坂本真綾「逆光」 PR

坂本真綾×奈須きのこ|2人が語る「逆光」「色彩」「空白」 坂本真綾とFGOの不可分な関係

坂本真綾と、スマートフォン向けゲーム「Fate/Grand Order(以下、『FGO』)」の関係は深い。 「FGO」がリリースされる2年前の2013年、TYPE-MOONのシナリオライター・奈須きのことイラストレーター・武内崇からの依頼を受け、「FGO」第1部の主題歌「色彩」を制作。また満を持して2015年にスタートした「FGO」では、声優としてジャンヌ・ダルクら7人ものキャラクターに声を当てている。

このたびリリースされた「逆光」は、そんな坂本真綾と「FGO」によるタッグの集大成とも言えるニューシングル。表題曲「逆光」は、「FGO」の第2部「Fate/Grand Order -Cosmos in the Lostbelt-」の主題歌として、ゲーム制作サイドとの入念な打ち合わせを経て書き下ろされた。7月26日から稼働するアーケードゲーム「Fate/Grand Order Arcade」の主題歌「空白」と、「色彩」のアンプラグドバージョンも同時収録。「FGO尽くし」の1枚に仕上がっている。コミックナタリーでは、坂本と奈須のインタビューをセッティング。アーティスト、クリエイターとしてリスペクトしあう2人に、「色彩」が生まれた背景から、「逆光」に至る過程、そして「色彩」「逆光」と“出し尽くした”あとに生まれた「空白」への思いを語ってもらった。

取材・文 / 青柳美帆子 撮影 / moco.

「色彩」はこうして生まれた

──「Fate/Grand Order」の第1部※1)主題歌として誕生した「色彩」は、坂本さんご自身が「『色彩』で私の音楽を知ってくださった方も多いみたいで、もはや私の新たな代表曲になりそうなほど大きな存在になっています」とおっしゃるほど、ファンを増やした曲です(参照:坂本真綾「ハロー、ハロー」インタビュー)。坂本さんにこの主題歌をお願いするまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか。

坂本真綾 坂本真綾

奈須きのこ 実は「FGO」の全体プロットを作成しているときに、坂本さんの「スクラップ~別れの詩」をよく聴いていたんです。だからプロットが完成して着地点ができた段階で、「主題歌が欲しい。欲を言うなら坂本真綾さんに曲を提供していただきたい」とダメ元で話しました。そうしたら武内(崇)が「いっそ坂本さんに新曲を作ってもらえるよう、頼んでみたら?」と。僕はまさか坂本さんにお願いできるとは思っていなかったのですが、武内は「まずやってみよう」と行動する奴なんですよね。坂本さんご本人の前で言うのもアレなのですが、自分は「約束はいらない」の頃から坂本さんのファンだったので、そういう憧れの歌手に新曲をお願いするなんて畏れ多くて……。武内はそんな自分が一歩引くほど熱心なファンなんですけど(笑)。

坂本真綾 ありがとうございます(笑)。

奈須 そうやって「当たって砕けろ」の精神でお願いしたところ、関係者の皆さんがTYPE-MOONのわがままを聞いてくれて、実現に至りました。

坂本 ものすごくありがたいお話でした。TYPE-MOONさんの作品には「空の境界」に出演させていただいていたので、声優として奈須先生と知り合ったのはだいぶ前のことになります。その中でじっくりお話しする機会もあって、勝手にいろいろと作品に対するシンパシーも感じていました。そういったクリエイターの方からお話をいただけるのは、作り手としてすごくうれしい。ストーリーを聞く前だけど、「奈須先生が作る作品ならやらせていただきたい」という思いでした。

奈須 お願いしたのは、2013年の後半くらいですよね。

坂本 そうですね、振り返ると結構前のことですね。2014年に入ってから具体的に打ち合わせをし始めた記憶があります。当初、「FGO」は2015年の春先にローンチ予定だったんですよね。

奈須 そこから延期が重なって結局2015年夏にスタートになったので、坂本さんにとっては曲はできているのにいつまでも公開されない状態が続いていたかと……いや、本当にすみません……。

──打ち合わせではどのようなお話をされていたんでしょうか。

奈須 そもそも最初は新曲を書き下ろしていただけるとは思わず、坂本さんのアルバム曲の中から1曲提供していただくようなイメージだったので、「打ち合わせって何をするんだろう?」状態でした(笑)。それにアーティストさんとテーマの打ち合わせをするのは初めてでしたし、僕と武内2人にとっては、「真綾はロイヤル!」という感じで……。

坂本 あはは、どういう意味でしょう?(笑)

奈須 坂本さんは雰囲気からして高貴なお方……という意味です(笑)。なので、サシで打ち合わせなんて死んじゃう!と……。でも、すごく熱心に打ち合わせに挑んでくださったので、「これは自分も本気でやらないとマズいな」と。緊張しながら、当時言えることをすべて話しました。

坂本真綾

坂本 アニメやゲームの主題歌を担当させていただくときは、監督やスタッフさんのご意向を直接うかがって、曲の方向性を決めていきます。奈須先生の作品は、言葉の選び方だけで「これがTYPE-MOONだ」と伝わってくるほど、言葉による世界観や言葉の印象が強い。その世界観を理解できれば咀嚼して書けるのではないか、先生に「いい」と思ってもらえる詩を書きたい……と気合いを入れて臨みました。「本当は奈須先生ご自身で作詞したいんじゃないかな?」とも思いましたが(笑)。

奈須 いやいやいや、とんでもないです!

坂本 打ち合わせの際は、原作ものなら原作を読みますし、アニメなら脚本を読むのですが、アプリゲームの場合は作品が形になる前から曲を作り始めるという違いがあります。奈須先生が口頭で、時にホワイトボードを使いつつ、「『FGO』とはどのような作品なのか」を教えてくださいました。聞いていて感じたのは、「FGO」は長い小説を読むかのように楽しむゲームになるのではないかということ。それなら、1つの物語が終わったあとに余韻に浸るような、すべてが終わったあとに改めて噛み締めてもらえるような曲にできないかと考えました。

奈須 「色彩」は「FGO」のマシュという女の子をテーマに書かれてほしかった。「『FGO』のヒロインである彼女が、どんな感情を抱き、どんな結末を迎えるのかを形にしてほしい」とお伝えしたら、坂本さんはこちらが伝えたことを2倍にして返してくださいました。デモテープをいただいたときに、めちゃくちゃテンションが上がったんですよ。第1部のラストシーンを実際に書くのは1年先になるけれど、絶対にこの曲にふさわしいラストシーンを書くんだと心に決めた瞬間でした。

坂本 主題歌が完成したあと、主題歌を「FGO」のプロットに反映してくださったんですよね。

奈須 ええ。あの当時、自分は「FGO」の第1部をどう終わらせるのか決めあぐねていたんです。しんみり終わらせるのか、それともドラマチックに終わらせるのか。でも坂本さんが作ってくれた「色彩」は、怖いんだけど華やかで、強い意志と希望に満ちたフィナーレに向かってなだれ込んでいくような曲でした。この曲をいただけるのであれば、どんなに風呂敷を広げても受け入れてもらえるはず。これまで想定していた作品のスケールが「6」くらいだったとしたら、思いっきり派手に「10」をやろうと心が決まりました。

坂本真綾

──第1部のクライマックスバトルで、「色彩」のアレンジバージョンが流れる演出もありましたね。

奈須 曲をもらった瞬間、「ラストバトルでこの曲が使われないとおかしいだろう!」と思ったので、さらに無理を言って、オーケストラバージョンを用意してもらいました。最終章でこの曲を流すためには、それぞれの特異点でここまでお話を盛り上げていこう、歌詞の中でマシュに語りかけるような「苦しいならやめていい」のフレーズも絶対使おうと、ラストシーンまでの逆算が一気にできあがりました。名曲の力というのはそういうものです。たった5分の体験がすべてに勝る。胸に響く1節が、たやすく1冊の本を生むのです。

坂本 タイアップの曲を担当することはあっても、曲と作品で“やり取り”できるようなことはそうないです。物語と主題歌をうまく噛み合わせていただいたのがうれしいですし、やりがいを感じましたね。

※1 「FGO」は「Fate/stay night」をはじめとする、数多くの「Fate」シリーズのひとつとして2015年7月にスタートした、TYPE-MOONが手がけるスマートフォン向けRPG。第1部の舞台となる西暦2015年に、人類史は2017年をもって終了することが証明された。人類の絶滅を防ぐため、プレイヤーは“人類絶滅の原因”と仮定された歴史上の“特異点”を修復するため、過去への時間旅行……聖杯探索(グランドオーダー)に挑む。[↑戻る

“深化”していく「色彩」

──発表後の反響はいかがでしたか?

坂本真綾

坂本 本当に大きかったです。最初、「色彩」は2015年にシングル(「幸せについて私が知っている5つの方法 / 色彩」)としてリリースして、「FGO」ファンの方からはある種サウンドトラックのようにして楽しんでいただけたのではないかと思います。そしてシナリオが進んでいくにつれて、「色彩」への反響をいろいろな人から聞くようになっていきました。タイアップの主題歌は、曲単体で聞いても楽しんでいただけて、さらに作品の力で意味を強く持つのが楽しみの1つだと思っていて。これほど噛み合うと、こんなにもたくさんの方に届くんだなと、スカーッとした気持ちになりましたね。

奈須 「FGO」が第1部のラストを迎えていない段階では、「多くのユーザーは『色彩』に込められた意味がまだ本当にはわかっていない。まだすごさに気付いていないんだ! オレが……オレがわからせてやる……!」と武内に力説して、「お前、キモいな」と言われていました(笑)。自分たちが第1部の最後までユーザーを連れていくことができれば、「色彩」に込められた多くの真意が伝わるはず。最後にみんなが「『色彩』って、こういう曲だったんだ」とわかってくれて、「ほら、いい曲でしょ!?」と……。

坂本 ありがとうございます(笑)。

奈須 ゲームとしてのテーマを表現しながらも、坂本さんの中に存在しているたくさんの人格のうちの“誰か”の心情を当てはめているから、ゲームに関係なく聞いても心に響くし、ゲームをやっているとさらに響く。こちらの伝えたいことに驚くほどピッタリと焦点を合わせられるのは、坂本さんが長年やっている力なんだなと改めて感じました。

──「色彩」は発表後、坂本さんのライブで何度か歌われています。奈須さんはよく坂本さんのライブに行ってらっしゃるとブログ「竹箒日記」にも書かれていますが、ライブで聴いたときの感想もうかがいたいです。

奈須 坂本さんはライブでは本当に生き生きとしていて、ライブに行くたびに「真綾は自由だな!」と思うのですが(笑)、「色彩」は自由な坂本さんに鎖をかけて抑えつけているようなイメージがありました。その“踏ん張って歌っている感じ”が、力強さにもなっているわけですが。華やかでエネルギッシュな曲が多い中で、ダークな「色彩」はちょっと異色の曲なのかもしれないな、といちファンとして感じましたね。

坂本 私の中でも「色彩」は新鮮な曲なんです。まず単純に、歌うのがすごく難しい(笑)。私史上一番大変な曲かもしれません。でもその難しさを歌うのは快感ですし、生で歌ったときの盛り上がりが手に取るようにわかります。最初のうちは、私らしい曲というよりは“演じている”ような気分があったんです。日常的なものや生活から離れて、「FGO」という壮大な世界に思いを馳せなければいけないのではないかと。でも、ライブで歌っているうちに、だんだんと自分自身と近づいていく感覚が生まれてきて、“自分らしい曲”と思えるようになりました。

──坂本さん自身と近づいていく。

坂本 「色彩」は、命の限りを感じ、「苦しいならやめていい」と囁く誰かの声に惹かれて立ち止まりそうになりながらも、どうにかして前に進もうとする歌です。私自身、「ここで全部諦めてしまおうか。ここで旅をやめてしまおうか」と思う瞬間と、「負けずに前に進むんだ」という気持ちとの繰り返しで長年歌を歌ってきました。

坂本真綾

──坂本さんにもそういった“壁にぶつかる”ということがあるんですね。

坂本 年の半分以上は疲れたり悩んだりしていますね(笑)。そういうときは、全然「なんでもなくない」けど、「なんでもないと言ってみる」ことで、いわば自分を暗示にかけてもっとがんばることができる。「色彩」は「あなた」という存在が出てくるからラブソングにも聞こえるけれど、そういう意味では自分自身の気持ちだけを歌っても成り立つ曲だと思ってます。マシュたちも何度も壁にぶちあたって、でも「最後まで進みたい」と進んでいったんですよね。その気持ちの重なりがあるから、ゲームをプレイしている方もシンクロしてもらえるのではないでしょうか。

──今回のシングルには、かなり印象の違う「アンプラグドバージョン」が収録されています。

坂本 ファンクラブ限定ライブでやったバージョンなんです。激しい曲調の「色彩」をアコースティック編成でやってみたら、思いのほかうまくいって全然違う印象になったので、改めてレコーディングしました。ライブを重ねて歌い込んできたからこそ、今回のバージョンが作れたと思います。