コミックナタリー Power Push - 第15回文化庁メディア芸術祭
福満しげゆきと白井弓子が包み隠さず語る 応募したら「こんないいことありました」
正直に言うと僕、もう1回、贈呈式に行きたいんです
──今日はWinner's Interviewとでも言いますか、文化庁メディア芸術祭に応募して受賞したら、こんないいことがあったよ、というのを教えていただければと思っています。そもそも福満さんはメディア芸術祭のこと、受賞前からご存じでしたか?
ええ、それは、もう。同じ漫画アクション(双葉社)で連載している「この世界の片隅に」とか「鈴木先生」が受賞して出世していくのを、横目で「いいなあ……」って見てましたから。
──受賞の報せを受けてから贈呈式に出られてみて、どんな感慨がありましたか。
最初聞いたときは、そうは言ってもどれほどの規模のものか理解していなかったんです。それが贈呈式の当日、会場に行って驚きましたね。美術館に自分のマンガが大きく展示されていたりして、すごい豪華で……。なのに!
──なのに?
展示されてる原画がですね、妻がフキダシの文字を書いた回のだったんですよ。担当編集の國澤さんが選んだんですけどね、なんでわざわざ妻が書いてるやつにするかなーと思いましたね。妻の字が、実に頭の悪そうな字なんで、それをああいう場に出すなんて。
──や、そこは「妻」の人柄がしのばれるというか、ハートウォーミングな感じでよかったですよ。贈呈式はいかがでした?
壇上に上げられて、緊張して気絶しそうでしたよ。でも「寄生獣」の岩明先生を近くで見れたので嬉しかったです。
──受賞すれば憧れの人にも会えると。
正直に言うとですね、今回もまた申し込んでくれないかってお願いしたんです。僕はもう1回贈呈式に行きたいんですよ。式の会場でですね、今日マチ子さんにお会いしたんですが、中学校のとき学級委員だったF田さんに似ていまして、すごい僕のタイプで。一緒にいた担当さんも可愛かったので、式に行けばまた会えるんじゃないかと……。
知名度のない方、権威っぽさが薄い人は、チャンスかも
──そんな贈呈式から帰ってきたあとで、いいことはありましたか。例えば受賞が作品にフィードバックされた、というような。
あのですね、受賞したおかげで、中学の同級生の女の子とメールができましたね。その子は非常に権威主義的な娘さんだったので、枕詞として「文化庁の奨励賞に入った僕ですが」と付けて送ったところですね、いい返事がもらえまして。中学当時はずいぶんとナメられたもんですけど、今はおかげさまでメールのやりとりができるようになりました。
──ナメられてた女性と対等な会話ができるようになる。素晴らしいですね賞って。
でもですね、どんないいこともですね、すぐ、悲しみに変わるんですね。
──ああー(笑)。
そりゃ贈呈式はすっごい楽しいですよ。でもやっぱり時間の経過とともに「あのとき楽しかったなあ」、そして「今すごいつまんないな」となるんですよ。やがて記憶も薄れていきますし、それでまた受賞のときの快楽を求めてさまようんですね。そうなってくると、人生って何だろうって話になってくるんです……。
──哲学的な問題ですね。人はいつ満たされるのか、と。
そうです、そういうことです。結局、このような賞の輝かしいステージと、実際のショボい自分とのギャップを、より激しく感じてしまうようになるんですね。そこをなんとか、マンガが描けてるってことで、やっと自分を維持しているんですよ。それでやっと人前にも出れるし、担当さんにもモノが言えるし、外も歩けるようになる。だから結局、マンガを描き続けるしかないんです。
──うん、もう一度受賞しましょう、生きるために(笑)。えー、今年応募しようとしているマンガ家と編集者たちにエールをお願いします!
そうですね、知名度のない方であれば知名度を上げるチャンスになるかもしれないですし、ある程度は知名度があって売れていても権威っぽさが薄い人、そういう人は権威感を獲得できるかもしれません。
──権威感(笑)。
あと編集者さんも結果出してナンボの世界ですから、自分が担当してる漫画が賞にでも入れば、編集者として株も上がるかもしれませんので。
──箔を付けるチャンスだぞと。あとメディア芸術祭は今年から新人賞が設立されました。まだ名もなき新人のマンガ家たちにメッセージを。
やっぱりいろんなステップアップの方法があると思うんですよね。そのうちのひとつと思って、なんでも果敢に挑むのはいいことですから、まずは応募してみて、たぶんダメでも……まずは申し込んでみるのがいいと思うんです。あ、あと、ひとついいですか?
──はい、もう、なんなりと。
賞の価値をキープするためには、運営側のチョイスって非常に大事だと思うんですよ。僕が考えることじゃないかもしれませんが、マンガファンを唸らせる作品がいいですよね。「ほう、そこに目を付けますか」とか「全然知らない作品だったけど、読んでみたら面白いじゃないか、さすがだ」と、そう言われる選定が。例えば「ハイ大賞は『ONE PIECE』でしたー」みたいことになったらがっかりするじゃないですか。
──安易にビッグタイトルに賞を出すのは賞の価値を落とすんじゃないかと。
いや、ちょっと待ってください……。
──どうしました?
ひょっとして、もしそうなったら僕は「ONE PIECE」と同じ賞に輝いたってことになるんじゃないですか……? 「ONE PIECE」、穫った方がいいかもしれない(笑)。
文化庁メディア芸術祭
メディア芸術の創造とその発展を目的として、1997年から開催しており、今年で15回目。アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で世界中から作品を 募り、優れた作品に文化庁メディア芸術祭大賞などを顕彰する。また、受賞作品展を来年2月に国立新美術館で開催予定。8月21日に開催されたCOMITIA97では、文化庁メディア芸術祭のブースを初出展し、作品のエントリーを受け付けるという試みも実施した。
文化庁メディア芸術祭 ドルトムント展2011
国際的な発信力の強化を目指して行われている海外展、今年度はドイツにて行われる。4部門の展示のほか、日本のポップカルチャーを伝えるライブイベントも敢行。こちらはネット中継も予定されている。
期間:
2011年9月10日(土)~10月2日(日)
出品作品(マンガ部門):
山本直樹「レッド」、よしながふみ「大奥」、あずまきよひこ「よつばと!」、山田芳裕「へうげもの」、井上雄彦「バガボンド」、岩明均「ヒストリエ」
ライブイベント開催日時:
9月9日(金)20:00~23:00(ドイツ現地時間)
出演:ももいろクローバーZ、sasakure.UK feat初音ミク/onom+kmd、宇川直宏
福満しげゆき(ふくみつしげゆき)
1976年5月11日東京都生まれ。本名は福満茂之(読み同じ)。1997年、月刊漫画ガロ(青林堂)にて「娘味」でデビュー。別冊ヤングマガジン(講談社)などに掲載された短編を経て、2002年よりアックス(青林工藝舎)にて連載された「僕の小規模な失敗」でブレイク。投稿時代のエピソードを細やかに描いた同作は、自伝的内容でコアなファンを獲得した。2006年より週刊モーニング(講談社)で続編にあたる「僕の小規模な生活」、2007年には漫画アクション(双葉社)にて「うちの妻ってどうでしょう?」の連載を開始。過去の短編をまとめた単行本も発売された。2010年、「うちの妻ってどうでしょう?」で文化庁メディア芸術祭奨励賞を受賞。
白井弓子(しらいゆみこ)
1967年生まれ。愛媛県出身、大阪府在住。京都市立芸大油画専攻。児童文学の挿絵や4コママンガを制作する。同人誌で発表していた「天顕祭」が第11回文化庁メディア芸術祭の奨励賞を受賞し、2008年にサンクチュアリ出版から単行本化された。2011年には月刊IKKI(小学館)にて連載していた「WOMBS」2巻が刊行され、以降の物語は単行本描きおろしにて発表を予定している。