コミックナタリー Power Push - 映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

井上三太が語る、セックス・バイオレンス・マッドマックス

「マッドマックス」は執筆中の「TOKYO TRIBE」新作に刺激を与えた

僕もね、マンガ家として映画を観に行くときは、刺激を受けたいんですよ。「怒りのデス・ロード」を観て、すごくエキスをもらった。マンガ家がこれを観たら、この作品の子とか孫とか、いろいろ創作したくなるんじゃないかな。

──井上さんも刺激を受けましたか?

ええ。実はいま「TOKYO TRIBE」の新作を描いてて。この「マッドマックス」を観て「自分のマンガを読み返さなきゃ」ってことと、「もっと自由でいいんだ」ってことを考えた。

──自分のマンガを読み返す理由というのは?

僕、自分のマンガを読み返すのすごく嫌いなんですよね。人生って1回しかないから、自分のマンガ読んでるんだったら人のマンガを読みたい。でも「TOKYO TRIBE」は長く続けてきたシリーズだから、前のシリーズに出た人物とか、モノだとかが新作に出たら、知ってる人はニヤってするじゃないですか。

イモータン・ジョーを演じるヒュー・キース・バーン。

──「怒りのデス・ロード」でも、マックスの愛車・インターセプターが登場しましたね。またイモータン・ジョー役のヒュー・キース・バーンは、「マッドマックス」1作目の敵・トーカッターも演じています。

僕もそれをやらなきゃって思ったの。あと「もっと自由でいいんだ」っていうのは、映画に母乳出してる女の人が出てきたでしょ。

──はい、イモータン・ジョーが支配する砦では母乳を貯めていました。女性が胸にカップを付けて、搾乳されていましたね。

ジョージ・ミラー、70歳でその発想すごいよね! それでクリエイターは自由じゃなきゃダメだって思ったの。マンガ家でもさ、編集者に「こういうことしたら売れませんよ」とか「リアリティに反しますよ」とか言われることがあるんだけど……「ばかやろーー!!」って言いたい(笑)。

──あはは(笑)。理由をお伺いしても?

井上三太

マンガ家って「俺の考えたとおりにやらせてくれ」って言いたいんですよ。でもね、マンガ家の思いどおりのマンガは大体当たらない。マンガ文化は成熟して、データが増えてきているから。

──編集者が売れるためにするアドバイスは的を射ている?

彼らも勉強してるからね。でも「誰も読んだことがないマンガを、いまから俺が作るんだ!」っていうのが、クリエイターがすべきことなんです。

──ジョージ・ミラーのその思いの集大成が、「マッドマックス」ということですか?

そう。クリエイターかくあるべしっていうかね。編集者がいろんな映画、小説、脚本を見て勉強したアドバイスっていうのは、いつかデータとして集められて、アプリ化されちゃうと思うの。ハリウッドにはもう脚本アプリがあるっていうし。

──ヒットした作品データのアルゴリズムを解析して、次の売れるストーリーを自動で作るアプリってことでしょうか。

うん、でも例えば「セックスしたい!」とか、そういう強い思いは、データをも飛び越える(笑)。「マッドマックス」は続編だけど、信念を持って何年も準備してたことがわかりました。

クリエイティビティが出がらしになったら嫌だ

──続編といえば、「マッドマックス」シリーズ3部作はご覧になっていますか?

観ました観ました。僕、続編とか名作のリメイクにはがっかりすることが多いんですよ。CG技術は発達したんだけどなんかねーってことが多々ある。

──昔みたいに熱くなれない?

うん、薄味なんじゃないかって思う。表面的なことだけをすくってきて、最初に作った人のマインドのクレイジーさが全然ない。権利の関係で、同じ監督が撮ってない続編もあるし。でも「マッドマックス」は、リブートなのに表現が新しいし面白い。

──監督も一貫してジョージ・ミラーですね。

それがすごくうれしい。やっぱり年を取っていくなかで、クリエイティビティが出がらしになったら嫌だなって思ってるんですよ。1人の人間がティーバッグだとしたら、最初のうちは濃い紅茶でも……。

──どんどん薄くなってしまう?

ジョージ・ミラー監督

そうです。映画監督だけじゃなくて、マンガ家とか、歌手とかも。好きな歌手の最新アルバムを聴くと、「これ、セカンドアルバムの拡大再生産だな」ってときがあるんです。

──やっぱり悲しいですか?

いや、仕方ないなって。僕はヒップホップが好きなんだけど、ずーっといいアルバムを出すラッパーなんかいないし。次は誰が出てくるのかを楽しみにするしかない。だからジョージ・ミラーはすごいよ。こういう人もいるんだって思った。この人、すごくセックスが強いと思う。

──えっ、どの辺りから感じました?

作品からにじみ出てる。老いてもますます盛んていうかね、モテるよジョージ・ミラーは。草食系男子が増えてきたなかで、まだまだ若いもんには負けんっておじさんを好きな若い女性もいるしね。

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」2015年6月20日より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほかにて 2D/3D & IMAX3D公開

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

核戦争後、水も石油も枯渇寸前となった地球。愛する妻子の命を奪われ、砂漠をさまよっていた元警官のマックスは、暴力で民衆を支配するイモータン・ジョーの手下たちに捕われる。髪を刈られ、刺青を彫られ、奴隷の証である焼印を押されたマックスだが、ジョーの右腕である女将軍フュリオサの謀反に乗じて脱出に成功。マックスは、フュリオサ、ジョーの子供を産むために集められていた美女たちと共に逃避行を始めるが、ジョー率いる大軍が背後に迫ってくる……。

スタッフ

監督・脚本・製作:ジョージ・ミラー

キャスト

マックス:トム・ハーディ
フュリオサ:シャーリーズ・セロン
ニュークス:ニコラス・ホルト
イモータン・ジョー:ヒュー・キース・バーン

吹替声優

マックス:AKIRA
イモータン・ジョー:竹内力
エレクトス:真壁刀義(新日本プロレス所属)

日本版エンディングソング

MAN WITH A MISSION×Zebrahead「Out of Control」(ソニー・ミュージックレコーズ)

井上三太(イノウエサンタ)

井上三太

1989年、「まぁだぁ」でヤングサンデー新人賞を受賞しデビュー。1993年にJICC出版局より出版された「TOKYO TRIBE」から始まるTTシリーズは自身のライフワークになっており、代表作「TOKYO TRIBE2」は香港・台湾・アメリカ・フランス・スペイン・イタリアでも出版されている。2014年には実写映画化も果たした。1994年からコミックスコラ(スコラ)にて連載されたサイコホラー「隣人13号」は同誌の休刊により連載が中断されるが、その後も自身のWEBサイトで続きを発表し1999年には幻冬舎から単行本化。2005年には小栗旬・中村獅童のW主演による実写映画が製作され、劇場公開された。また2002年に、自身のフラッグシップストアSANTASTIC!を渋谷にオープンするなど幅広く活躍している。最新作「TOKYO TRIBE WARU」が、7月7日発売の別冊ヤングチャンピオン8月号(秋田書店)と8月4日発売の9月号に掲載。


2015年6月15日更新