つきや「組長娘と世話係」は、物事を暴力で解決してきたヤクザの霧島透と、彼が若頭を務める桜樹組組長の娘で内気な小学生・八重花の日々を描くハートフルコメディ。2018年6月からコミックELMOで連載中であり、9月10日に発売された最新6巻では、通常版とイラストBOOK付限定版が用意されている。なお先日、TVアニメ版の制作が発表された(参照:ヤクザと幼女の任侠ハートフルコメディ「組長娘と世話係」TVアニメ化決定)。
コミックナタリーでは6巻の発売を記念し、つきやにインタビューを実施。3年間の連載を経て生じた霧島と八重花の変化や、今後描いてみたいエピソードのアイデアを聞いた。つきやにとっては「あくまで願望や夢だった」というTVアニメ化への率直な思いや、映像で観てみたいシーンも明らかに。また「組長娘と世話係」とは極道×コメディという共通点を持つ「極主夫道」の作者であり、つきやがファンだというおおのこうすけが、霧島と「極主夫道」の主人公・龍を描き下ろしたイラストと、推薦コメントも到着。併せて楽しんでほしい。
取材・文 / 佐藤希
STORY
主人公・霧島透は、極道・桜樹組の若頭。敵と判断した相手には容赦がないことから、通称“桜樹組の悪魔”と呼ばれていた。そんなある日、桜樹組の組長から呼び出された霧島は、組長から一人娘・八重花のお世話係を任命される。ただでさえ内気で人見知りな八重花に、霧島は苦戦しっぱなし。彼女の世話を“難しい仕事”と捉えていた霧島だが、やがて八重花と距離が近づくにつれて彼にも変化が……。お年頃な幼女と鬼畜イケメンヤクザのハートフルコメディだ。
CHARACTER
- おおのこうすけコメント
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天使と悪魔など、ギャップのある組み合わせは鉄板ですが、「組長娘と世話係」でも強面ヤクザと小さな女の子という組み合わせが素晴らしく、間違いなく面白いですね。それに丁寧に描かれている優しいドラマやコメディはつきや先生の作家性が出ているように感じました。
とか堅苦しく作家ぶった言い方をしましたが、とにかくつきや先生の絵柄は絶妙な抜け感があって、八重花ちゃんの徐々に増える表情は可愛いし、出てくるヤクザ達は男前揃い。読んだら目が癒され、笑い、心が温かくなるという良いこと尽くめです。
- おおのこうすけ
- 滋賀県出身。2016年、月刊コミック@バンチ(新潮社)に読み切り「Legend of Music」が掲載されデビュー。くらげバンチで連載中の「極主夫道」は単行本の累計発行部数が400万部を突破。2020年にTVドラマ化され、2021年春にはアニメ版がNetflixで全世界独占配信されたほか、8月から地上波でも放送されている。単行本「極主夫道」は最新8巻が発売中。
出版社や読者のウケを狙わずに、自分の好きなものを
──「組長娘と世話係」1巻の巻末に、つきや先生が「自分の性癖に正直なモノを描こう」と思い、霧島と八重花が生まれたと書かれていたんですが、そもそもどういう経緯でそういった心境になったんでしょうか。
その頃はマンガ家を目指して賞を取るための作品を描いていたんですが、正直な話、自分が本当に描きたいお話ではなかったんです。それが楽しくなくなってしまったので、原点に戻ろうと。出版社や読者のウケを狙わずに、自分の好きなものを描こうと思って、いわば息抜きのような形で描いたイラストが「組長娘と世話係」のきっかけでした。キャラクターの名前もない、単純にヤクザの若頭と組長の娘を描いた1枚絵でしたね。反響をいただいて、「これはこの2人をもっと深堀りしてもいいのかも」と思い、4コマに描き直してTwitterやpixivに投稿していました。
──当時描いていたマンガが肌に合わなかったということでしたが、どんなものを描かれていたんですか?
ラブコメですね。もともと不良やバトルもの、日常系のマンガが好きだったので、軌道修正して恋愛ものを描くのが難しかったんです……。なかなか自分でもしっくりくるものが描けなくて苦労しました。
──なるほど。1枚のイラストが「組長娘と世話係」誕生のきっかけとなって、連載が決まったということでしたが、連載に向けて設定など何か変えた点はありましたか?
八重花の性格を当初想定していたものからだいぶ変えました。最初はもっと強気で、「行くぞ、霧島!」って引っ張っていく感じの女の子を想像していたので、今とは全然違いましたね。
──確かに第1話の無表情な八重花とは全然印象が違いますね。
はい。逆に霧島はあんまりベースが変わってませんが、もう少し犬っぽかったかもしれないです。「お嬢お嬢!」みたいな感じで。
──機会があればそんな霧島も見てみたいです! 同じく1巻の巻末には、連載するにあたって苦労されたと書かれていたんですが、具体的にはどういうポイントで苦心されましたか?
本当に息抜きで描き始めた趣味の絵が土台だったので、Twitterやpixivに投稿していた参観日のエピソードまでしか考えていなかったんです。正直に言うと、当時はそこが自分の描きたい物語のピークだったんですよ。そこからストーリーを考えてページ数を増やして、連載用に構成するとなると、すごい作業だな、単純に大変だな……と思ってました。
──参観日のエピソード以降は、連載が決まってから膨らませていったんですね。
そうなんです。先を考えていなかった……。ただヤクザが小学校の参観日に行くっていうことの面白さを描きたくて、そこしか考えてなかったんだと思いました。連載をしていくための、1つの作品としては詰め切れていなかったんです。
──お話に上がった、参観日のエピソードはファンの間でも人気の高い回だなと感じました。霧島が授業参観に行くために普段とは雰囲気の違う服装で八重花を驚かせるシーンがとても素敵ですよね。
ありがたいことに、そのシーンはかなり反響をいただきました。読者の皆さんに霧島を好いていただけたタイミングだったと思います。読者の皆さんは、私が「ここを見てほしい!」と思ってるところを、何も言わずにわかってくれているような気がしています。霧島と八重花がどういう方向に行っても見守ってくれている感じがしますね。
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霧島が困っていたり焦っていたりする姿を描くのが好き