「モンスター娘のお医者さん」岩崎良明監督インタビュー|コアな“モンスター娘”ファンもきっと納得 初心者には入門編になり得る仕上がりに

グレンがエッチな男の子には見えないように

──本作のヒロインたちは全員が非常に個性的です。キャラクターごとに、特に大切に描いていきたい部分を教えてください。まずは、ラミアのサーフェからお願いします。

サーフェは先ほど言ったように、グレンの幼なじみ的なポジションであり恋人的なポジションでもあるのですが、どんどんライバルが増えていくので焼きもちをやいたりする。蛇からイメージされるような執着したり、嫉妬したりといった一面を出すことが多くあるので、そこをかわいく見せていきたいです。

──ケンタウロスのティサリアはいかがでしょうか。

ティサリアはリンド・ヴルムの物流を一手に担うスキュテイアー商会の令嬢。

種族的な設定とは別に、お金持ちの令嬢なのでいわゆるお嬢様ヒロインとしての魅力もあるキャラクターです。気位は高いのですが主人公のグレンに対してはすごく一途なんです。

──サーフェともいいライバル関係を築いていきますよね。

2人のライバル関係も観ていて面白いでしょうね。あとは力強そうなイメージのあるケンタウロスなので、どちらかと言えば力技で物事を進めていく傾向もあるのですが、そういったシーンもティサリアならではの見せ場であり、魅力かなと思います。

──マーメイドのルララはほかのキャラクターより少し幼い印象です。

あどけなさが残るルララだが、失踪した父に代わり、自分が母親や幼い弟妹を養おうとメロウ水路街で歌声を披露してお金を稼いでいる。

後輩的な立ち位置のキャラクターですね。例えばサーフェやティサリアたちが高校3年生くらいだとしたら、ルララは中学3年生くらいかな、といった年齢感で捉えています。だから妹分としてのかわいらしさがありますし、グレンを慕いながら淡い恋心を見せたりもする。そういった感情の機微も描いていきたいですね。サイクロプスのメメやハーピーのイリィも、同じ中学3年生くらいの感覚です。

──確かに、ルララは先輩に憧れる後輩のようなかわいさもありますね。蜘蛛の特徴を持ったアラクネのアラーニャについても教えてください。

蜘蛛の特性を持ったアラクネという種族のアラーニャは、グレンに大胆に迫っていく。

アラーニャも世代感的にはサーフェやティサリアと同じ、グレンよりも少し上な感じですね。蜘蛛ということで、日本だと女郎蜘蛛などのイメージもありますし、妖艶に男性に迫っていくキャラクター。でも物語が進んでいくと、また別の一面も見えてくるので、そういうギャップも見せていけたらなと思っています。

──モンスター娘が作品の大きな魅力ですが、当然主人公である人間族のグレンも作品にとって大切な存在だと思います。グレンというキャラクターをアニメで描く際には、どんなことを意識していますか?

グレンは「人間と魔族が共存する世界を描く」という作品のテーマの中心となる存在なので、その姿はしっかりと描いていきたいと思っています。あと一応、グレンの気持ち的にはサーフェ一筋みたいなところがあるので、ほかのモンスター娘から迫られるような展開になったとき、その子に対して心が揺れ動いているようには見えないよう注意して描いています。

──PVにも入っているグレンの診察シーンは、まっとうな医療行為なのにセクシーなシーンにも見えるところがユニークです。

そこもこの作品の大きな売りの1つなのかなと考えています。モンスター娘を描いたほかの作品でも、少しエッチな描写はありますし、モンスター娘を好きな方の中にはそういう需要もあるみたいなのですが、アダルトすぎる表現にはいかず、医者の診察という行為の中でその需要に応えている。原作の折口先生の発想が面白いですし、すごくうまいなと感心しました(笑)。モンスター娘が恥ずかしがったり、思わず声を出してしまったりするような行為も、グレンはあくまでも診察として行っているので、エッチな男の子には見えないよう気を付けています。

想像を超えるような面白いお芝居がたくさんあった

──メインキャラのキャスティングに関しては、オーディションが行われたのでしょうか?

はい。メインキャラのほとんどはオーディションをやらせていただきました。

──では、各キャラクターのキャスティングのポイントを教えてください。まず主人公グレン役の土岐隼一さんについてお願いします。

頼りなさそうにも見えるグレンだが、若くして師匠に認められ診療所を任されるほど優秀な青年だ。

グレンは年齢的に男性が声をあてるか、女性が少年声で声をあてるのかの境目なところなんですよね。あと、あまりイケボだと診察シーンなどがアダルトな感じになってしまうし、少年っぽさを出したいので女性にお願いしようかという考えもあったんです。実際、オーディションには女性声優さんにも参加していただきました。

──なるほど。では、土岐さん演じるグレンがそれらの条件をクリアしていたわけですね。

土岐さんのお芝居は、純真な少年役にぴったりだなと思ったんです。土岐さんも、大人でイケボなお芝居はできると思うんですけれど、グレンに関してはさわやかに演じていただいています。

──サーフェ役の大西沙織さんの起用理由についても教えてください。

しっぽでグレンの体を拘束するサーフェ。

大西さんには「ぼくたちは勉強ができない」で、メインヒロインの1人である(緒方)理珠の親友の、関城(紗和子)という役をやっていただいたんです。そのとき、きれいな芝居だけではなくて、鼻血を流すとか、よだれを垂らすといった芝居もすごくリアルに演じていただいたんですよ。まだ若い世代なのに、テクニックだけでやるのではなくて、役者としてしっかりと感情を乗せて芝居をしているところがすごいなと思って注目していました。サーフェはただの普通のきれいな女性ではなく、蛇の要素というか妖艶な一面も持っているし、逆にすごく素朴な一面もある。だから声質のイメージが合うことに加えて、そういったいろいろなお芝居ができるということで、ぜひ大西さんにお願いしたいと思いました。もちろん、いろいろな方の意見を踏まえて決まったことなので、僕が1人で選んだわけではないんですけどね(笑)。

──先ほど、ティサリアはお嬢様ヒロイン、ルララは後輩的な立ち位置、アラーニャは妖艶なキャラクターとおっしゃっていましたが、キャストを選んだポイントはやはりそのあたりでしょうか?

そうですね。ティサリア役のブリドカット(セーラ恵美)さんは声質やお芝居に気品を感じるところがあって適任だと思いました。ルララ役の藤井(ゆきよ)さんはルララの少年っぽいというか、中性的なところもあるような声をオーディションでとてもうまく演じてくれたんです。アラーニャはグレンを誘惑してくるキャラクターなので、お姉さん的な立ち位置をイメージさせる声質も含めて、嶋村(侑)さんにお願いできたらと思いました。

──アフレコでは人間の女の子を演じてもらう際の演技指導とはまた違う、モンスター娘役ならではの演技へのディレクションを行うこともあるのでしょうか?

ティサリアはリンド・ヴルムにある闘技場の闘士でもある。

基本的には人間のキャラクターと変わりません。ただ、例えばサーフェですと、長い舌を動かすような蛇的な演技をしてもらったり、ティサリアが叫ぶときには馬のいななき的な要素を少し加味してもらったりといったことはありました。

──その際は、具体的に「舌でこんな音を」などと伝えるのでしょうか?

キャストの皆さんは、人間はもちろん、動物や動物的なキャラクターもいろいろと経験していらっしゃるんでしょうね。こちらからは大まかな方向性などを伝えただけなのですが、想像を超えるような面白いお芝居がたくさんありました。

初心者には「モン娘入門編」として提示できたら

──本作には、「モン娘(むす)好きによる、モン娘好きのための、モン娘医療アニメついに誕生!!」というキャッチコピーもありますが、この言葉は岩崎監督も強く意識しているポイントなのでしょうか?

「モンスター娘のお医者さん」PVより。

まず第一に、モンスター娘を好きな方たちに楽しんでもらえるように、ということは意識しました。原作の折口先生ももともとモンスター娘が好きな方ですし、最初にお話ししましたが種族ごとの特徴といった、モンスター娘が好きな人たちの中での共通認識などはしっかり押さえるようにしています。とはいえテレビ放送もされるアニメーションなので、モンスター娘のことをあまり知らない人にとっては「モン娘入門編」のような形でも提示できたらいいのかなと思います。

──モンスター娘にあまり詳しくない人には、入門編として本作のどのようなところを楽しんでほしいですか?

「モンスター娘のお医者さん」PVより。

この作品では人間とモンスターたちが対等な立場で描かれています。さまざまな種族がお互いの長所や短所を理解し合って、支え合いながら一緒に暮らしているリンド・ヴルムという街を素敵だなと思ってもらえるとうれしいです。そしてもし、お気に入りのモンスター娘や種族に出会えたら、そこをきっかけにほかの作品も観てもらえると、モンスター娘界隈もさらに盛り上がって良いですよね。

──モンスター娘に関する知識が無くても、楽しめる作品ということですね。

全然詳しくない人でも、人間とはちょっと変わった魅力のある女の子たちが出てくる作品として楽しんでいただけると思っています。