「ノー・ガンズ・ライフ」諏訪部順一×山下大輝対談|「ノー・ガンズ・ライフ」の“らしさ”はどこにあるのか

「十三って、この口でどうやって吸うんだろう」

──収録中「これは『ノー・ガンズ・ライフ』ならではだな」と感じたエピソードなどはありますか。

十三は頭部を巨大なリボルバーに拡張している。左から諏訪部順一、山下大輝。

諏訪部 第1話だと、十三がタバコを吸うシーンですね。タバコって、吸うと先端が燃焼して明るくなるじゃないですか。その描写が絵に細かくあったので、吸う吐く息アドリブが大変でした。そもそもこの口でどうやって吸うんだろうって(笑)。

山下 (笑)。

諏訪部 実は具体的なプランが事前に決まっていなくて。初回のアフレコ時に、出たとこ勝負な感じでやりました(笑)。フィルターを咥えて出るような音も口唇があれば出せるのですが、何せこの口ですから。まあ、視聴者の皆さんのイマジネーションでその辺りは補完していただけると幸いです。何しろ現実にはないものですから、これが正解ということで(笑)。

──第1話の意外な注目ポイントですね。

諏訪部 いや、注目せずスルーしてください(笑)。

山下 僕の場合、実は収録の仕方が従来と違って少し特殊なんですよ。僕だけ拡張帯みたいな、喉の振動を拾うマイクを付けているんです。

──それは面白いお話ですね。ハルモニエを使う鉄朗だからこその収録方法なんですね。

山下 そうなんです。その器具を使って収録した喉の振動を拾う音と、実際にアフレコで使っているマイクで拾う音とを、うまくミックスして、拡張体に乗り移った鉄朗の声を作っている……のではないかと思います。

鉄朗はベリューレン社による実験によって声帯を潰されている。

諏訪部 このインタビューを受けている時点で、我々はまだ完成品を観ていないので、実際のところはわからないんです(笑)。

山下 その音がハルモニエを使ったシーンにのみ使われているのか、それ以前に、そもそもオンエアされるのか、確認はできていないのですが、ただいずれにせよ、そんなところにもこだわりがある作品なんだなと。スタッフさんが、音を丁寧に作っているなと思えた出来事でした。

ハードボイルドと男の身勝手

──十三と鉄朗はどんな関係だと思われますか。

歩けない鉄朗を担ぐ十三。

諏訪部 十三にとって鉄朗は「面倒な子供」という感じだと思います。原作未読の方は、凸凹コンビみたいなイメージをお持ちになられているかもしれませんが、実はそういうバディものとは違った感じです。演出側から「鉄朗に対する格別の思いみたいなものは十三にはありません」と言われました。たまたま関わることになっただけなので、親や兄や師匠のような気持ちにならないようにと。十三のスタンスは、鉄朗の成長を促すために背中で語る……みたいな感じではありません。あくまでも依頼にそって行動するだけで。結果それが、オーガナイザー的なニュアンスに視聴者的には感じられることがあるかもしれませんが。

山下 確かにそうですね。

──ちなみに、おふたりはハードボイルドな男性って、どういうイメージがありますか。

左から諏訪部順一、山下大輝。

山下 バーボンをグラスに入れて回しているような……。

諏訪部 随分とステレオタイプなイメージだね(笑)。いわゆるハードボイルドって、冷酷というか非情というか、クールな感じがウリな感じですよね。でも、こういう感じって、ちょっと見方を変えると単なる「身勝手」とも思えたりして。さまざまな作品で描かれるハードボイルドな男って、まあ決めるところで決めるカッコ良さはあるのですが、冷静に分析すると、自分自身の有り様に固執した面倒な人だったり。客観的に眺めるのは楽しいですが、関わりたくはないタイプですね(笑)。

──十三は意外と女性にモテますから、カッコいいと思われているのかもしれませんね。

諏訪部 モテ描写はありますね。ただ彼は、女性とのコミュニケーションは不得手のようです。そちら方面は野暮天という感じで、むしろ面倒くさいからスルーを決め込むのが常套手段。しかし、相手の気持ちをスルーするのは、時に大変な失礼でもあるわけで。他人との深い関わりを拒むというのは、例の「虚無感」から来るものなのかもしれませんが。

十三のカット。左から諏訪部順一、山下大輝。

山下 でも、今の話も含めて、十三って素直じゃないなと思えるところがあって。「依頼を引き受けよう」というときに、その後にちょっと照れているのか、粋な言葉をひとつ足すんですよね。これが後乗せサクサクで美味しい感じなんです。

諏訪部 なんだいその表現は(笑)。

山下 スパイスをひとつ振りかけて印象的にするんですよ。例えば第1話で窓をぶち破って依頼をしにきた拡張者に対して十三が、「その依頼引き受けよう」「あんたには窓の修理代も請求しなきゃあなんねぇからな」と。ただ引き受けてくれるだけじゃないのが「ぽいよなあ」って思いました。

諏訪部 そこで感じる「っぽい」ってどんな感じ? ハードボイルド?

山下 いえ、ハードボイルドというよりは、「『ノー・ガンズ・ライフ』らしい」と言えるセリフ回しかもしれません。その辺りの“らしさ”も魅力の1つだと思うので、今後楽しんでいただければと思います。