コミックナタリー Power Push - 久米田康治からの“お別れ”
画業26年目で初画集、初原画展、初サイン会… マンガ界の火薬庫が語る“これまでとこれから”
いきがってあんな最終回描かなきゃよかった
──その後、「さよなら絶望先生」が始まります。マガジンという新天地へ移ったわけですが、たとえばアクションとか、ギャグ以外の作品を描いてみようとは考えなかったんでしょうか?
あ、最初は編集さんも「なんでもいいよ」って言ってくれてたんです。でも、与えられたのが12ページだったんですよ。そんな短いページでできるのってどんなアクションだよって(笑)。だから、意思とは関係なくギャグしかないっていう。
──「かってに改蔵」は数人の主要キャラで作られる話でしたが、「絶望先生」ではたくさんのキャラクターが登場します。これはどういう意図だったんでしょう?
あれは当時、「女の子がいっぱい出てくる話ならいいんだろう?」みたいなのがあちこちで連載されてたので嫌味を……。じゃあ登場キャラ全員に問題があったらどうなんだっていうので描いたんですけど。
──そういえば、久米田先生は「かってに改蔵」のときに赤松健先生の作品をよくネタにしてイジっていましたね。ということは「絶望先生」は、「魔法先生ネギま!」のような作品への挑戦というか……。
ねえ? うっすいキャラいっぱい出してさあ。
──すみません、これ、どこまで掲載していいんですか?
編集 全部大丈夫です。
──はい。……えっと、キャラクターが多かったですね。
まあ、でも、結局僕もキャラクターを回しきれない感じでしたね。12ページしかないって忘れてた(笑)。
──「かってに改蔵」もですが、「さよなら絶望先生」はラストも印象的でした。ただ、以前久米田先生はインタビューで「こういう1回完結のギャグは必ずしも最終回らしい最終回が必要ではない」とおっしゃっていました。
そう思います。ただ、たぶん自分の中で退路を断ちたかったんでしょうね。ああいう形で終わらせると、続編とか描けなくなるじゃないですか。まあ、今思うと描けるようにしておけばよかったなって……。いきがってあんなことやらなきゃよかった。
──ここにも後悔が。
でも、終わらせるならちゃんと終わらせたいって気持ちがあるんだと思います。この歳になると思うんですが、連載を始めるのってそんなに難しくないんです。でも、終わらせるのは結構大変で。ただ、一方で最後は終わらせなくて済むような話を描きたいという気持ちがあります。「サザエさん」みたいな。
平面的な構図のほうがサッパリした笑いにできる
──絵についてもお聞きしますと、「絶望先生」ではレトロなモチーフを取り込んでいますね。
やっぱり自分の趣味ですかね。自分の中の流行というか。ただ、連載中に映画「三丁目の夕日」が流行って「昭和レトロ」とか言いだした時点でかなりモチベーション下がりましたね。「あー、来ちゃった……」みたいな。
──次の「せっかち伯爵と時間どろぼう」もモチーフが……。
あれはちょっと高尚すぎましたね。ジョルジュ・バルビエってフランスのイラストレーターさんがいるんですけど、そっち系に振ってみたりして。マンガからマンガにモチーフを持ってくると「○○っぽい」みたいに言われるじゃないですか。だから、「君らの知らない世界観から引っ張ってきてやろう」みたいな(笑)。今やっている「かくしごと」のカラーイラストなんかも、昔の鈴木英人さんのテイストを落とし込んでいる塗り方ですね。今の英人さんはかなり複雑で写真っぽくなっているので、もうちょっと簡略化してますが。
──そういう自分の絵のルーツみたいな作家さんって、ほかにもいるんでしょうか?
林静一さんもルーツのひとつだと思いますね。たぶん、イラストレーターの中村佑介さんも林静一さんがルーツだと思うんです。だから同じ林静一リスペクトなのに「久米田康治は中村佑介のパクり」とか言われるとちょっと心外。パクり元は同じじゃないのか!?(笑)
──作品自体も非常に平面的な絵や構図が多くなっている印象です。
それもやっぱり自分の中の流行りがあるんだとは思います。ここ数年は平面的な構図が好きですね。奥行きのある絵ってカラーイラスト1枚ならいいんですけど、ギャグマンガのなかで使うとちょっとしつこいんです。定点カメラみたいな構図で展開した方がサッパリした笑いになるというか。昔の「いかにもギャグです! ドーーーーン!!」みたいな感じって、自分のテイストとは違うかなと。
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待望した!久米田康治、画業26年目にして初の画集!! 選りすぐりのイラストを多数収録し、全イラストに本人の「後悔コメンタリー」付き!
作品展
「一挙後悔中 ~さよなら久米田先生~」
- 東京会場
- 会期:2016年7月2日(土)~8月14日(日)
- 会場:青山GoFa
- 大阪会場
- 会期:8月23日(火)~9月4日(日)
- 会場:海岸通ギャラリーCASO スペースB
- 久米田康治「かくしごと(1)」/ 2016年6月17日発売 / 講談社
- 久米田康治「かくしごと(1)」
- 648円
- Kindle版 / 540円
父・後藤可久士、娘・後藤姫。父が娘にぜったい知られたくない秘密……。それは、自分が「漫画家」だということ!でもそんなの隠し通せるの?「隠し事」は「描く仕事」! 愛ゆえに心配しちゃう漫画家パパが大暴走の、漫画業界トラブルコメディ、開幕!
久米田康治(クメタコウジ)
神奈川県生まれ。1990年、「行け!!南国アイスホッケー部」が第27回小学館新人コミック大賞を受賞。翌年、週刊少年サンデー(小学館)に掲載されデビューとなった。当初スポーツマンガとして始まった同作だが、次第にコメディ要素が増え徐々にギャグマンガへと変化。過激な下ネタとお色気で好評を博した。1998年より同誌で連載を開始した「かってに改蔵」は、登場人物の妄想から発せられる痛烈な社会風刺で新たなファンを獲得。2005年より週刊少年マガジン(講談社)で連載を開始した「さよなら絶望先生」は2007年に第31回講談社漫画賞を受賞、同年テレビアニメ化され、さらなるヒットを記録した。アニメ化に続き舞台化もされた「じょしらく」の原作を務めるなどし、現在は月刊少年マガジン(講談社)にて「かくしごと」、楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)にて「スタジオパルプ」を連載中。また「じょしらく」と同じくヤスとタッグを組んだ「なんくる姉さん」もヤングマガジンサード(講談社)にて連載されている。