コミックナタリー Power Push - 乙嫁語り / 森薫

森薫 乙嫁語り - 新作のリリースを記念して異例の大サービス、「描き込み魔」の作画プロセスを動画で公開!

できるだけ自分で描こうや、って感じで

──「乙嫁」1話分を描くのに、何日くらいかけてますか。

 2カ月まるまる使ってます(笑)。とにかくネームに時間がかかるんですよ、話をそんなにパッと思い付けないんで。割とジワジワ積み重ねていかないとできないから……。ほんとはパッとできないとダメなんだけど。

──では作画は1ページにどれくらいでしょう。

 ペン入れだけで……1枚3時間、と言いたいけど(笑)、やっぱり背景とか集中線とか描いてると4時間くらいかかってますね。だから1日5枚。6枚はちょっと希望的すぎるかなっていう(笑)。1日4枚がまあ無理のないところかな。

──今、アシスタントさんは何人いらっしゃるんですか?

 決まった方はいないんですよ。今はFellows!の新人さんに入れ替わりで来てもらってるんで。馴れている方だと2人で4日間くらいかな。まあペン入れさえ終わっていれば私もトーン貼りに加わるので、2人プラス私で3日間あれば終わるとは思うんですけど。いつもペン入れの途中から来てもらってるので。

──森さんはどこまでご自分で描かれるんですか?

 ペン入れは全部自分です。背景まで全部。あんまりアシスタント頼みになるのもどうかと。

──背景も、ですか……。じゃあアシスタントさんには仕上げだけ手伝ってもらう感じですね。

 そうですね。最近はベタも全部自分で塗っちゃってるんで、消しゴムかけと、あとトーンは削りが難しいものは自分で、それ以外のベタ貼りはやってもらってます。2カ月に1ぺんだし、できるだけ自分で描こうや、って感じで。

トーンは好き。丁寧に削るとほんとキレイだから

──いよいよ仕上げですが、トーンワークに好き嫌いはありますか?

 トーンは結構好きなんですよ。使わないよりは適度に使ったほうがいいなと思います。「トーン使わない」って言っちゃうのもかっこいいんだけど(笑)、でも画面はやっぱトーン使ったほうがキレイだな、と。網点の61番とか丁寧に削るとほんとキレイだし。

──61番……。

 うちはメインで使うのが60番台で、61番から64番が多いです。グラデトーンにも重ねられるので。10の桁が網点の大きさで、1の位が点の密度を表しているんですけど、80番とかは削りが細かく正確に出ちゃう。時間がないときは粗い40番とかでやると適当にワーッて削ってもそんなに(アラが)目立たない。

──お気に入りのトーンとかありますか?

 網点の61番は基本で使ってるだけに好きだし、あとグラデとか好きですね。もう何にでも貼りたがっちゃって困ります(笑)。「またグラデかよ」って言われるのもなんかアレだなと思ってちょっと減らしてみたり(笑)。あと暗めのが好きですね。夜の場面とか好きなんで……、というところで、うん、完成かな。

デスク

──うわあ、ありがとうございます! お疲れ様でした!

 あ、今日は一枚絵だから、背景にこれ貼っちゃおうかな(と、砂ぼこりっぽいトーンを取り出す)。これね、すごい好きなトーンなんだけど、マンガではあまり使いどころがなくて。いつかどこかで貼ってやろうと思ってたんですよ。あ、(カメラの)バッテリー大丈夫ですか?

完成イラスト

森薫「乙嫁語り」1巻 / 2009年10月15日発売 / 651円(税込) / エンターブレイン・BEAM COMIX / ISBN: 978-4-04-726076-4

Amazon.co.jp

あらすじ

中央ユーラシアに暮らす、遊牧民と定住民の昼と夜。美貌の娘・アミル(20歳)が嫁いだ相手は、弱冠12歳の少年・カルルク。8歳の年の差を越えて、ふたりは結ばれるのか……? 「エマ」で19世紀末の英国を活写した森薫の最新作は、シルクロードを舞台にした生活マンガ。馬の背に乗り弓を構え、悠久の大地に生きる人々の物語。

作者コメント

高校生の頃に憧れていたシルクロード、中央アジアを題材にしたマンガを、ここで本腰入れて描こうと思いました。
アミルとカルルクの年の差夫婦については、この時代この場所ならではの関係にしたかったのと、子供の頃、割と誰もがあったであろう「年上のお姉さんへの憧れ」のようなものを描きたいと思ったからです。たとえ自分の年齢が追い越したとしても、やっぱり憧れというのはあるのではないでしょうか。
あと馬とか羊とか弓とかユルタとか絨毯とか民族衣装への憧れも。子供の頃、朝顔の支柱で弓を作って親にこっぴどく怒られたのは良い思い出です。危険ですので真似しないで下さい。本当によく飛びます。
同年代であの頃にシルクロード、中央アジアに惹かれた方、そして今の高校生で同じようにこの場所や時代に興味を持っている方にも楽しんで読んでもらえたらと思っています。(森薫)

森薫(もりかおる)

1978年生まれ。2002年に月刊コミックビーム(エンターブレイン)より「エマ」でデビュー。 “メイド好き”として知られており、「エマ」ではメイド喫茶やコスプレなどで見られるアイコンとしてのメイドではなく、1800年代、ビクトリア朝時代のイギリスにおけるメイドを歴史考証に忠実に描いた。好評を博した同作は、2005年にアニメ化。2006年には番外篇も展開され、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞するに至った。2008年10月よりFellows!(エンターブレイン)にて待望の新作「乙嫁語り」を連載中。