選択肢を間違えたら死ぬ、それが「Fate」だ
──5巻といえば、かなりエッチなシーンがありましたね。
タスクオーナ え、本当ですか? そんなバカな……。
ひろやま ちょっと(笑)。
タスクオーナ 冗談です(笑)。もともと「Fate/stay night」は18禁のゲームですが、あまりそのことを重要視してはいないんです。このシーンはストーリー上どうしても必要で、行為自体にも意味があった。毎朝、同じような日常が始まってるように見えますが、夜の影響は必ず朝に出ているんです。その変化の積み重ねが重要で。とはいえ私自身、エッチなシーンを描き慣れていない作家なのでどういう塩梅で描けばいいのか試行錯誤でしたが、かなり仕込んでるんですよ。
──何をですか?
タスクオーナ 例えば凛の影を見てください。
──あ、凛の形じゃない!
タスクオーナ そうです。この空に浮かんでいるのも……。
──あのサーヴァントの目ですね。
ひろやま このシーン、何十ページも枚数を割いてるから、タスクオーナさんの気合いがわかりますよ。
タスクオーナ 盛りすぎでしょ、そんなには描いてないです(笑)。十数ページでしょ。
ひろやま いや、20ページは確実にある。
タスクオーナ 最初の百合シーンは入れないでくださいよ。
ひろやま いや、入れますよ。あ、そうだ私もタスクオーナさんに張り合って、お見せしたいシーンがあります!
タスクオーナ どこどこ?
ひろやま 「プリズマ☆イリヤ ドライ!!」の7巻。慎二と士郎が戦っている場面です。このあみだくじみたいな線、なんに見えます?
──魔術回路でしょうか? 「Fate」の魔術師が持つ擬似神経で、ゲームでもアニメでもよく出てきます。
ひろやま 実は、魔術回路に見せかけて、ルート分岐を表しているんです。
──なるほど! 最初に1本の線があって、士郎の選択によってどんどん分かれていっている。
タスクオーナ フローチャートなんですね。
ひろやま そう。士郎はひたすら選択をして選択をして、最終的に間違えて……ほら。
──選択肢が消滅しています。士郎が選んだこのルートは間違いだった?
ひろやま でも最後のページになると……。
──選択肢が光り輝きました。よかった、士郎が美遊を思って選んだ道は間違えてなかった(笑)。
ひろやま たぶんこれは伝わらないだろうから、ちゃんと言いたかったんです(笑)。このルート分岐の比喩表現は、原作へのリスペクトでもあります。
──「Fate」のゲームは選択を間違えるとすぐ死ぬのが醍醐味ですからね。
ひろやま そう、間違えると死ぬのって大事ですよね。今のゲームって間違えても死なないものが多いので。
タスクオーナ 間違えたら死にたいですよね。ヒリヒリしたい。
ひろやま わかる(笑)。「ドライ!!」のこの7・8巻は士郎が主人公なので、すっごく描きやすかったんです。「プリヤ」は少年マンガを描いているという意識なんですけど、少女が主人公だとどうしても描けないことも多くて。
タスクオーナ 例えば?
ひろやま 血まみれになって戦うっていうのは、やっぱり少年の特権だと思っていて。顔面をぶん殴られたり、それでも歯を食いしばって泥臭い表情で立ち向かう、というのは、魔法少女だとちょっとやりづらいです。
タスクオーナ そうですね。
ひろやま だから筆が乗りました。ほかにも切嗣が「見えない月を追いかけるような旅路だった」と独白している場面で湯呑みのお茶に三日月を描いて、水に映る逆さまの月……つまり偽物で、見えるけど手の届かない月という意味を持たせたり。“逆月=朔月=盃=聖杯”……という言葉遊びですね。こういうの、なぜか士郎が主人公のときはできるんですよ。通常の「プリヤ」ではなかなか思いつかないので、ここぞとばかりに入れました。
タスクオーナ そういう表現、描いてて楽しいですよね。
端的に言うとTYPE-MOON大好き!
──今、「Fate」ファンを拡大させている「FGO」についてもお話をお聞きできればと。
タスクオーナ 「FGO」は、本当にありがたいです。
ひろやま はい、ありがたいです。2018年に、「Fate」がこんなに多くの人に通じる言語になるとは全く思いませんでした。今や完全に生活の一部です。
タスクオーナ 「FGO」のおかげで、「Fate」のことを話せる友達や仲間が増えた感があります。自分の「Fate」に対する思いとか、「FGO」の展開の考察とか話しても「そんなコンテンツ知らない」って言われないんですよ。「なるほど、君はそう思うんだね」と話し合える楽しい時間が続くのは本当にうれしいことです。
──タスクオーナさんは呪腕のハサンや百貌のハサンのイラストを手がけていますね。
タスクオーナ 呪腕のハサンが本当に昔から好きで。しかもちゃんと「FGO」のストーリーでハサンたちが活躍するじゃないですか。「HF」の劇場版アニメでも、ランサーと激闘して……。真アサシンがカッコいいことに世界がようやく気付いてくれた。
ひろやま ネタバレになっちゃうから言えないけど、「FGO」ではあのサーヴァントやこのサーヴァントがハサンに宝具を撃ってくれますからね。
タスクオーナ 多くのサーヴァントに相手をしてもらえるハサン……世界は美しいです。
ひろやま ちなみに「プリヤ」に出てくる、ハサンを夢幻召喚(インストール)した桜兄のビジュアルはタスクオーナさんにデザインしてもらったんです。
タスクオーナ スカイプで急に「桜兄がハサンのカードを夢幻召喚するから、急いでそのデザイン作って! あと数時間後に〆切だから!」と(笑)。こんな無茶振り聞いたことないですよ(笑)。それで急いで案を出したら「いいじゃない」って言われて。
ひろやま ハサンあるところ、タスクオーナの影もまたあるのだ……。
──仲がいいのが伝わってきます(笑)。最後に、おふたりにとってTYPE-MOONを一言で表すと?
ひろやま うーん、育ての親でしょうか。武内さんが父親で、奈須さんが母親です。
タスクオーナ 逆じゃなくて?
ひろやま 私はこのイメージかな。武内さんが父親で、「君はこの方向を目指すといい」って道を示してくれる。んで奈須さんは俺が食べるものをいっぱい作ってくれるお母さん。それがめっちゃうまいの。
タスクオーナ なるほどね。
ひろやま 武内さんと奈須さんが提供してくれた面白さを糧に、今マンガ家をやっているので。「面白いもの」の原型を教えてくれた、本当に育ての親という感じです。
──タスクオーナさんはいかがですか?
タスクオーナ 一言で言うなら温かいお風呂……かな。
ひろやま ん?
タスクオーナ やっぱりね、入りたくなるんですよ。そこに浸って、温かい優しい気持ちになれて、なおかつ体もきれいになる。
ひろやま お風呂は別に思想に影響は与えないし。
タスクオーナ 確かにお風呂はちょっと厳しかったかな……。じゃあ、さっきひろやまさんが言ったことを私が言ったことにしてください。
ひろやま それだと私がお風呂って言ったことになるじゃん! 「Fate公園」みたいなことを言ってたじゃないですか。そっちにしたら?
タスクオーナ ああ、そうですね! 公園のように、楽しく時間を過ごさせてくれるものです。もっと端的に言うと、TYPE-MOON大好き!
ひろやま やったぜ!
- ひろやまひろし/TYPE-MOON
「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!⑩」 - 発売中 / KADOKAWA
-
特装版 コミックス 972円
「ドライ!!」10巻は通常版と豪華冊子付き特装版を用意! 特装版カバー&小冊子カバーはともに描き下ろし。小冊子には露出希少な秘蔵イラストギャラリー、ここでしか読めないひろやまひろし描き下ろしマンガ、ゲスト作家34名が参加の「プリズマ インストールコレクション」を収録。
- 小冊子参加ゲスト(掲載順)
- たけのこ星人、石田あきら、じゅうあみ、経験値、華々つぼみ、ろび~な、黒瀬浩介、タスクオーナ、TAa、兔ろうと、サテー、Bすけ、津留崎優、池澤真、桐嶋たける、大森林、磨伸映一郎、春野友矢、楓月誠、綾野なおと、南ふに。、やごとき智、ちょこ庵、茨乃、マシマサキ、lack、NOCO、Azusa、BLADE、しらび、犬江しんすけ、荒野、平田和也、門脇舞以
- タスクオーナ/TYPE-MOON
「Fate/stay night [Heaven's Feel]⑥」 - 2018年8月4日発売 / KADOKAWA
柳洞寺の戦いから一夜明け、なぜか体調を崩していた士郎。桜が看病と家事を申し出、士郎はその姿を嬉しく思うのだった。一方、柳洞寺にやってきたランサーは謎の敵に襲われる。新たな戦いが始まった──。
- ひろやまひろし
- TYPE-MOON系同人サークルを経て、2007年に月刊コンプエース(KADOKAWA)にて「Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ」でデビュー。同作は2018年で連載11周年を迎えた。
- タスクオーナ
- 月刊コミックアライブ(現KADOKAWA、当時メディアファクトリー)にて「神太刀女」で連載デビュー。現在月刊少年エースにて「氷菓」、ヤングエース(ともにKADOKAWA)にて「Fate/stay night [Heaven's Feel]」を連載中。