メロディ特集 第3回 「ぼくは地球と歌う」日渡早紀×斉藤壮馬|リスペクトし合う表現者2人 木蓮の歌のような、透明感溢れる往復書簡

往復書簡3 斉藤壮馬から、日渡早紀へ

日渡先生へ

 日渡先生、とても素敵かつあたたかいご返信をいただけましたこと、心より嬉しく思っております。本当にありがとうございます!

 フロイトとアインシュタインも往復書簡を交わしていたのですね、それは存じ上げませんでした……!

 戦争、争いというのは永きにわたる人間の持つ根源的かつ難解なテーマのひとつでもありますが、そのやりとりを語られる日渡先生の言葉選びもこれまた優しげなまなざしで、あたたかい気持ちになりました。

「GLOBAL GARDEN」文庫版1巻

 そういえば、先生の『GLOBAL GARDEN』もアインシュタインが重要な登場人物のひとりでしたよね。と思い出して、さっそく読み返しました。読み返したらなんと……クライマックスでナラダがそのことに触れていましたね! 読んだはずがすっかり忘れておりました、失礼いたしました。シシィがあまりにもひたむきで、彼女の気持ちで再読しておりました。ハルヒ(ライル)も本当にかわいそうな人ですよね……ネタバレになってしまうので書けませんが、ラストまでの流れは何度読んでも泣いてしまいます。ヒカル……!

 さて、お返事を拝読しまして、まず先生の文体、言葉選びがもうすでに『ぼく地球』をはじめ先生の作品のままで嬉しくなりました。なにを申しているのかという話ですが、自分は先生の漫画を含め、コマの欄外に手書きでコメントが書かれているあの演出がたまらなく好きでして……(いい意味での親しみやすさや、裏側を知ることのできたお得感みたいなものを感じますよね!) (←こういうものとか)というふうに、ひとりで勝手に盛り上がってしまった次第でございます。

 ぼくのふわっとした質問に対し、これまた素敵なお答えをありがとうございます。先生のおっしゃるように、ぼくたちはその言葉にできない感覚を、作品の形にして届けているのかもしれませんね。そしてたぶん、それはものを作ったり表現したりすることに限らず、誰しもがそれぞれの形で行なっていることなのかも。なんだかまたもやしっくりきた感覚です。

 そして、『ピアノの森』『正解するカド』『ヒプノシスマイク』等々……自分の出演作品にも触れてくださり、ありがとうございます!

 我々の仕事は、あくまでも作品があって、登場人物がいたうえで、その彼ら彼女らの「声」を担当するものだと思っております。ともすると、いつのまにか我欲が出てきて、自分がこの人物のすべてなのだ、というような誤った考えに陥ってしまいがちです。

 けれど、大切なことは、まさに先生が言ってくださったような、「演技ではなくて、本人なのではないか」と思ってもらえるくらいに役に「溶け込む」ということなのではないかな、と未熟ながら思っております。

 その流れから質問にお答えしますと、自分にとって最初に知った声優の先輩が石田さんであり、また石田さんがものすごく役や作品の世界に「溶け込んで」いらっしゃるように感じたのが、ひとつの大きなきっかけだったのかもしれません。

 ぼくは声優という職業を認識したのが中学3年生〜高校1年生くらいだったのですが、あるアニメ、そしてゲーム作品に触れた際に、「あれ? これはもしかして、同じ方が声を担当されているのでは?」と、遅ればせながら初めて気がついたのです。調べてみると、自分がもっと小さいころに好きだった作品の様々なキャラクターを石田さんが担当されていることがわかりました。そこから一歩を踏み出し、今こうして様々なご縁が繋がっているのは、とてもありがたいことです。

 どんな人にも、その人それぞれの個性があり、違いがありますよね。おこがましくも、芝居というのは、その「誰にもなれないこと/誰でもないひとりだけの存在であること」を表現していくことなのかもしれないな、と思ったりもします。でも、そんな大層なことを言える立場ではとてもなく、日々小さなことを積み重ねていかなければならないな、とこの文章を書きながらも再度気を引き締めました。

 これから先、どんなご縁に巡り合えるかはわかりませんが、そこでいただいたものを自分だけのものにしておくのではなく、次の人へとつないでいけるように、おごらずに、穏やかに生きてゆければいいなと思っております。

 今回は、いちファンである自分がこうしてやりとりをさせていただけましたこと、本当に幸せに思っております。前回も書きましたが、『ぼくは地球と歌う』がこれからどうなっていくのか、心より楽しみにしております。

 最後に質問というか、もしよろしければで構いませんので、『ぼく歌』のこれからについて、お聞きできる範囲での展望を伺えましたら嬉しいです(もちろん、メッセージは作品に込めていらっしゃると思うので、作品を読んで感じられることを心待ちにしているのですが)! また、それとは別に、今後書いてみたい作品や物語についても、こちらももしよろしければお伺いしてみたいです……!

 この往復書簡の企画のお話をいただいて、改めて先生の作品を読み返しました。どの作品にも泣かされ、勇気づけられ、すこし肩の力が抜けて、楽になりました。作品の、そして先生ご自身が持っていらっしゃるあたたかい空気に、そっと抱きしめてもらえたような気がしております。その気持ちを、やはり次につないで育ててゆけるよう、日々精進して参りたいと思います。

 これからも先生がご健康で、たくさんの素敵な作品を生み出してゆかれますよう、いち読者として心より祈っております。この度は本当にありがとうございました!

斉藤壮馬 拝

追伸

 いただいたメッセージを伝えたところ、家族一同とても喜んでおりました。重ねてありがとうございます!

往復書簡4 日渡早紀から、斉藤壮馬へ

斉藤壮馬さま

書簡2通目、拝読させて頂きました。
しかも、今回もまた、誠に素敵な言葉の数々!
本当にありがとうございました。

そしてまず最初に、拝読直後の感想を…述べさせて頂いても良いですか?

『......この方、男の木蓮や!!』

改めまして、斉藤壮馬さま。
この度は私の質問に、聡明且つ涼やかなご返答をありがとうございました。

「ぼくは地球と歌う」イラスト

いやぁ。
なんと言いますか、男の子の木蓮だわ〜斉藤壮馬さん…と正直思いましたよね。(いきなり馴れ馴れしくて申し訳ありません汗)
おそらくどの作品にご出演されていたとしても、《気持ちは歌に、歌は空気に、愛は光に》の心意気を、私でしたらマジで感じ取れてしまうのではないかと思ってしまったほどです。
きっと本当に、《溶け込む事》を無意識にされておいででいらっしゃる。
空気、或いは大気になろうとしておいでなのですね…。
その御姿勢は私の描き手としてのスタンスとまるで同じです。
私は多分、各作品の中の空気であろうとしているのだと思うからです。 空気であれば、どのキャラにも寄り添えるからです。

それでいて、『誰にもなれない事/誰でもないひとりだけの存在である事を表現していくのが 芝居である』と仰る。
コレは名言ですよ!!

溶け込む=誰にもなれない/誰でもないひとりだけの存在であること。
こうした公式が成り立つというのは、とても興味深いです。
何故ならとても合点がいくからです。

《物語を完成させるのは観ている側》だという着地点が私の持論です。
そこには、誰にも邪魔出来ない、その読み手さんだけのキャラクターが存在する訳です。
そんな中での、どなたの読者さんの耳にも

《はっ…!このキャラが喋った!》

…と届く声。
つまり斉藤さんが目指すのはそこなのかなと思いました。

石田さんの存在は、斉藤さんの原点でもあり、繋いで行きつつも、理想の山へと誘う道程なのかもしれませんね。
けれども。
斉藤さんの一番の武器の素直さと温かい息吹(私が思うところのですが汗)で、石田さんとはまた違う、斉藤さんだからこその、澄んだ空気の頂きに歩まれて行かれるのだろうな〜と思いました。
斉藤さんのこれからが楽しみです。
どんなキャラの、どんな声を届けてくれるのかな。
ワクワクします!

ところで。
『これから頂くご縁のものを、自分だけのものにしておくのではなく、次の人に繋いでいけるよう、おごらずに穏やかに…』
この部分は私の持ちキャラで表現しますと、何となく未来路が言いそうな感じなのですよね…。
斉藤さんもきっと未来路みたいに、すごく控えめで居たいと常に思っていらっしゃるにも拘らず、きっと知らず知らずの内に目立ってしまうのではないのかな〜…と、手前味噌ながらも推察致しました(笑)。
(木蓮もそんな感じですもんね。やっぱり男木蓮かな)
ヒプノシスマイクでの斉藤さん、目立ってますよ〜私にはですけど。
すごぉ〜〜くセクシーっす。いやホント。

それと、それと…!
『GLOBAL GARDEN』にまで再び御目をお通し頂けたとのこと…本当に感激致しました。 だって…初見じゃないのですもの!!
再読とあるのですもの……。
泣いちゃうですよ本当に……。
ありがとうございます(涙)
本当にお読み頂けているのだなぁ…と、なんだかシミジミ感激してしまいました…。

さて、では最後に。
恥ずかしながら、斉藤さんの御質問にお答えさせて頂きつつ、この書簡の締め括りに入らせて頂きたく存じます。

『ぼくは地球と歌う』のこの先の展開についてですが…。

私にも分かりません。はい。
今は紡ぐのに精一杯な感じです。
何処に向かっても対処出来るように努力中です。
ただ、現実が今、凡ゆるフィクションを超えて行ってしまいそうな様相なので、焦ってもいます。
まだ世の中がフィクションをフィクションとして読める内に、何とか間に合うように描き上げたいとは思っています。
『ぼく地球』は近未来SFであったはずなのに、連載終了時には現実が時代を超えてしまいました。
私はどうもそういうパターンなので、今回はなんとか避けたいところなのですが…。

「ぼくは地球と歌う」1巻より。同作は蓮が謎の少女と出会うシーンから始まる。

それと、これから描きたい世界についてです。
実は、あります。理想です。
けど、私のような未熟者では描ける訳ないと、打ちのめされる程に神作のコミカライズなのです。
私の夢は、宮澤賢治先生の『銀河鉄道の夜』を私の感性で描くことだったりします。
あの世界の空気に溶け込んでみたいと、不遜にも思ってしまう私なのでありました。
けど、この夢が実現するとはあまり思ってはいません。
何しろ、恐れ多過ぎるのです。

今回斉藤さんと、こんなに本当に面白くて、楽しい時間を共有させて頂けましたことに、心より感謝申し上げます!!
そして、素敵な往復書簡の機会を設けてくださいましたコミックナタリーさんや、編集部、関係者の方々にも心より感謝申し上げます。

斉藤さん!
楽しゅうございました、ありがとうございます!!
確か斉藤さん、山梨県出身でいらっしゃいますよね。
わたし今回の作品で山梨県に取材に行かせて頂いたんですよ。
あの富士山の雄大さはバンっと目に焼き付きますよね。
富士山の様に美しくも潔さを携え、裾野をゆったりと広げた、誰でもないただひとりの、【斉藤壮馬】という名の声優、俳優さんになってください!!
きっと斉藤さんの真摯な息吹は、これからもキラキラと凡ゆるキャラクターを輝かせるに違いありませんから。
そのご活躍を、これからは陰ながらひっそりと応援させて頂きます。

斉藤壮馬さんと御家族さまの御多幸と、斉藤さんのまだ見ぬ素晴らしい未来に乾杯!!
今回は本当にありがとうございました!

日渡早紀