LaLa45周年特集第7回「マリッジパープル」「うそカノ」林みかせ|模索と迷走を繰り返しつつマンガの世界に没頭、うれしいときも苦しいときもファンと歩んだ20年

すべてがかけがえのない大切な思い出

──次は「うそカノ」についてお話を伺っていきたいと思います。約6年の連載で、林先生の作品の中では最も長い物語ですが、どういうきっかけで生まれたんでしょうか?

「うそカノ」イラスト

3回連載の予定だったので、「すばると入谷の恋に焦点を絞って描こう」という担当Iさんのアドバイスで、設定を削ぎ落すところから始めました。最初のプロットから残ったのは嘘の彼女になる設定と、キャラの名前だけです。「うそカノ」の連載を始めるまでは自分の描きたいものを描くことに重心があったのですが、遅まきながら読者の方に楽しんでもらうことの大切さを学び、大きく意識が変わりました。

──なるほど。「うそカノ」にまつわる思い出で最も印象に残っていることはなんでしょうか?

一番を決めるのは難しいですが、たくさんの方が読んでくださったおかげでいろいろな経験をさせていただけました。刺激が強すぎて胃を痛めては胃カメラ、というような生活をしていたのですが、思い返すとすべてがかけがえのない大切な思い出です。あと、3巻くらいのときに読者の方から「むっちゃん(睦月)の彼氏は吉野くんだと予想してます!」とお手紙をもらい、まったく想定してなかったのですが矛盾しなかったので、そこからはむっちゃんの彼氏は吉野くんの可能性を捨てないという気持ちで描いてました。

──すばると入谷くんの2人は、林先生が最も長い間描かれてきたカップルかと思います。連載を終えられて3年近く経過しますが、林先生にとってこの2人はどういう存在になっているんでしょうか?

連載中も担当さんと大人になったすばるたちの話をしていたので割とクリアなビジョンがあり、たまに脳内で大学生になったすばると入谷が楽しそうにしてます。入谷の一人暮らしのマンションに初めてすばるが来て一緒にご飯を作ったり、お泊りしたり。入谷が合コンに駆り出されたり、20歳になってお酒が飲めるようになったり、みんな元気です。

──その設定のスピンオフは絶対ファンが喜ぶと思います! 一読者としての考えなのですが、「うそカノ」は和久井やトモ、時田などサブキャラクターたちの成長や恋愛事情なども丁寧に描かれている部分も人気の秘訣なのではと思います。キャラクターについてもう少し掘り下げていきたいと思うのですが、まず林先生のお気に入りキャラは誰でしょうか?

時田です。感情的になっても一人称が「僕」のキャラに肩入れしがちですね。ほかにもいいところはあると思うのですが、自分の武器を理解し、虎視眈々とチャンスをうかがって逃さないという、したたかであざとい部分が好きです。

──なるほど。一番描きやすかったキャラクターは誰でしょうか?

「うそカノ」イラスト。左から入谷とすばる。

入谷ですね。Sっ気男子の魅力を捉えきれず、最初の頃は入谷の思考が理解できなかったのですが、隙を見せるようになっていくうちにどんどん描きやすくなりました。ただ、担当さんからアドバイスをもらうことでイケメン要素が足されているので、私は入谷の残念な部分しか担ってない気もします。

──入谷くんがたまに見せる残念な部分も、魅力の一部だと思います。最後に、設定や見た目などで一番苦労させられたキャラクターを教えてください。

強い個性のないキャラなので、すばるがとにかく難しかったです。さじ加減にずっと悩みながら描いてました。とにかく自分と違う性格にしたくて、私の苦手な食べ物を好きな設定にしたり、担当さんと試行錯誤しながら描いてました。後半からはだいぶのびのびと動いてくれてよかったです。

「マリッジパープル」は「諭吉の女」だったかも?

──最新作の「マリッジパープル」ですが、ヒロインの凛が第1話で婚姻届を苦手な男子・諭吉に書かされ、それを取り戻そうと奮闘する、というストーリーがとてもユニークだと思いました。あらすじはどのように作られたんでしょうか?

「マリッジパープル」1巻

「うそカノ」最終巻のコミックス作業が終わって2カ月後に「マリッジパープル」1話目の締め切りだったので、準備期間がタイトでだいぶ気持ちが焦り……。設定を考えては捨てを繰り返してなかなかネームまで辿り着けず、とにかくストーリーの大枠を作ろうと。担当Mさんと何度も何度も打ち合わせを重ね、婚姻届でつながる2人というエピソードになったのですが、正直どう展開するかを考える余裕もなく、話の結末だけは決めて1話目を描きました。

──では第2話以降は描きながら作っていったんですね。

連載の立ち上げに余裕がないのは毎度のことなのですが、弱気な私に対して、担当さんはキャラを掴めていると自信満々だったので頼もしいなと。「マリッジパープル」というタイトルは、担当さんと私が互いの案に納得せず期限が迫る中、そっと編集長が提案してくださいました。担当さんいち押しの案は「諭吉の女」でした。字面が強い。

──確かに強いですね(笑)。そちらはそちらで、インパクト大です。お話に出た諭吉のキャラクター設定で意識したことはなんでしょうか?

諭吉の愛情表現は小学生のまま止まっているので、りんりん(凛)にだけポンコツという気持ちで描いてます。よかれと思ってやることのすべてが裏目に出て、意図してないときだけりんりんに響くので、本人はまったくわかってないという構図を魅力的に見せるにはどうしたらいいんだろう……と。懲りずにSっ気のあるキャラに挑んで、やっぱり掴めず、隙を見せてきたあたりから意思の疎通が図れるようになってきました。2巻の「I love youの訳し方」で佐和田との差別化ができた気がしますが、佐和田を推す声を聞くことが多く、諭吉派の私としては不甲斐なさでいっぱいです。

──5巻のコメントで、担当さんに「『この展開で合ってますか……?』と問い続けながら」描いていた、とありましたが、展開に不安を感じる場面もあったんでしょうか?

「マリッジパープル」イラスト。左から諭吉と佐和田。

描き手としては楽しめるのですが、読み手としての自分はすれ違いと裏切りのある展開がとても苦手で……(笑)。すれ違いで読者の方がストレスにならないか不安で、担当Fさんにたびたび確認していました。今作だけに限ったことではないのですが、ネームをよりよくしたいと模索してはよく迷走してます。

──なるほど。「マリッジパープル」はまもなく完結を迎えますが、作中で特に印象に残っているシーン、エピソードを3つ挙げるとしたらどれでしょうか。

印象に残るシーン……難しいですね。強いて挙げるとしたら、諭吉の家で2人で何かしらする話が好きなので13話の一緒に家具を組み立てる回と、全部熱のせいにできるエピソードが好きなので17話の看病回、大定番ですがお泊りエピソードがただただ好きなので30話のお泊り回あたりでしょうか。18話で副会長と卓球をする回も「たーのーしーいー」と思いながら描いていたことを覚えています。

──林先生の作品や登場キャラクターについてさまざまなお話を伺ってきましたが、林先生が女の子を描くうえで、気を付けている部分はどこでしょうか? 林先生の理想の女の子像も伺いたいです。

読者の方がどこか共感できたり、何かしら好きだなと思ってもらえる魅力的な部分を描けるといいなと意識はしてますが、できてるかどうか……。メンタルでもフィジカルでも強くて明るい自己肯定感の高い子が好きです。「うそカノ」のミレーちゃんはセリフのいくつかに担当Мさんの思考パターンを取り入れていて、理想に近いです。

──そうだったんですね! 林先生の理想像に近いというお話を聞くと、印象もまた変わってきます。お話は変わりますが、「うそカノ」の写真部、「マリッジパープル」の山岳部など、林先生が描かれる部活動はどれもとても楽しそうだなと感じるのですが、部活動シーンのこだわりや、先生が学生時代にチャレンジしたかった部活があればぜひ伺いたいです。

弓道部や軽音楽部、男バスのマネージャーとか華やかだなと思いながら高校生活を過ごしていたので、キラキラした部に憧れがあるのかもしれません(笑)。高校時代に入っていた部は、華やかさは皆無ですが、めちゃくちゃ楽しかったです。中高とずっと運動部だったので、文化部を体験してみたいです。今だと科学部とか天文学部が気になります。

──また学校を舞台にした作品を描かれる際は、どんな部活が登場するか気になります! それでは最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

いつも応援いただきありがとうございます。デビュー作から読んでくださっている方も最近読み始めたよという方も、読んでくださる方のおかげで今日があります。これからも楽しんでいただけるマンガを描けるようがんばります。何かのタイミングで、感想を送ってみようかな……という気持ちになりましたら、ぜひお気軽にお声を聴かせていただけるとうれしいです!


2021年9月24日更新