コミックナタリー PowerPush - 宮城理子「ミカド☆ボーイ」

執事の次は昭和スパイ!「メイちゃんの執事」作者、あこがれの神山健治監督と異色対談

宮城理子×神山健治監督対談

社会問題を入れることで作りものの物語に真実味が出る(神山)

左から宮城理子、神山健治。

宮城 お忙しいところお時間頂きましてありがとうございます。これ、おみやげです。シャレですが……。

神山 「神山すだちサイダー」(笑)。ありがとうございます、いただきます。

──今回、宮城さんは「神山監督は社会に対する思いや問題意識を持って作品に取り組んでいる気がする」とおっしゃっていたんです。なら、それをぶつけましょうということになり、対談をセッティングさせていただきました。

宮城 ご本人は、そういうことはあまり意識されていませんか?

神山 そうだなー、まあアニメって基本的に全部作りものじゃないですか。そういう社会問題を入れていくことでキャラクターや物語に真実味が出るというか、嘘っぽさが少し本当っぽくなるというか、そういうことは意識してますね。

戦前と震災後のいまは似ている気がする(宮城)

──宮城さんも作品を作るうえでそういうことを考えたりされるんですか?

「ミカド☆ボーイ」は昭和12年の日本が舞台。

宮城 今回の「ミカド☆ボーイ」の舞台である昭和初期、戦前って、なんだか震災後のいまと似ている気がしてるんです。震災のとき、「こうやって世界は終わっていくのかもしれないな」ってふと思って。いろんな情報が隠蔽されていて、ちょっと大人に対して不信感を持ったり。そんなときにふと思い浮かんだのは第二次世界大戦前の子どもたち。戦前は「アジアの諸国を救うために我々日本軍はこんなにいい活動をしている」って教わっていたわけですよね。それがある日突然敗戦して、「ごめん、いままでの全部嘘だったわ」ってひっくり返されたときのあの感じってどうだったのかなって。ただそのあたりはいろんな人が描かれているので、その前の、騙されている最中のことを描いてみようかなと。

神山 「我々は正しいですよ」と言われているとき。

宮城 日中戦争がはじまるくらいの、そこそこ平和な生活が送られていたときの。学校の先生が言ってることとか新聞に載っていることを真に受けるんじゃなくて、自分の頭で考えて実行して生きているような少年少女を描いてみたいんです。「大人たちはいろいろ言ってるけど、でも自分はこうなんだ」って行動できる主人公が描ければいいなと思ってるんです。

神山 そうだったんですね。拝読して、正直そこまでは読み取れていませんでしたが、それはやはり少女マンガ誌での連載だからでしょうか。

宮城 それはありますね。カモフラージュと言いますか(笑)。

神山 それ、すごくいいなと思います。僕は作品を作るときに、どうしても問題意識みたいな部分が前に出すぎてしまう傾向があって。「東のエデン」でも、バランスを取るのがすごく難しかったんです。「ミカド☆ボーイ」は毎回ポイントになるセリフがあったりして、全体的な楽しさから真面目になるところの緩急が効いてますよね。バランス感覚が素晴らしいなと思いながら読ませていただきました。

宮城 ありがとうございます。

まわりから「戦争は描かないほうがいい」と言われる(宮城)

神山 僕もちょっと見習いたいな。僕なんか、特に原作のないオリジナル作品では楽しい部分を忘れがちなんですよね。でも少女マンガ家さんが「今はまた戦前なのかもしれない」という時代意識を持って、でもあくまで少女マンガを描かれているというのは、何か感じるところがありますね。

神山健治

宮城 でも周囲の人、特に女性からは「戦争は描かないほうがいい」と言われているんです。それは見たくないものだって言うんですよね。

神山 なるほど。いまこれだけ豊かなのに現実がつらいから、マンガやアニメを見てまでつらい思いはしたくないんでしょうね。

宮城 たぶんそういうことなんだと思います。特に女の子が読者の媒体ですから。

神山 それは僕の作品を見てくれる人もそうです。若い人は特に。なので、その嗅覚は当たってはいると思いますよ。でも、マンガやアニメはただの逃避するだけのものではなくて、何かのヒントになるとか、少し自分のステージを上げてくれたりするものでもあるべきだと思うので、戦争を描いたとしても、それが何かの気づきになればいいですよね。

宮城理子「ミカド☆ボーイ(1)」 / 2013年7月25日 / 420円 / 集英社 / マーガレットコミックス
宮城理子「ミカド☆ボーイ(1)」
あらすじ

昭和12年4月。世界大戦前夜の東京の片隅で、ひとりの少年がこの国の運命を左右するかもしれない大事件に巻き込まれようとしていた!! 本編の主人公・柴田英人(ヒデト)は名門中学に入学を決めた秀才。前途洋洋な人生のハズが、入学式当日に謎の少女の誘いにより、「神田商会」という怪しい会社に迷い込んでしまう。そこで、タダならぬ雰囲気をまとう神田という男に帝国少年諜報部「ミカド ボーイ」にスカウトされるのだが……。少年スパイがオトナの世界の闇を暴く冒険活劇漫画!!

VOMICも配信中!

柴田英人(CV:朴ロ美)※ロは王へんに路
銀(CV:小松未可子)
神田吾郎(CV:立木文彦)
桃子(CV:林真里花)

マーガレット

2013年で創刊50周年を迎える少女マンガ誌。毎月5日、20日発売。

宮城理子(みやぎりこ)
宮城理子

「しあわせな冬の日のために」で新人賞を受賞以来、 「花になれっ!」「ラブ▼モンスター」(▼はハートマーク)などを執筆し、マーガレット(集英社)で活躍中。2006年から 連載が始まった「メイちゃんの執事」は 水嶋ヒロ・榮倉奈々主演でドラマ化され話題に。同作は宝塚歌劇で舞台化もされた。2013年からは、マーガレットにて「ミカド☆ボーイ」を連載している。