「Fate」シリーズのスピンオフ作品「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!」10巻が7月26日に発売となり、原作を同じくするコミカライズ作品「Fate/stay night[Heaven's Feel]」6巻も8月4日に発売される。これを記念してコミックナタリーでは、両作者による対談をセッティングした。

ひろやまひろしとタスクオーナはデビュー前からの盟友で、出会いのきっかけも「Fate」という根っからのTYPE-MOONファン。2人はお互いの作品をどのように読んでいるのか。そこには原作への多大なリスペクトと、奈須きのこへの感謝の気持ちが溢れていた。

取材・文 / 三木美波

「下まつげは薄くていいんだ！」昔のギャルゲ絵からの脱却

──「プリズマ☆イリヤ」（以下、「プリヤ」）は2007年にスタートした最初の無印が全2巻、第2期の「ツヴァイ！」が全5巻、第3期の「ドライ!!」が現在10巻まで刊行されています。通して読むと、ひろやまさんの絵の変化が著しいですね。

ひろやまひろし　変わりましたよね（笑）。

タスクオーナ　なんでこんなにうまくなったんですか？

ひろやま　連載当初からずっと「なんで自分の絵はこんなにかわいくないんだろう」って思いながら描いてて、試行錯誤を繰り返してました。で、「ドライ!!」に入った頃にようやく「あっ！ これか」という線を見つけたんです。ちょうど「無印」「ツヴァイ！」「ドライ!!」という区切りもあったので、絵柄をガラッと変える機会に使えました。だから無印と「ツヴァイ！」も全然違う絵柄にしたし、「ツヴァイ！」の最終5巻と「ドライ!!」の1巻でもだいぶ変えてます。

タスクオーナ　描き慣れてきたわけではないんですね？

ひろやま　いや、わざと変えてます。実は「下まつげは薄くていいんだ！」って「ドライ!!」連載の直前に気付いて。

タスクオーナ　あ、作業スカイプしてるときに言ってましたね。瞳の下の部分の濃さってことでしょう。

ひろやま　そうそう。「ツヴァイ！」までは2000年前後のギャルゲーの絵柄を引きずっていたのかもしれません。上まつげも下まつげもちゃんとかっちり描いて、目玉は丸く……というのが、もう目の基本として自分の中にあったんですよ。

タスクオーナ　下まつげを薄くすればいいのか……よし！

ひろやま　いや、自分の絵柄の場合ですよ（笑）。下まつげビンビンでもかわいい絵の人はいっぱいいるんで。

タスクオーナ　カラーもかなり変わりましたよね。色にすごく遊びが出てきたというか。

ひろやま　うれしいなあ（笑）。

──線がすごく柔らかくなった印象があります。女の子の体の曲線を見ると、たおやかで繊細な感じが増していて。

タスクオーナ　うん、色っぽいですよね。

ひろやま　いろんなものを見て勉強しました。絵柄が古くなって、昔の作家だと思われるとまずいので、連載中もどんどん絵を変えていっていいと思ってるんです。なるべく新しい絵柄で描いていきたいですね。

──常にアップデートしていると。確かに「プリヤ」は10年以上連載しているので、絵に古い印象があると新しい読者が入って来づらくなるかもしれません。

タスクオーナ　でもそれってそんなに簡単なことじゃないんです。「最近の絵柄に合わせて」とか「今っぽく」とか言われると歯ぎしりして「はい……」ってなるから（笑）。ひろやまさんはすごいよ。

大学時代は「月姫」をやるだけの機械だった

──先ほどスカイプでお話をされているとおっしゃっていましたが、おふたりは仲がいいんですね。

タスクオーナ　彼とはよく絵を描きながらスカイプをしていて、「こうやるとかわいく見えるみたいだよ」とかお互いの絵の技術や情報を交換し合ってます。

──ひろやまさんとタスクオーナさんはいつ頃お知り合いになったんですか？

タスクオーナ　2006年くらいでしょうか。「Fate/stay night」の同人活動を私もひろやまさんもやっていまして。当時のTYPE-MOON作品の同人作家ってイベントとか飲み会とか結構開いていて、みんな仲がよかったんですよ。

ひろやま　今でもみんな仲いいですよね。

タスクオーナ　うん。その飲み会のひとつで会ったんだと……思うんですけど、もう十数年の付き合いなので記憶が曖昧です。

──それまでも同人活動はしてらしたんですか？

ひろやま　私は2000年にTYPE-MOONが出した「月姫」が同人活動を始めるきっかけです。大学時代に「月姫」に出会ったんですが、やり始めた瞬間からもうなんか1週間くらい「月姫」をやるだけの機械に……。

タスクオーナ　わかる！

ひろやま　ずーっと「月姫」をやっては寝てやっては寝ての繰り返し。それでたぶん翌年くらいに初めてコミケにサークル参加して、「月姫」のコピー本を出しました。

タスクオーナ　誰の同人誌を出したんですか？

ひろやま　レン（「月姫」のファンディスクにあたる「歌月十夜」に登場するキャラ）。そのあと、さっちん本と都古本を出した気がする……。

タスクオーナ　今とまったくぶれてない（笑）。

──「プリヤ」の主人公イリヤは小学生の少女ですし、レンも幼くて愛らしい少女の姿なので、ひろやまさんは一貫してますね。

ひろやま　（笑）。そのあと2004年に出た「Fate/stay night」をプレイして以降、イリヤの同人誌を出してました。そして今もイリヤ本を描いているわけです。

タスクオーナ　確かに「プリヤ」は薄くないイリヤ本と言っても過言じゃない……！ 私がTYPE-MOON作品に出会ったのは「Fate/stay night」からですね。友人に薦められて「試しにやってみようか」と始めたら、もう、本当に面白くて。そのあとすぐに「月姫」もやって。

ひろやま　いまだに14年前の「面白かった」という記憶が残っているんだから、どれだけすごいゲームかっていうことですよね。

「Fate」は義務教育

──おふたりがそこまでハマった「Fate」の面白さの核は、どこにあると思いますか？

タスクオーナ　ここまでどっぷり浸かってると、一言では言い表せないんですけど、なんと言うか、学校に通ったという感じがします。義務教育みたいな。

──「Fate」は義務教育。

ひろやま　名言みたい（笑）。

タスクオーナ　自分に何かを教えてくれた感じですね。何かっていうのは、エンタメ、遊び……なかなかしっくりくる言葉がないですけど。自分の知っている遊びの選択肢……例えば映画、ゲーム、読書の中に、いきなり「Fate」という選択がゴンって増えたんです。

──「Fate」もゲームの1つではありますが、映画やゲームという大きなジャンルと同等の選択肢なんですね。

タスクオーナ　それくらいガツンとやられました。でも何にガツンとやられたのかを言葉にできないんですよね。一番は奈須さんの思想だと思うんですが、それだけじゃないはず。

ひろやま　ああ、でも奈須さんの思想というのはまさに面白さの核だと思います。奈須さんと武内さんが作り上げたキャラクターやストーリーを通して、奈須さんの宇宙観、人生観が私たちの心に入ってきて、それがどうにもこうにも私たちは好きなんです。自分の心の一部になるくらいハマっちゃったものなので。

タスクオーナ　君、いいこと言うなあ。

ひろやま　ここはヨイショしておくべきだと思いました（笑）。

タスクオーナ　ちょっと（笑）。まあ「Fate」のゲームをプレイしたらその面白さがわかりますよね。今はスマホアプリで配信されているし。

ひろやま　うん。「Fate」のマンガを描いてる私たちが言うのもなんだけど、未プレイの人は奈須きのこの文章に触れてほしい。やっぱり奈須きのこの文章でしか表現されない世界というのがあるんですよ。ゲームやマンガやアニメやドラマCD、いろいろな表現媒体がありますけど、原作のゲームこそがもっとも奈須きのこの面白さの「根源」に近いものだと思うので、やっぱりそれをぜひ体感してもらいたいなと思います。