メロディ特集 第1回「大奥」|よしながふみ×テレビ東京プロデューサー佐久間宣行

1997年に創刊された白泉社の女性誌・メロディの魅力をご存知だろうか。清水玲子、日渡早紀、成田美名子、樹なつみ、ひかわきょうこ、河惣益巳ら往年の花とゆめ・LaLaで活躍した作家陣の最新作が連載され、よしながふみ「大奥」といった人気作から斉木久美子「かげきしょうじょ!!」をはじめとした注目の作品、高橋しんの意欲作「髪を切りに来ました。」まで、多彩なラインナップで読者をマンガの世界に引き込む。

コミックナタリーでは、メロディの魅力を深掘りすべく連載作の特集を3回に分けて公開。第1回となる今回は、いよいよ最終章に突入した「大奥」を連載中のよしながふみと、よしながの大ファンであるテレビ東京プロデューサー・佐久間宣行の対談を実施した。佐久間の怒涛のよしなが作品愛トークからスタートしたこの対談は、エンタメ作品の作り手である2人の核となる部分をあぶり出していく。

取材・文 / 三木美波

同人誌も含めてよしなが先生の著作は全部持ってます(佐久間)

佐久間宣行 今、僕めちゃくちゃ緊張していて。なぜならですね、これから一番好きと言っても過言ではないマンガ家さんとお話するからなんですけど。

よしながふみ え!? いやいや、とんでもないです。

──佐久間さんとよしなが作品との出会いはいつ頃だったのでしょうか?

佐久間 1990年代後半、大学生の頃ですね。最初は「月とサンダル」だと思います。マンガ好きの後輩から「これ知ってます?」って教えてもらって。とにかく面白くて、その後「こどもの体温」かな。「ソルフェージュ」「1限めはやる気の民法」も買って。コミケでバイトをしていたので、同人誌も含めてよしなが先生の著作は全部持ってるはずです。「西洋骨董洋菓子店」「愛すべき娘たち」「フラワー・オブ・ライフ」の辺りからはリアルタイムで読んでて。「あのひととここだけのおしゃべり」は素晴らしすぎて3冊買って、2冊は後輩たちにプレゼントしました。

よしなが え、すごい! はあー(感嘆)。ありがとうございます!

佐久間 妻は僕以上によしなが先生への愛が深くて。新婚時代に、「愛がなくても喰ってゆけます。」に出てきた北島亭に行ってるんですよ。マンガを読んで「子供ができてからだとすぐには行きづらくなるから行きたいね」って。僕はその頃グルメなほうじゃなかったんですけど、「愛がなくても~」を読んで妻と「いろんな美味しいお店行こうね」と話した覚えがあります。

よしなが そうですか! すごくいいですね、お料理の量が多いので若いうちに食べておくべきお店だと思います。

「こどもの体温」(白泉社文庫版)より。亡くした妻の実家で、義父とシフォンケーキを作る高紀。

佐久間 それに、僕が最初にお菓子を作ったのは「こどもの体温」のシフォンケーキなんです。

よしなが 「こどもの体温」の頃は、まだレシピをざっくりとしか書いてなかったからすごく大変じゃなかったですか? 型はどうなさったんですか?

佐久間 買いました。そう言えば、その型を使って「トーキョーライブ24時」という番組の企画で、堂本剛くんの誕生日祝いにバナナのパウンドケーキを焼いてプレゼントしたこともあります。「きのう何食べた?」のレシピで作ったんです。

よしなが え!? じゃあ堂本剛さんはそれをお召し上がりになったということですか?

佐久間が気合いを入れるために作った唐揚げ。

佐久間 ええ。「おいしい。レシピ教えて」って言われたから、「なに食べ」渡したんじゃなかったかな? ちょっと記憶が曖昧ですが……。

よしなが すごい……堂本さんが……。卒倒しちゃいそうなエピソードですね。

佐久間 この対談に向けて気合い入れようと思って、昨日の夕食は「なに食べ」のシロさんの実家の唐揚げを僕が作りました。あの唐揚げ、めちゃくちゃうまいっす!

よしなが 本当にうれしいです、ありがとうございます!

理性があるところとちゃんと残酷なところが
よしなが作品の魅力(佐久間)

──佐久間さんは、よしなが作品の魅力はどこだと思いますか?

「フラワー・オブ・ライフ」3巻(白泉社文庫版)より。

佐久間 ご本人を前に言うのもあれなんですけど(笑)、まず世の中の捉え方に関してすごく理性があるところ。きっとよしなが先生は考え続けることをやめてないんだと思うんです。それに、ちゃんと残酷なところ。厳しかったり残酷だったりする世の中を「そういうもんだよ」としっかり描いてるから、登場人物たちが振り絞って出す勇気とか、ふいの優しさとかがすごく感動的なんですよ。僕は「フラワー・オブ・ライフ」の最後で描かれた「10年に一度の天才じゃなくたっていいじゃないか!」「僕は天才になりたいんじゃない マンガ家になりたいんだ!」っていうセリフに支えられていた時期があって。たぶん僕だけじゃなく、物づくりをする人とかはあのシーンに励まされた人がたくさんいると勝手に思ってます。

よしなが うれしいです。「フラワー・オブ・ライフ」のそのシーンは、自分に言い聞かせるように描いたところです。

佐久間 ああ、やっぱりそうなんですね。あとよしなが作品の魅力は、何年経っても古びないこと。例えば僕には中学2年生の娘がいるんですけど、「こどもの体温」の紘一と娘が同い年だった去年、読み返して。子育てに関して、紘一の父親と同じくらいのテンションで読めました(笑)。でもよしなが先生が「こどもの体温」を描いてた頃ってまだ20代前半くらいですよね。

よしなが そうです。25歳くらいだったかな。

佐久間 いや、信じられないですよ。僕は「こどもの体温」を20歳少し過ぎたときくらいに初めて読んだんですが、とんでもなく大人で人生経験のある人が描いてるって勝手に思ってたんです。そのちょっと後によしなが先生のご年齢を知って、僕とそんなに変わらないので衝撃を受けました。20代であれを描けるなんて……。

よしなが 「こどもの体温」を描いていた25、6歳の頃にコミケで読者さんから「お若いですね!」って言われたことがあって。25、6歳の若いときでもうれしくて「え、本当ですか?」と言ったら「とてもお子さんがいらっしゃるようには見えません!」と言われたことがありましたね。「いや、いません!」って。なんだ、子持ちの人だと思われただけかと(笑)。

佐久間 あはは(笑)。

「こどもの体温」(白泉社文庫版)より。

よしなが 「こどもの体温」は自分が子供の頃、「親って大変だなー」と思ったことがあったんです。子供がしでかした不祥事の後始末は全部、その子の親だというだけで親がやらなきゃいけないんだなと。親だってただの人間なのに。割と小さい頃から思っていたことをマンガにしてみました。

佐久間 よしなが先生の作品には、家族がけっこう出てきますよね。

よしなが 父親がよく家にいる人で、小さい頃からたくさんしゃべってたんです。普段から割とダメなところを包み隠さず、子供である私に「親ってすごく大変なんだよ」って(笑)。それが面白くてマンガでも描くのかもしれません。