空想の話ではなくて、僕らの知っている世界の未来を描きたい
──マンガまで用意して練り上げられた“2037年の渋谷”という舞台ですが、ちょうど現在の20年後という設定にはどういった意図が。
現実と地続きの世界を描こうとしていたんですね。空想の話ではなくて、僕らの知っている世界の未来を描きたいと。意外と20年後って想像できるんですよ。今の渋谷と同じところもあるし、変わるところも当然出てくる。
──たしかにアニメ第1話を観たかぎり、街並みは現在の渋谷から大きく変わってはいませんね。
あえてそうした部分もありますね。「レイヤードストーリーズ ゼロ」は10代、20代の人たちに遊んでもらいたくて、彼らにとって象徴的な場所はどこだろうって考えたときに、やはり渋谷かなと。なのでスクランブル交差点やスペイン坂など、一部の場所は現代のままの姿で描きました。作中に登場するLayereD技術も全国各地に広がっているわけではなく、2037年時点ではまだ若者の間で流行っているという感じです。そういった最先端のものを活かせる場というのも、この街を選んだ理由ですね。
──たしかアニメの第1話でも上京したばかりという設定のキャラが「東京に来てみたらLayereD、LayereDでワケわかんねえ」みたいなセリフを言うシーンがありますよね。
都会の若者は熱中してるけど、地方の人や年配の方とかにはまだ馴染みがないくらいの感じ。ちょうど2年前くらいのInstagramみたいなイメージです。雑誌で特集されていて「今、きているのはコレ!」みたいな(笑)。
──未来を描かれるうえで注意されていることはありますか。
LayereD技術がなくても生活は成り立つラインを意識してます。まだLayereD技術に触れていなくても、不自由は感じないくらい。だからインフラ面とかはしっかり残っていて、スクランブル交差点には信号機だってある。ベースがちゃんとあったうえで、より便利な技術がレイヤードされているという表現にしています。
──もうゲームの設定というより、現実の2037年を予想するような感じですね。
だから街中に立っている標識1つにしても「何回も渋谷に来ている人にはどう見えるだろう」とか、そんなことを延々と話し合いましたね。看板に書いてある文字や絵の1つひとつに細かい裏設定があるくらい。
──気が遠くなるような作業ですね……個人的には、うつむいてスマホを見ている人がひとりもいないのが印象的でした。現代の渋谷ではありえない光景ですよね。
デバイスをどこかに身に着けていれば、いつでもレイヤード世界にアクセスして歩けるので。歩きスマホじゃないけど、心ここにあらずみたいな人は多くいますね。常にもうひとつの世界に繋がっている状態になるので。
「LayereD技術を使って、お前を炎上させてやる!」会議
──こうしてお話だけ聞いているとなかなか複雑な作品に感じますが、実際にアニメを見てみるとスッと世界観を受け入れることができました。
スタッフのイメージを共有するためマンガを作ったわけですけど、アニメも同じような働きをしてくれると思っていて。ゲームだけでも物語としては成立するけど、アニメを見ることでより深く理解してもらえるんじゃないかと。
──今回、アニメを2Dではなくて、3Dで作ろうと思ったのは。
未来の世界を描くにあたって、2Dだと表現しきれない部分があって。3Dなら背景モデルも含めて1度作ってしまえば、そこにレイヤードの表現を乗せたり自由自在に描けるんです。
──3Dには表現の拡張性の高さがあると。
そうですね。アニメを制作してくれたポリゴン・ピクチュアズさんは「亜人」や「BLAME!」などの制作も担当していて、3DCGの作り手では間違いなくトップクラスだと思っています。「レイヤードストーリーズ ゼロ」は、スマホのアプリ、アニメにとどまるプロジェクトではないので、ハイクオリティの3Dモデルがあることで将来的にいろいろな展開ができる可能性を見越しています。
──ストーリーについては20年後の未来だけれど、今私たちが抱える悩みがそのまま描かれているとも感じました。第1話に登場する、人気絵師に粘着するネットストーカーって、今まさにこの瞬間にも現実のどこかにいますよね。
人の心は20年じゃ変わらないだろうと。どれだけ技術が発達しても悩むことって、女の子にモテたいとか、父ちゃんと喧嘩したとか、そんなことですよ(笑)。20年前と今でもそう変わらない。ただSNSがあることで、トラブルが加速しやすくはなりましたが。
──たしかにトラブルの発端は、今も20年前も大して変わらない気がしますね。
なのでスタッフの間で「LayereD技術を使って、お前を炎上させてやる!」みたいなことを話し合う会議が開かれたりしました(笑)。LayereD技術を悪用されたら、俺はこうやって返すみたいな応酬をして、ストーリーに反映させていって。
──炎上会議(笑)。
逆にLayereD技術があれば、こんないいことができるのに!みたいなアプローチもありました。舞台を渋谷にしたのは、そうした部分にも関連してます。表に見えている楽しいところと、裏の怖い部分の両方がある街。どっちの立場からも、物語を見てほしい。
──ただの勧善懲悪のストーリーではない、と。
争いが起きていたら、お互いが違う正義を掲げているわけじゃないですか。それのぶつかり合いを描きたいと思って。今思っていることも、立場が違えば変わると思うし。そういうことを考える余地を残すようにしています。アニメの第1話は、世界観を知ってもらうことが目的なので、あえてLayereD技術のいい面、悪い面を描くようにはしました。なので、見る人によって感情移入するキャラクターが違うんじゃないかな。
──群像劇的な側面も持っているんですね。開発陣の中で人気のキャラクターとかいるんですか。
第2話から登場するライバルキャラのジョシュアが人気です。「もうこいつが主人公だろ」とか言われてます(笑)。
──ちなみに手塚さんは。
自分は……自分が考えていることを反映させていったキャラクターでもあるので恥ずかしくなるんですけれど、やっぱり主人公のユウトですね。
──1話時点では、まだ自分のことをあまり語らないキャラで、ミステリアスな印象が強いですよね。
けっこう熱いやつですよ。自分自身の中学校時代の恥ずかしいエピソードもさらけ出してキャラクターを作ってきているので(笑)。
──具体的には。
親とケンカして、こういう言葉を言ったとか。当時の自分にとっては、間違いなく正義だったものが、自分が親になった立場からすると、それは注意するわ……となったり。
──かなりご自身の体験が反映されていると。
20年後の未来を描いているのだけれど、20年前の自分に向けている部分もあります。「20年前、こうだったらよかったのに!」っていう憧れをかなり詰め込んだ感じです。なのでユーザーにも、この世界で、この技術があったら何をしたいかを考えてもらえたら嬉しいですね。
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未来の世界で流行っているアニメまで想像し、設定する
- 「レイヤードストーリーズ ゼロ」
- 配信中 / 提供元:BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
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【価格】
無料(app内課金あり)【対応プラットフォーム】
App Store / Google Play【ジャンル】
オルタナティブRPG
「レイヤードストーリーズ ゼロ」は同一の世界で繰り広げられる物語を、アニメとゲームで楽しむことができるスマートフォンアプリ。物語の舞台は2037年の渋谷。そこはLayereD技術によりインターネットが可視化され、イメージできることは全て実現可能な自由な世界。アニメとゲーム、それぞれの主人公の物語が1つに重なり合うオルタナティブRPG!
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
- 手塚晃司(テヅカコウジ)
- バンダイナムコエンターテインメント所属のプロデューサー。「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」「ONE PIECE トレジャークルーズ」「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストシューターズ」「ギルティドラゴン 罪竜と八つの呪い」などのスマートフォンアプリを主に手がけてきた。