コミックナタリー Power Push - 福島聡「星屑ニーナ」
マエストロの新作は胸キュンSF!読ませるネームのツボを初披露
「DAY DREAM BELIEVER」や「機動旅団八福神」など、重厚な作品群を発表してきた福島聡。彼がFellows!(エンターブレイン)で始めた新作「星屑ニーナ」は趣きをガラッと変え、ロボットの星屑と少女ニーナの愛おしい日々を描く、とびきりキラキラしたSFコメディだ。
「星屑ニーナ」がいかにして生まれたのか、さらに福島の老練なネーム創作術をコミックナタリーが徹底取材。福島聡コメンタリー付きのネーム生描き動画をお届けする。さらにFellows!の看板作家、森薫と入江亜季が取材に乱入! 三者三様のネーム術を語ってもらった。
取材・撮影/唐木元 文/坂本恵
ハチャメチャでキラキラのSFコメディを
──福島さんのこれまでのマンガって、常にどこか不穏な空気感があったと思うんですが、新作「星屑ニーナ」はなんともハッピーでキラキラしています。
福島 実は「星屑ニーナ」の前に、怪人同士のバトルものを描こうとしてたんです。でも「機動旅団八福神」っていう戦争ものをやった後に、また殺し合いを描くのもキツい。なので、ちょっとそういうハードな作品は、いったん……。
──ちょっと脇に置いといて、まったく違う、ハッピーな話を描こうと?
福島 ええ。読む人が普通に楽しんでくれるようなお話を描こうと。あと最近、僕の見てる範囲だけなのかもしれないけど、けっこう日常的な話ばかりな気がして。昔のマンガってもっと、突拍子もなくてドタバタしたのが多かったかなと思います。なので、今そういう作品を描いてみたら楽しいんじゃないかと。
──着想はどこから得たんでしょうか?
福島 さっきの怪人ものの話ですけど、実は100ページもネーム切ってたのに、ボツになったんです……ほんとのところは……。それで切羽詰まって、もうマンガ家やめようってくらいまで追い詰められたんですよ。そのドン底のときに、子供の頃初めて読んだマンガって何だったっけ、って考えてたら、鳥山明さんの「Dr.スランプ」だったなーと思い出して。それでもう何か、恩返しのような気持ちで、「Dr.スランプ」みたいな作品を描いてみようと。
──アンドロイドみたいなロボットが出てくる話を。
福島 ロボットが出てきて、ハチャメチャな世界観で、楽しげな。舞台は未来ですけど、未来ってリアルに推測しても小難しくなるんで、デタラメの方向からアプローチしちゃえと思って。魚が空飛んでても面白いし、みんなが空をヒュイヒュイ飛んでてもいい。遊園地感覚ですね。
ネームの前にミニチュアネーム
──追い詰められたおかげで至った新境地、というわけですね。ただ作風は変わっても、1話1話濃厚に楽しませてくれる作家性は、変わらず福島作品だと思いました。やっぱりネーム力というか、お話を組み立てる手腕は、Fellows!連載作の中でも一歩抜きん出ていると感じます。
福島 僕にネーム力なんてあるのかなんてわかりませんが、いま、ひとつ思い当たったのは、僕、ネームの前にもひとつ、ネームの設計図みたいのを描くんですよ。それがあるとかなりお話が作りやすくなるんです。その話を編集さんにしたら「それはいい」と評判になって、Fellows!の新人さんなんかは、真似してくれてるみたいです。
──それ、とても興味があります。具体的にどんなものか見せていただけますか。
福島 ちょうどいま持ってますけど……(ガサゴソとバッグを探る)。まず、皆さんだいたい一緒だと思うんですが、プロットという、おおまかなセリフとあらすじを書いた覚え書きを作ります。普通はそこからネームを起こすんでしょうけど、僕はプロットとネームの間にもう1段階設けていて、小さいネームを描くんです。自分ではラフネームと呼んでいるんですが。
──ネームはA4の紙を横に使って見開きを描いていますが、このラフネームはB4タテの紙に16ページぶん入れていますね。このミニチュアのネームには、どういった利点があるんですか。
福島 まず小さいので、描いて消すのも惜しくない(笑)。だから推敲に向いてるんです。普通プロットで推敲してネームで推敲するところを、さらにワンステップ多く、しかも楽に推敲できるんですね。
──推敲はどういったところに気を遣います?
福島 ラフネームの場合、B4を2枚つなげれば32ページになるので、お話全体をひと目で見通せるのがいいですね。ネームで起承転結を見渡そうと思ったら、紙を床にずらっと並べなきゃならなくて、現実的には難しいじゃないですか。
──コマ割りについてはラフネームでほぼ確定してる感じですね。
福島 そうで……すね……いや、本ネームに写すときも、それなりに動かしてはいます。フキダシ描いてみたらどうも違うとか、ひとつのコマをふたつに割ったりとか。ただ、このコマはこっちに移して、そうするとこのコマが余るからこっちに……っていうパズルみたいのは、ラフネームでやるのがサイズから言っても断然楽です。
──ちなみにこのラフネーム、1ページ分描くのにどれくらいかかるんですか?
福島 5分くらいじゃないですかね。5分×24ページで120分、2時間。まあだいたいいつも喫茶店でネームすると、それくらいは居座ってます(笑)。
あらすじ
ゴミ捨て場に投げ出されたロボット・星屑は、電池を消耗し、壊れ、過去の記録をすべて失ってしまう。星屑を修理し、新しい命を与えたのは女子高生のニーナ!ニーナは星屑の先生になると約束し、彼に成長するロボットとしての使命を与えた。そして、3年後、6年後、60年後。作品中の時間はどんどん過ぎていく。ヒトは死ぬが、ロボットは死なない。成長するロボット星屑は、ニーナの記録を胸に残したまま更なるスピードで未来へと進んでいく、名付けて“タイム・スキップ・コメディ”。
福島聡(ふくしまさとし)
1969年8月24日群馬県生まれ。1990年、「箱庭王子」が月刊アフタヌーン(講談社)四季賞秋の部に準入選し、デビューとなる。以降は読み切りや短編を中心に発表。2001年からは月刊コミックビーム(エンターブレイン)にて子供の目線から死生観を描いた短編連作「少年少女」を連載。その後、同誌にて2004年から2008年まで「機動旅団八福神」を連載。2010年からはFellows!(エンターブレイン)にて「星屑ニーナ」を連載中。