「プリズマ☆イリヤ」「Fate/stay night[Heaven's Feel]」|「HF」を読むと、14年前ゲームに抱いていた感情が蘇る ──ひろやまひろし / 「プリヤ」も「FGO」も全部“Fate公園”の遊び道具 ──タスクオーナ / ふたりはFate学校現役14年生

「こんなの『Fate』じゃねえ」と叩かれることを期待していた

──「Fate」への熱意が伝わってきました。そのおふたりがそれぞれマンガで表現されている「Fate」のお話を伺っていければと思います。まずひろやまさんの「プリヤ」は、「Fate/stay night」の登場キャラクターのイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが「魔法少女になった」という設定で描かれた、if世界のスピンアウト作品です。タスクオーナさんは、「プリヤ」を初めて読んだときにどんな感想を持ちましたか?

「プリズマ☆イリヤ」1巻あとがきの「プリズマイリヤができるまで」より。

タスクオーナ ちょっと言葉は悪いんですが「やりやがったな!」と。

ひろやま 何それ(笑)。

タスクオーナ 「イリヤの魔法少女もので1本連載を立ち上げるくらい、彼のFate愛、イリヤ愛は本物なんだ」と思って。あと正直、「やれるのか?」と。

ひろやま あ、それは私も思いました。同人しか描いてこなかった自分が毎月原稿をあげられるのかって……。

タスクオーナ それは作家としてね(笑)。私はそうじゃなくて、「Fate」は今でこそいろんなシリーズ作品やスピンアウトがたくさんあって「なんでもあり」の様相を呈していますけど、連載がスタートした当時は磨伸(映一郎)さんの「氷室の天地」があったくらいで、それも「Fate」の世界観を逸脱するものではなかったし。

ひろやま そうですね。「プリヤ」は世界観から設定から変えちゃってて、こういう同人作品みたいな連載マンガは当時なかったと思います。

タスクオーナ 尖ってたよね。だからマンガはうまいし絵はかわいいし、期待感はかなり高かったんですけど、ひろやまさんは知り合いでもあったので「Fate」ファンの反応がちょっと心配だったんです。

ひろやま 私は当時、「こんなの『Fate』じゃねえよ」とか「イリヤはこんなんじゃねえよ」とか叩かれると期待したんです。でも割とスルーされて、みんな「プリヤ」の存在すら知らないんじゃないかと不安で……。

「プリズマ☆イリヤ」第1話より。イリヤはカレイドステッキに宿る愉快な精霊マジカルルビーにハメられ、ほぼ無理やり魔法少女に。そしてルビーの元マスターである遠坂凛に「わたしの奴隷(サーヴァント)になりなさい」と宣言され、怒涛の魔法少女生活が始まる。

タスクオーナ 期待してたの? かかってこいよってこと?

ひろやま いや、原作ファンが読めばそういった声は出てくるだろうから、「原作ファンに届け!」という……。叩かれるのを覚悟のうえで描いていたんですが、読者の方は「プリヤ」をおおらかに受け入れてくれる人ばかりでした。

タスクオーナ 奈須さんも武内さんも器がやたらと広いから、TYPE-MOONファンの人たちはそういうところを汲んでくれたのかもね。

──連載開始当初の、期待と心配から10年が経過して、タスクオーナさんは現在の「プリヤ」への思いに変化はありますか?

タスクオーナ 「リスペクト」って言葉が一番合っています。よくこんな大変なネタをこのレベルまで昇華したなあと。魔法少女ものって、フラッシュアイデアとかちょっとしたネタとかで30ページくらいだったらできる人も多いと思うんです。でも「プリヤ」は10年以上続いていて、しかも絵もストーリーもクオリティをどんどん上げてきている。「このひろやまひろしさんって立派だなあ、どんな方なんだろう」って(笑)。

ひろやま よくスカイプしてるし、今会ってるじゃん!

タスクオーナ あはは(笑)。それにさっき「Fate」の根底には奈須さんの思想が流れているという話が出ましたが、「プリヤ」からも奈須さんの思想を感じるんです。イリヤは魔法少女になってるし、世界設定も違いますが、「プリヤ」はやっぱり「Fate」だなと。

「プリズマ☆イリヤ ドライ!!」2巻より。イリヤや美遊は英霊の力の一端を写し取った「クラスカード」を使って、英霊の能力を「夢幻召喚(インストール)」できる。第8話でイリヤはランサーのクラスカードでケルト神話の大英雄クー・フーリンを、セイバーのクラスカードで聖剣エクスカリバーの保有者アーサー王を「夢幻召喚」した。

──なるほど。ひろやまさんは、「プリヤ」を描くときにどんなことを大事にしていますか?

ひろやま TYPE-MOONがやらないところをなるべくやるようにしています。例えばイリヤって、本当に曲がったところがないまっすぐな少女なんですよ。当たり前の倫理観や価値観を持って、「人は殴っちゃいけないよ」「人を殺しちゃいけないよ」という考えを持つキャラクターで……。

タスクオーナ え、イリヤを一般人だと思ってたの?

ひろやま はい。

タスクオーナ びっくりだ。ちょっと私とは認識に相違が……。

──「Fate/stay night」でイリヤはドイツの名門魔術師の一族アインツベルンのホムンクルスとして、世間と隔離されて育てられた存在です。「やっちゃえ! バーサーカー」と自分のサーヴァントをけしかける有名シーンもあるので、「人は殴っちゃいけないよ」というタイプではないような……。

ひろやま あれはおじいちゃんに偏った教育をされたせいでああなってしまっただけです。

タスクオーナ ……。

ひろやま 魔術の世界から遠ざけられて、日本に行って一般の家庭で当たり前のように育ったら、素直でまっすぐな子になると思うんですよ。というか、そう育ってくれという親の願いの形です。

タスクオーナ 両親が家にいなくて、メイドのセラとリズと義兄の士郎と住んでる時点で一般家庭ではないような……いや続けてください。なんでしたっけ、TYPE-MOONがやらないところをやる?

いざ鏡面界へ。イリヤ一行を率いる凛とルヴィアは、ロンドンの時計塔からやってきた魔術師。

ひろやま そうそう。そんな一般人のイリヤに対して、凛やルヴィアたちは「プリヤ」の特性上多少マイルドにはなってますが魔術世界の価値観で動いています。そういう一般人には到底理解できない血まみれの世界に対して、ごく普通にあたりまえに生きてきた少女が、己の価値観でもって切り込んでいくと。そういう、いわば魔法少女のテンプレの構造なんですが、それならば当時TYPE-MOONがやってきた「月姫」や「Fate」とは違う見せ方、物語の作り方ができるんじゃないかなと。

タスクオーナ なるほどね。最初、私は「プリヤ」のことを、イリヤを幸せにしてあげたいマンガなのかなと思っていたんです。

ひろやま え、そうですよ?

タスクオーナ でもどんどん過酷になっていって、ひどい目に遭わされてるから「あれれ?」って。

──無印はおしゃべりする魔法のステッキと出会ったことから始まる、コメディ要素満載のキュートな魔法少女もの、という印象でしたが、「ツヴァイ!」ではイリヤの別人格“黒イリヤ”ことクロエが登場し、バトルシーンが多めに。「ドライ!!」では平行世界に舞台を移し、友達にして同じく魔法少女の美遊を助けるために聖杯戦争に巻き込まれます。しかも美遊を捕らえ、敵だと思っていたエインズワース家は、実は美遊を使って世界を救おうとしていて……と、そこからも二転三転がありますが、かなり作りこまれた世界観で、イリヤは厳しい選択を迫られます。

ひろやま 「プリヤ」のテーマというか目的は、イリヤを救済することです。

──それは「Fate」でイリヤが、かなり重い宿命を背負っていることに起因するんでしょうか。

ひろやま はい。「プリヤ」の無印の頃は、イリヤが幸せな世界で生活してて、物語の主人公になるという時点ですでに原作のサブヒロインの救済という意味では十分だったんです。それが次に続くとなったので、それならば今度は逆にスピンオフであるが故に犠牲になってしまった「Fate」でイリヤが背負っていた魔術師の宿命、“本当のイリヤ”みたいな部分を救いたくて。なのでイリヤの別人格としてクロエを出したわけです。「無印」ではただ生まれてきたこと、元気に生きていることが救済だった。「ツヴァイ!」では、本当の自分と向き合って、それすらも受け入れて成長することが救済だった。ならばそれを受けて「ドライ!!」では何をやればいいのかと考えまして。物語の外でたくさんの人に助けられて今があるイリヤにとって「本当の救済」というのは、イリヤ自身が何かを助けることなんじゃないかと。今度はイリヤが誰かのために、命をかけて何かを、なんなら世界を救う。それこそが本当のイリヤの救いになるんじゃないかと、考えていきました。

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たけのこ星人、石田あきら、じゅうあみ、経験値、華々つぼみ、ろび~な、黒瀬浩介、タスクオーナ、TAa、兔ろうと、サテー、Bすけ、津留崎優、池澤真、桐嶋たける、大森林、磨伸映一郎、春野友矢、楓月誠、綾野なおと、南ふに。、やごとき智、ちょこ庵、茨乃、マシマサキ、lack、NOCO、Azusa、BLADE、しらび、犬江しんすけ、荒野、平田和也、門脇舞以
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柳洞寺の戦いから一夜明け、なぜか体調を崩していた士郎。桜が看病と家事を申し出、士郎はその姿を嬉しく思うのだった。一方、柳洞寺にやってきたランサーは謎の敵に襲われる。新たな戦いが始まった──。

ひろやまひろし
ひろやまひろし
TYPE-MOON系同人サークルを経て、2007年に月刊コンプエース(KADOKAWA)にて「Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ」でデビュー。同作は2018年で連載11周年を迎えた。
タスクオーナ
タスクオーナ
月刊コミックアライブ(現KADOKAWA、当時メディアファクトリー)にて「神太刀女」で連載デビュー。現在月刊少年エースにて「氷菓」、ヤングエース(ともにKADOKAWA)にて「Fate/stay night [Heaven's Feel]」を連載中。