コミックナタリー Power Push - 映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

井上三太が語る、セックス・バイオレンス・マッドマックス

若者を熱狂させるのはセックスとバイオレンス

──井上さんのジョージ・ミラーに対するリスペクトもわかったところで(笑)、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」からどんなテーマを感じ取りましたか?

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は荒廃した世界を舞台にした映画。シャーリーズ・セロン演じるフュリオサはイモータン・ジョーに反逆し“緑の地”を目指す。

地球温暖化とか、石油の枯渇とか、核が発射されて死の灰が、とかいまの地球に問題がたくさんありますよね。危険なバランスの上に生きているってことを、架空の世界を作ってわからせる……。

──「マッドマックス」のような荒廃した世界にならないための、警鐘を鳴らすってことでしょうか?

うーん。言ってて思ったけど、この映画の素敵なところって、テーマとか警鐘とかを全部無視して観ていいところだよね。ものすごく頭の悪い中学生でも、「マッドマックス」を観終わった後には、なんらかの熱い衝動が残ると思う。

──わかります。中学生に衝動が残るといえば、「マッドマックス」シリーズも、井上さんの「TOKYO TRIBE」シリーズも若者に支持されてきました。若者を熱狂させるのに必要なことってなんだと思いますか?

セックスとバイオレンスだね!

──ズバッと(笑)。「マッドマックス」は120分間暴走し続けますからバイオレンスな映画だと思いますが、セックスについては直接的な描写はありませんよね。

直接は描かれないけど、全体の根底にセックスのイメージがある。さっき言った母乳もそうだし、トム・ハーディも筋骨隆々でセックスシンボルな感じがするし、武器も棒だし。

ウォー・ボーイたちは手榴弾の付いた武器で戦う。

──確かにウォー・ボーイたちは先端に手榴弾が付いた棒を武器にしていましたが……。

男って、棒が大好きなんですよ。「ガンダム」にも「パシフィック・リム」にも棒が出てくるでしょ。自分の棒を挿したいんだよ。

──なるほど、イメージを喚起するものがたくさん登場するんですね。

だから観てるとアンストッパブルな気持ちになるよね、アンストッパブル。男って、抱くって決めたら抱きたい。止まってらんないんですよ。そういえば、イモータン・ジョーの奥さんはブラジャーしてなかったな。

イモータン・ジョーにも正義がある

──そうですね(笑)。イモータン・ジョーには奥さんが5人もいました。

マックスと、イモータン・ジョーの妻たち。

羨ましいよね。この映画で一番気に入ったキャラかもしれない。イモータン・ジョーに奥さんが5人いるのも、理にかなってると思う。

──と言いますと?

なんで結婚が一夫一妻制度なのかっていうと、そうしないとモテるヤツが何人でも奥さんをもらっちゃうし、モテないヤツは全然もらえなくなっちゃうからって説がある。サルはボスに何人も女がいるけど、ニューボスができると、いままでのボスの奥さんはみんなニューボスの女になる。力が支配してる。

──「マッドマックス」は荒廃した世界が舞台ですから、力が支配するという原理が似合いますね。

それにしてもいい女ばっかり揃えてるよね(笑)。ジョーはさ、悪って言ったら悪だけど、なかなか一概には言えないよね。

──イモータン・ジョーにも正義がある?

あるのかもしれない。それぞれの側に正義があって、どっちの側に立つかってことだから。例えば、民衆に水をあげてたのはジョーだしね。

──確かにジョーが支配する砦では、弱者も生きていましたね。周りの荒野ではすぐに死んでしまいそうな人たちも。

砦に水をガーって流してあげてたよね。そういえば、乾いた大地が水で濡れるのもセックスの暗喩じゃない?

──そうかもしれません(笑)。最後に、この映画をご覧になって、ここがすごいと感じたところはありますか?

マックスを演じるトム・ハーディ。

五感のどれかがずっと刺激されっぱなしなところ。「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は、すごく本能的な欲望の強い人に、赤裸々にあれこれと聞かされてるみたいな、クタクタに疲れるけど面白い、そんな作品です。これからいろんな人に影響を与えて語り継がれていくと思うな。

──ありがとうございました。

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」2015年6月20日より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほかにて 2D/3D & IMAX3D公開

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

核戦争後、水も石油も枯渇寸前となった地球。愛する妻子の命を奪われ、砂漠をさまよっていた元警官のマックスは、暴力で民衆を支配するイモータン・ジョーの手下たちに捕われる。髪を刈られ、刺青を彫られ、奴隷の証である焼印を押されたマックスだが、ジョーの右腕である女将軍フュリオサの謀反に乗じて脱出に成功。マックスは、フュリオサ、ジョーの子供を産むために集められていた美女たちと共に逃避行を始めるが、ジョー率いる大軍が背後に迫ってくる……。

スタッフ

監督・脚本・製作:ジョージ・ミラー

キャスト

マックス:トム・ハーディ
フュリオサ:シャーリーズ・セロン
ニュークス:ニコラス・ホルト
イモータン・ジョー:ヒュー・キース・バーン

吹替声優

マックス:AKIRA
イモータン・ジョー:竹内力
エレクトス:真壁刀義(新日本プロレス所属)

日本版エンディングソング

MAN WITH A MISSION×Zebrahead「Out of Control」(ソニー・ミュージックレコーズ)

井上三太(イノウエサンタ)

井上三太

1989年、「まぁだぁ」でヤングサンデー新人賞を受賞しデビュー。1993年にJICC出版局より出版された「TOKYO TRIBE」から始まるTTシリーズは自身のライフワークになっており、代表作「TOKYO TRIBE2」は香港・台湾・アメリカ・フランス・スペイン・イタリアでも出版されている。2014年には実写映画化も果たした。1994年からコミックスコラ(スコラ)にて連載されたサイコホラー「隣人13号」は同誌の休刊により連載が中断されるが、その後も自身のWEBサイトで続きを発表し1999年には幻冬舎から単行本化。2005年には小栗旬・中村獅童のW主演による実写映画が製作され、劇場公開された。また2002年に、自身のフラッグシップストアSANTASTIC!を渋谷にオープンするなど幅広く活躍している。最新作「TOKYO TRIBE WARU」が、7月7日発売の別冊ヤングチャンピオン8月号(秋田書店)と8月4日発売の9月号に掲載。


2015年6月15日更新