まんが王国 presents もし羽多野渉が書店の店長だったら…?|ライバル店の江口拓也とPOP作り対決

羽多野渉インタビュー

書店を開くなら秋葉原の路地裏がいいな

──今日は江口拓也さんと書店員になりきり、ご自身が選んだおすすめマンガ5作品のPOPを制作していただきました。POPを作るのは初めてと伺いましたが、やってみていかがでしたか?

いやあ、時間を忘れて作っちゃいました。昔からマンガが大好きで、高校時代はマンガ・アニメ研究会という部活で副部長をやらせていただいてたんです。僕はどちらかというと描くより読むほうだったんですけど、絵が上手になりたくてスケッチブックに毎日1キャラクターずつ模写してたので、そのときの経験が少しでも活かせたらいいなと思いながら描いてました。でもすみません、予定時間だいぶオーバーしちゃいましたよね……?

──それほど楽しんでいただけてありがたいです(笑)。お手本を見ながら、1枚ずつとても丁寧に描かれてましたね。

羽多野渉

「SPY×FAMILY」のアーニャ、難しかったー。男性キャラクターは直線的だから勢いよく描けるんですけど、女性キャラクターって輪郭から髪からすべてが曲線的なので慎重にならないといけなくって。それに比べ、「エンジェル伝説」と「信長の忍び」の速さたるやね(笑)。

──あはは(笑)。

高校時代も「サクラ大戦」とか「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイやアスカを模写してたんですけど、いつも背景の戦闘機にばっかり一生懸命になっちゃって。この通り、女性の描き方は身につかなかったです(笑)。

──いやいや、絵が上手な方ってみんなそう謙遜されます。

まあ、江口くんと比べたら少しは上手いかもしれない(笑)。

──江口さんとはライバル店の店長同士という設定でしたが、先ほど江口さんへのインタビューで「もし羽多野さんが本当に書店を開くとしたら、どんなお店になりそうですか?」と聞いたんです。そしたら、すごくキッチリ整理整頓されたお店か、あらゆるエロ本を集めたお店のどっちかになりそうだとおっしゃっていて(笑)。

あはは、どっちかって!(笑)

──「変態紳士だから」だそうですよ(笑)。実際はどんな書店が理想ですか?

昔の秋葉原にあるような本屋さんがいいかなあ。それも路地裏の。秋葉原って最近どんどん開発されてキレイになっていってますけど、僕はオタクの聖地らしい雑多な感じが好きなんです。ちょっと見つかりづらい場所にあれば、人目を気にせず堂々と物色できる。僕みたいな古のオタクが入りやすい本屋さんにしたいですね。

──逆に、江口さんの書店はどんなふうになると思いますか?

それこそ江口くんの書店は、下北とか高円寺とか若者が闊歩するようなサブカル文化の根付いている街がいいんじゃないかな。江口くんのイラストを見ても、さすが若い感性を持ってるなと。

──ある意味“ゆるかわ”ですよね(笑)。

本はもちろんだけど、江口くんのイラストでグッズなんか作ったらめちゃくちゃ売れるだろうな(笑)。

お母さん、受け入れるのが早すぎる!

──ここからはPOPを作った順番で、羽多野さんのおすすめマンガについて伺っていきます。最初の「マイホームヒーロー」では、1巻表紙の哲雄を再現されていましたね。

これだけパッと見ると、まるでロックスターのような出で立ちですよね(笑)。僕もともと作画を担当されてる朝基まさし先生の「サイコメトラーEIJI」が大好きで、この作品も何か特別な才能を持ったカッコいい主人公のお話なのかなと思って手に取ったんです。いざ蓋を開けてみたら、どこにでもいそうな一家のお父さん(笑)。でもまた少し読み進めると、そんなお父さんが愛娘を守るために殺人を犯すサスペンスだったという。

──また驚きなのは、妻の歌仙も事件の隠蔽に協力するってことですよね。

お母さんは何も知らずに殺害現場に入ってくるじゃないですか。「もうダメだ。これを見られたら家族が終わってしまう……」なんてハラハラしてたら、お母さんがなんとまあ冷静なこと。状況の受け入れが早いんですよ(笑)。

──自分のほうから死体を埋めに行こうと提案してましたもんね。

でもよくよく考えるとそれって、お父さんが普段からしっかり“お父さん”という役割をやってきたからじゃないかって思ったんです。だからこそ「自分の夫が人を殺すなんて何か理由があるはずだ。だからまずは落ち着いて話を聞こう」っていう考えにお母さんが瞬時で行き着ける。物騒なシーンではありましたが、すごくいい家族なんだなと感じられました。

──印象に残っているシーンはありますか?

お父さんとお母さんがどちらも、殺した男の仲間に怪しまれて捕まってしまうところですかね。一方は車で連行されて、もう一方は自宅で拘束されてしまう。これは絶体絶命の大ピンチだ!って思ったら、さすが推理小説好きのお父さんですよ。すでに一歩先を読んでいて、なんかあったときのためにお母さんと口裏合わせをしていた。あそこには痺れましたねー。そうやってバレないように日々必死なお父さんとお母さん、そしてこの事件について何も知らない娘の対比も面白い。さすがは朝基先生、シリアスとコミカルさのバランスも最高です。

大河ドラマでは1年、「信長の忍び」では3分

──それでは「SPY×FAMILY」について、出会いから教えていただけますか?

「SPY×FAMILY」1巻

まんが王国で読む

©遠藤達哉/集英社

この作品はもともと、僕と長く一緒にラジオ(「羽多野・寺島 Radio 2D LOVE」)をやった寺島拓篤くんが番組内で紹介してくれたんです。絵がとっても好みだなあって読み始めたら、それ以上にスパイと殺し屋と超能力者が家族になるっていうプロットが見事すぎて。キャラクターだけを見ると壮大なスケールの物語になりそうなのに、あえてミニマムな世界が描かれている。連載開始から1年ちょっとですでに数々のマンガ賞を受賞されてますけど、これは人気があるのもわかるなあと思いました。

──一見騒々しそうなのに意外と平和というところが、さっきの「マイホームヒーロー」とは逆ですね。

確かに。ロイドなんか最初は隙がないぐらい完璧に見えたのに、今は家族のことになると翻弄されっぱなし。実はすごく人間味のあるキャラクターですよね。3人に血のつながりはなくとも、物語が進んでいくにつれて家族の絆が深まっていくのを感じます。

──そして「信長の忍び」ですが、アニメ版では信長役を羽多野さんが演じられています。放送は第3期まであったので、原作についてもかなり詳しくなったのでは?

そうですね。作者の重野なおき先生には何度もお会いさせていただいてるんですけど、重野先生って社会科の教員免許も持ってる歴史のエキスパートなんですよ。だからこのマンガで描かれてることって、ほとんど歴史書の裏付けがあるんです。

──へえ!

POPにも書きましたけど、信長が甘党だったことも事実なんだそうです。あとは部下の秀吉が妻のねねと夫婦ゲンカをしたとき、信長が仲裁役となって「秀吉を許してほしい」って手紙を送ったなんてことも。僕も以前は信長ってただただ怖い戦国武将っていうイメージでしたけど、意外にもチャーミングな一面があったんだなとこの作品を通して知りました。

羽多野渉

──それを聞くと、歴史の人物も一気に身近に感じます。

ですよね! だからイベントやラジオで何度も言ってるんですけど、ぜひ「信長の忍び」を学校の教材にしてほしい。僕も学生時代は日本史のテストの点数があんまりよくなかったんですけど、今はめちゃくちゃいい点数取れる気がします(笑)。

──信長が甘党かどうかとかはさすがにテストに出てこなそうですが(笑)、マンガは4コマですし、アニメもショートなので効率よく歴史を勉強できそうです。

それに付随すると、アニメの大地丙太郎監督がよく「この世で一番短い大河ドラマを作りたい」っておっしゃっていて。例えば桶狭間の戦いって、信長の名を世に知らしめる歴史的大事件だったわけです。当時の戦国大名でかなりの勢力を誇っていた今川義元が指揮する何万人もの兵を、信長は数千人というわずかな兵力で討ち取ってしまうという。これがですよ、アニメでは5分! いや、オープニングを抜いたら実質3分ぐらいか(笑)。

──短すぎる(笑)。

大河ドラマとかなら1年ぐらいかけてじっくり見せていくものをですよ? 重野先生も大地監督もさすがだと思います(笑)。