ナタリー PowerPush - 今日マチ子「みかこさん」「みかこさん」

4巻を数え切なさを増すティーンズライフ 作品とともに進化し続ける作者の歩みを追う

モーニング×コミックナタリー

考えてるときの「もくもくしたフキダシ」が使えない

──もう堂々たるマンガ家ですから(笑)。さっきのプロットというかレジュメには、セリフは入っていたりしますか。というのは、もし普通のマンガ家さんと違いがあるとすれば、セリフの量ですよね。今日さんは極端に少ないと思うので。

「みかこさん」57話より。まったくセリフなく進行する回もある。

今回はこの決めセリフで行こうみたいなときはたまにありますけど、基本、セリフにそこまで頼る感じでもないので、おおまかな雰囲気に関することですかね。説明的なセリフは極力省くようにしていますし、言っていることは何か意味のあること。意味がないセリフはあんまり入れてないですね。

──雑談みたいなのでも一応伏線になっていたりとか。

あ、こしの先生がそういうことをおっしゃっていて、悲しいときセリフで「悲しい」って言わせちゃダメなんだよ、と。表情で悲しいってわからせなければいけない。それをよく覚えているので、感情と言葉って気をつけなきゃなと思っています。

──表情について言えば、今日さんの画風は、ものすごく線数の少ない顔じゃないですか。これは描き込みの多い顔より、難しいんじゃないかなって思うんですが。

そうですね。眉毛が1mm外側に出ているとか、そういうのでほんとに印象が変わってしまうので。うれしいけど黙ってるときの顔とか、困ってるけどそれを出せないときの顔とか、そういうのは難しいですね。

アイデアノートより、作品の原型となるラフスケッチ。

──何度も描き直したり?

いや、それよりは、描く前にちょっとじっくり考えてから、一気に描く、みたいな感じですね。

──表情のバリエーションって増えました?

主人公のみかこが無表情なので、そんなに増えた実感はありません。ただナオちゃんは表情がころころ変わるので、面白いなと思いますけど。あと続けていくうちに、みかこも無表情なりに表情があるように見えてくるような気がしてきました。

──ずいぶんとげとげしさが取れて、柔らかくなってきたように見えます。フキダシの形とかって考えますか?

そこらへんの工夫ができなくて、いつもどうしたらいいんだって、モーニング見ながら「こんなのもあるのかー」みたいに思ってるんですけど。あと、考えてるときのもくもくしたフキダシとか、あんまり「みかこさん」はできないので。

──漫符みたいなのが。

使えれば使いたいところなんですけど、描いてみてもまったく合わないなって。もしくはいきなり冒頭でこれまでのあらすじ、とかも入れられないし、難しいですね。

──印象的な風景や引きのショットが特徴だと思いますが、あれにはどんな意味が。

私はたぶん、引きとか、風景で見せるのが割と好きなのかも、と思いますね。ただしゃべるだけだったらセリフと顔だけでいいんですけど、その人がどういう格好をしているとか、どういう姿勢でいるかとかに、意味があると思うんですよ。悲しいときにヨヨっと崩れていたら、しゃべらなくても悲しいって伝わると思うし、泣いてる顔より、後ろ向きでしょんぼりしている姿勢を描くほうが、私のしたい表現に合っていると思います。

──絵にしゃべらせるわけですね。

そうですね。そこまで情報量のある描き込んだ絵ではないんですが、できるだけ絵で語れることは語ってしまいたいとは思っていますね。

「cocoon」を描き切れたのは、みかこさんのおかげかも

──いま情報量とおっしゃいましたが、ウェブ連載で、フルカラーというのは影響ありますか。

カラーのほうが色の情報量があるぶん読むスピードが遅いので、割とゆっくり浸れるというか、そういうのはあるかもしれません。余韻を持たせたりとか行間に浸るとか、そういう時間がカラーにはありますよね。モノクロはパッとめくってパッと読めるので、描き方を変えますから。むしろスピード感を出したりとか。

「みかこさん」121話より。みかこと緑川のテーマカラーは服装のみならずさまざまなシーンに登場する。

──ではカラー掲載に合っていたということですね。

「みかこさん」はカラーでよかったです。そもそもみかこの赤と緑川の緑というテーマカラーを設定しているので、それができただけでも、合っていたと思います。

──情報量の制御ということで言うと、どこかで抜きも必要になるのではないですか。

そうですね。その意味ではウェブ連載なので、媒体の特性がうまく軽さをもたらしてくれていると思います。単行本で読む分にはいいんですけど、たとえば毎週の連載が、厚い紙に綺麗な印刷のカラーで刷られていたら、なんかちょっと違う重さが出てしまう感じがしていますね。ウェブの軽さとカラーの重さと、両方でいいバランスなんじゃないでしょうか。あとウェブだと中学生とか女子高生とか、ふだんモーニングを手に取りづらい人も読んでくれる敷居の低さがありますし。

──女子中学生はモーニング買わないですからね(笑)。

14歳の女の子とかから「高校に入ったらこんな青春送ってみたいです」とかファンレターをいただけるのも、ウェブだったからかな、と。

──ちょっと都合良くまとめ過ぎかもしれませんが、お話を伺ってきて、モーニングという雑誌の文化と、ウェブ連載という媒体の特性と、4ページでオールカラーというスタイル、それが今日さんの作家性とうまく組み合わさって「みかこさん」の魅力が生成されたのかな、と。

そううまくいけばいいですけど(笑)。ただ「みかこさん」を始めたあとで「cocoon」(秋田書店)という重い作品を描いたんですけど、あれを終わらせることができたのは「みかこさん」をやったからかな、とは思います。いわゆる俳句しか作れなかったのが、ちゃんと散文を書けるようになった、しかもそれにちゃんと展開とオチを付けられるようになったっていう。

──なるほど。では、みかこたち4人の恋模様にもしっかり決着が付きますよう、祈っています。実は「みかこさん」のウェブサイトを作っているのはナタリーのデザインチームなんですが、毎週新作が届くたびに、デザイナーたちがもう胸を掻きむしって身悶えてますからね。彼らの心に平安が訪れるように。

わかりました(笑)。私もいつかちゃんと「マンガ家」と名乗れるように頑張りたいですね。今日はありがとうございました!

しりあがり寿に書いてもらった「お言葉」。デスクライトに貼られ、顔を上げれば目に入る位置に。

今日マチ子「みかこさん(4)」 / 2011年10月21日発売 / 930円(税込) / 講談社

  • Amazon.co.jpへ
あらすじ

市村みかこ、17歳。高校3年生。席替えで隣に座った緑川はいまどき赤えんぴつを使う変な奴。親友のナオはおしゃべりな女の子。そして、みかこに好意を寄せるカトーくん。

穏やかに終わるはずだった高校生活は、4人の関係の変化とともに徐々にその色を変えていく。みかこ、緑川、ナオ、カトーくん。4人の青春が、もつれて絡まって。

今日マチ子(きょうまちこ)

アーティスト写真

漫画家。東京都出身。ほぼ毎日更新しているブログ・今日マチ子のセンネン画報が太田出版より書籍化され注目を浴びる。無類の猫&カメラ好き。

著書に「みかこさん」1~4巻(講談社)、「cocoon」(秋田書店)、「センネン画報」「センネン画報 その2」(太田出版)、「かことみらい」(祥伝社)など。

連載は、マンガ・エロティクス・エフ(太田出版)掲載の「U」、エレガンスイブ(秋田書店)掲載の「アノネ、」、ジャンプ改(集英社)掲載の「みつあみの神様」など。ブログ・今日マチ子のセンネン画報もほぼ毎日更新中。