ツッコミでマンガのリズムを作る

──拓眞はときどき食事を抜くと痩せてイケメンになるという驚きの体質の持ち主ですが、この設定は今後どういうふうに活かされていくんでしょうか。

先のことは考えてないので私にもわからないんです。「うそつきリリィ」での苑のすっぴん状態ほど簡単なご褒美要素にはならなさそうですが、描くのが楽しみです。

──苑の女装や拓眞の体質もそうですが、小村さんの作品には「なんでもありな感じ」というか、マンガならではの勢いを感じます。

私、普通の設定じゃ描けないっぽいんですよね。変なのじゃないと。

──「うそリリ」第8話で、巻頭カラーではクリスマスパーティのことが描いてあったけど「すいません!! 全ッ然まとめられなかったので内容がっつり変わってしまいました!!」って謝罪が入り、まったく別の話が本編で展開され始めたときは衝撃を受けました。

「うそリリ」のときは、1回1回を大事にしなきゃってすごく思ってたんです。カラーは締め切りが早いので先に描いたんですけど、そこからの話がどうも面白くならなくて。カラーに無理矢理寄せてって面白くないものを出すよりは、思い切って捨てたほうが絶対いいだろうと。私、「うそリリ」の前まで描いてたものが、ちゃんと取材をしてきちんと描かなきゃいけない作品だったんですね。「ミックスベジタブル」は料理マンガだったし、「ハイブリッドベリー」は野球マンガ。それになかなか苦戦していたので、「もういいじゃんマンガなんだから」って吹っ切れた感じが「うそリリ」では結構ありました。

──何かがスコーンと突き抜けたんですね。

テンポがいいマンガが好きなので、「うそリリ」からそれがうまく描けるようになったかなと。何言ってるんだって思うかもしれないですけど、私AB型なので、A型とB型の部分を分けて出すといいのかなと思ったりもしてます。たぶんツッコミでマンガのリズムを作ってるんです。「うそつきリリィ」だと苑が変な子なので、普通の視点からツッコミを入れてくれるのがひなたでした。

──先ほど「森のたくまさん」は花凛が小村さんと同じ感覚でツッコミを入れてくれるとお話ししていたので、やはり「うそリリ」のようにテンポよく楽しい作品になっていきそうですね。

そうですね。女装が脂肪に変わった、みたいなことかなと思ってます（笑）。

できるだけ読者の近くにいたい

──小村さんは単行本で空きページのすべてにおまけマンガを描いていたり、とても読者へのサービス精神が旺盛だなと感じます。「うそリリ」の頃に始めた男装でのサイン会も続けてるんですよね？

はい。1回普通に女子の格好で行ったら、「男装じゃないんですね……」ってガッカリされちゃったから。

──（笑）。

確かに普通に私がサイン書いて、何が面白いんだ？っていうのはあります。

──いや、それだけでファンはうれしいのが普通のサイン会だと思います（笑）。

もっと面白がってもらえないかなって……。

担当編集　普通は机を隔てて先生が座ってて、入ってきたファンの方と向かい合わせになるじゃないですか。でも2人であれやこれやと考えて、机の前にこう（脚を組んで優雅に座る仕草）座って。「いらっしゃいませ」って迎えてみたりとか。

テーブルの意味ない。「とりあえず抱くか！ 抱いとくか！」って抱いたりとか。わけがわからない。

担当編集　笑い声が外に漏れて「賑やかなサイン会ですねー」とか言われて。スタッフさんが何事かと思って覗きにきましたよね。

遠いのが嫌なんですよね。自分が読者のときに、好きな作家さんの人気が出ると、みんなのものになって遠くなっちゃう寂しさがあったので。おまけページをたくさん描くのも同じ理由ですね。できるだけ読者さんの近くにいたいし、なんでもいいから楽しんでもらえたらと思うんです。

──「森のたくまさん」ではこんなイベントがしてみたい、っていう構想は何かありますか？

たくさん思い浮かびますねー。拓眞の着ぐるみでハグ大会とか……「みんなで肥えようグルメツアー」とか、お料理教室とか！ 美味しいやつをやりたいですね。でも一番現実的なのは、私が増量してサイン会、とかなのでしょうか。ガクブルですね……。