲームをやりながら抱いていた感情とかが蘇ってくる。
タスクオーナ そう言ってもらえるとありがたいです。ゲームのコミカライズ、というのはずっと意識していて。奈須さんの思想や“奈須きのこ観”は、原作の文章に一番詰まってるので、そこから拾わないと伝えたいものが伝わらないんじゃないかと思ってて。
──やはりコミカライズするにあたって、ゲームを何度もプレイしているんでしょうか?
タスクオーナ 毎月、死ぬほど見直してます(笑)。
ひろやま 桜ルートのクリア回数、日本でもトップレベルなんじゃないですか? おそらく奈須さんよりもやってる。
タスクオーナ 奈須さんは“やってる”とは違うでしょ(笑)。
ひろやま そのくらい「HF」愛に溢れてて理解の深い人が、再構築していて、しかも原作に対するリスペクトを感じる作品になっている。これはかなりうれしいことです。ちなみに、1巻に収録されてる「#0 2日前/召喚」ってオリジナルエピソードですよね?
タスクオーナ うん、マンガオリジナル。「HF」のマンガを描くにあたって、やりたかったことの1つがこの間桐家にライダーが召喚された日を描くことだったんです。間桐家の主従が大好きだから。もう1つは第1話の冒頭をカラーで夕暮れの高飛びのシーンにすることでした。
──中学生の士郎が、夕暮れの運動場で失敗しても失敗しても1人黙々と高飛びに挑んでいるシーンですね。まだ士郎と出会っていなかった桜は、「失敗しちゃえ」と思いながらその場面を見ていた。
タスクオーナ ええ。「HF」のコミカライズなので、「HF」のエピソードから描き始めたかったんです。
──「Fate/stay night」は面白い構成のゲームで、俗に言う攻略対象の少女は3人いますが、攻略できる順序は決まっていますよね。プレイヤーは最初はセイバールートこと「Fate」ルート、次に凛ルートこと「Unlimited Blade Works」(以下、「UBW」)ルート、そして最後に桜ルートこと「Heaven's Feel」ルートの順でプレイしていく。どのルートも共通するエピソードからスタートしますが、タスクオーナさんは「HF」のコミカライズであることを示すために、共通ルートにはないこのエピソードで始めたかったと。
タスクオーナ そうなんです。「HF」ルートは3本目のルートだから、ゲームでは「Fate」ルート、「UBW」ルートをプレイ済み、という前提があって。マンガを描くにあたって、「読者がどこまで知っている設定なのか」というのは悩んだところですし、なんなら共通ルートをすっ飛ばしていきなり桜ルートからがっつり描くという選択肢もありました。でも共通ルートは桜の大事な日常ですし、桜の幸せはそこにある。だから冒頭で「HF」のエピソードを少し入れて、あとはこのマンガだけ読んでも意味がわかるようにと、共通ルートから描いたんです。
ひろやま 1~2巻は共通ルートの話ですね。
タスクオーナ なかなか桜ルートに入れないからドキドキしながら描いてました(笑)。
「この喜び、あの頃の俺に届け!」と思いながら描いている
──麻雀仲間である奈須さんに、「桜ルートをマンガ化したい」と麻雀中にタスクオーナさんが直談判した、と1巻のあとがきで奈須さんご自身が書いていらっしゃいましたが。
タスクオーナ あのあとがきは二度見しました(笑)。「これ言うの!?」って。
ひろやま でも完全に事実ですよね。
タスクオーナ そのようなことがあったと認識はしています。
──(笑)。「Fate/stay night」の3つのルートの中で、なぜ「HF」ルートだったのでしょうか? 元のゲームは「Fate」「UBW」「HF」という順でプレイしていくように作られていますし、奈須さんもあとがきに「桜ルートのコミカライズは他の2ルートより困難なものであるために企画にさえあがらなかった」と書かれています。
タスクオーナ 正直に言って、「一番好きな話だから」としか言いようがないんです。でも好きな話といえば、「UBW」ルートだって相当好きなんですよ。
──「UBW」ルートはまだコミカライズ化されてないルートでもあります。
タスクオーナ ええ。ただ、「UBW」ルートは世間にその良さが知られているのに対し、「HF」ルートは、その良さが十分に伝わってないんじゃないかと思っていて。たぶん「HF」ルートファン、桜ファンの人の多くはそう感じていると思うんです。1巻の帯に「それはすべての前提(ルート)を覆す」とありますが、「Fate」「UBW」のあと何もかもひっくり返るということを知らない人もたくさんいる。「HF」ルートがどんなに素晴らしかったか、どれだけ時代を先取りしていたか。「みんなに知ってほしい」という気持ちが強かったんです。
ひろやま いつ頃から奈須さんに「桜ルートをコミカライズしたい」ってプレゼンしてたんでしたっけ?
タスクオーナ まだ「HF」の劇場版アニメ化も、「FGO」も「UBW」のアニメ化も知らなかった頃ですね。
──そんな前から。
タスクオーナ 奈須さんには「大変だよ?」って釘を刺されました。やれる自信があるものではなくて、一番好きなもの、一番やりたいものって考えたら「HF」ルートだったんです。
ひろやま 「HF」連載の打ち合わせにタスクオーナさんが奈須さんに話を聞いているときに、なぜかたまたま私も同席……というか隣にいたことがあって。タスクオーナさん、ものすごく細かいところを質問するんですよ。「このシーンのとき、(その場面にはいない)このキャラは何を考えてるんですか?」とか。そういう微に入り細に入りの質問にも、奈須さんはポーンって答えるんです。「こういう理由でこうしていて、だからここはこの描写になっているんです」って。聞いていて「え、そういうことだったの!?」と驚愕しました。
タスクオーナ そうそう、ありがたいことに奈須さんがかなり協力してくださっていまして。当時考えていたことや設定の理由を詳細に教えていただいています。桜ルートのファンだからそれにいちいち感動してしまって、「マジかよ! これはみんなに伝えねば!」って(笑)。伝わらないかもしれないけど、「この喜び、あの頃の俺に届け!」みたいな(笑)。本当にただのファンです。
ひろやま 私が14年越しに理由がわかって感動したのが、5巻にあったキャスターがルールブレイカーを持って立ち尽くしてたシーンですね。
タスクオーナ 士郎とセイバーが柳洞寺に行ったときですね。
ひろやま そう。ゲームをやっただけだと、士郎とセイバーから見た描写しかないから、キャスターがヤケクソになった理由がよくわからないんです。その意味不明さ、不気味さが「HF」の醍醐味でもあるんですが、でもタスクオーナさんが奈須さんに取材したうえで事の顛末をマンガに落とし込んでくれたから、今まで謎だったシーンの意味が理解できたんですよ。
タスクオーナ そういうふうに昔からのファンに届いてほしいと思って描いてますし、同時にゲームをプレイしたことがなくても楽しめるといいなと思って描いています。
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選択肢を間違えたら死ぬ、それが「Fate」だ
- ひろやまひろし/TYPE-MOON
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柳洞寺の戦いから一夜明け、なぜか体調を崩していた士郎。桜が看病と家事を申し出、士郎はその姿を嬉しく思うのだった。一方、柳洞寺にやってきたランサーは謎の敵に襲われる。新たな戦いが始まった──。
- ひろやまひろし
- TYPE-MOON系同人サークルを経て、2007年に月刊コンプエース(KADOKAWA)にて「Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ」でデビュー。同作は2018年で連載11周年を迎えた。
- タスクオーナ
- 月刊コミックアライブ(現KADOKAWA、当時メディアファクトリー)にて「神太刀女」で連載デビュー。現在月刊少年エースにて「氷菓」、ヤングエース(ともにKADOKAWA)にて「Fate/stay night [Heaven's Feel]」を連載中。