霧島が困っていたり焦っていたりする姿を描くのが好き
──これまでのお話の中で、つきや先生が一番思い出深いエピソードを伺いたいです。
なかなか1番を決められないんですが、あえて挙げるとしたら、霧島に逆恨みしている組の人間が八重花を襲撃する回ですね(3巻収録)。霧島と八重花の心が通い始めて、お互いの存在が2人にとって当たり前になってきたときにその日常を壊す、というエピソードだったので。霧島の心情を考えるのがすごく大変で、それまでで一番彼に向き合ったと思います。
──今までのほのぼのとした作風と打って変わって、かなりシリアスなストーリーだったので、読者もハラハラしたのではないかと思います。逆にリラックスして描けたのはどのお話でしょうか。
どこということではないのですが、私は霧島が困っていたり焦っていたりする姿を描くのが好きなんです。いつもヘラヘラしていて「余裕でーす」という感じの霧島なんですが、それが崩れる瞬間が楽しいですね。6巻では楓ちゃんのお父さんが登場するんですが、そのときの霧島の反応とか。あと、以前桜樹組にいた葵さんや、同級生の零ちゃんといるときの霧島は、いつもの調子でいられないので、素が出てしまっていいですよね。
──確かに焦っている霧島はいつもと印象が変わって面白いですよね。霧島と八重花の距離が縮まっていき、成長をしていく中で、つきや先生にとっても2人の印象が変わってきた部分があるのではと思いましたが、いかがでしょうか。
そうですね、やっぱり八重花は霧島に心を開いてきてからは急速に感情表現も多くなりましたし、霧島もたぶん初期に比べたらだいぶ人間らしくなったと感じています。霧島は今までは貼り付けた笑顔というか、どこか一線を引いて距離を置いていたんですが、八重花に触れていくにつれて、些細な言葉1つにも心が動くようになってきたんだと思います。八重花は今まではお父さんとか叔母の香菜美さんとか、身内の狭い世界でしか生きていなかったんですが、サラちゃんや楓ちゃんのような友達ができてからは一気に世界が広がった気がしますね。
──たくさんのキャラクターが登場しますが、つきや先生が一番気に入っているのは誰なんでしょうか。
やっぱり霧島が一番なんですが、どのキャラも好きなんですよ。葵さんも好きですし、雅也も子供のまま大人になったようなキャラクターでかわいいです。あとは杉原が出てくると和みますよね(笑)。気持ちが楽しくなります。
──設定など苦労したキャラクターはいますか?
そうですね……。当初思っていたのと全然違うキャラになっちゃったのは、歩ちゃんです。当初は八重花が話せるぐらいの年齢で、しっかりしたきれいなお姉さんという想定だったんですが、クセの強いキャラクターになっちゃった……(笑)。今は今でかわいいですけど。動かしやすく、かつ私の好みを詰めるとああなってしまった。「まあいっか」と思っていますが。
アニメ化の決定を聞いて、ずっとポカーン
──9月8日に発表となりましたが、「組長娘と世話係」のTVアニメ化が決定しました。本当におめでとうございます! 今の率直なお気持ちを伺いたいです。
担当さんから聞いたとき、すごく疑ってたんですよ。アニメ化決まりましたって言われても、「アニメというのは単行本のCMで?」とか。信じられなくて、ずっとポカーンとしながら話を聞いていた記憶です。
──作家さんの中には「アニメ化が目標!」という方もいらっしゃると思いますが、つきや先生はいかがでしたか?
「アニメ化されたらいいですねー」と担当さんと言い合いながらがんばってきたんですが、あくまで願望や夢だったことが実際に叶うということなので、「どうしよう……」と思ってしまって(笑)。月並みですが、すごいことだなあと。今でも実感が湧かないです。単行本が出たときも自分で書店さんで見るまで実感できなかったので、アニメも自分で見るまで信じられないと思います。
──(笑)。TVアニメではどういう部分に期待していますか?
霧島がだるまさんが転んだをするシーンを映像で観てみたいです! いろいろ見たいものはありますけど、あそこが一番楽しみかもしれないです。
──確かにあのシーンは動いたら迫力が出そうですね。アニメ化のほかにも、2019年にはドラマCDが制作され、2020年にはコラボカフェが開催されましたし、グッズもたくさん制作されています。もともとは1枚のイラストから生まれた物語が、ここまで愛される作品になったことを、つきや先生はどのように捉えていらっしゃるんでしょうか。
いやー……自分でも本当に「どうしてだろう……?」と思っています。よくも悪くもずっと他人事というか。現実味がないままここまで来ちゃった感じがしています。自分が描きたくて描いた息抜きみたいな絵から始まって、なんでこんなにたくさんの人に見ていただいているんだろうと、自分のことですが不思議な部分もあります。
──本日の取材には担当編集さんにも同席していただいています。編集者から見た「組長娘と世話係」の魅力はどういう点だと思われますか?
(担当編集) ヤクザが幼い女の子の世話係になるというギャップももちろんありますが、何よりつきや先生の愛が作画に影響していて、それが読者に伝わっているのかなと思っています。ネームを見ると、明らかに「ここが描きたいんだな」っていうシーンがわかるんです。つきや先生がどうしても描きたいシーンは非常に力が入っているので、意思を感じますね。キャラクターの表情が明らかにいいんです。
──なるほど。このお話を聞いて過去のエピソードを読み返すと、また違った見方ができそうです!
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おおのこうすけ描き下ろしイラストに
「情報量が多すぎる……!」