現在オンエア中のテレビアニメ「賭ケグルイ」。同作はギャンブルでの階級制度が存在する学園を舞台に、賭け事のリスクを楽しむことに狂った“賭ケグルイ”の蛇喰夢子を描く物語だ。河本ほむら原作、尚村透作画による原作マンガは、ガンガンJOKER(スクウェア・エニックス)にて連載されている。
アニメ化を記念し、コミックナタリーでは2回にわたる特集を展開。2回目である今回は、「賭ケグルイ」のキャラクターたちの欲望や感情が剥き出しになるさまにスポットを当てた。作中でただ1人“普通の人”である鈴井涼太役の徳武竜也とともに、夢子ら登場人物の欲望について説いてもらうべく、現役の僧侶が営んでいるという東京・中野の坊主バーを訪問。店主の僧侶から飛び出した「人生は賭博場」という言葉の意味とは? バー初体験だという徳武の体験レポートと併せてお届けする。
取材・文 / 熊瀬哲子 ヘアメイク / 福島加奈子
人生は賭博場
徳武竜也 鈴井涼太役の徳武竜也です! 本日はよろしくお願いいたします。
釈源光 店主の釈源光です。よろしくお願いいたします。
──源光さんには今回「賭ケグルイ」の単行本を読んでいただきましたが、いかがでしたか?
源光 今回こういうお話をもらって初めて読んだんですが……正直言って、ハマっちゃいました。
徳武 おおっ! ありがとうございます! うれしいです。
源光 私はギャンブルに弱いので、そういった題材の作品にはあんまり興味が持てなかったんですよ。昔の嫌な思い出が蘇るから。
徳武 どんな思い出なんですか?
源光 実は、私は50歳を過ぎて仏門に入ったのですが、そのきっかけの1つに賭け事があるんです。バブルの頃、私は某大手企業の部長をやっておりまして。年に3、4回ボーナスが入っていたんですが、あるとき500万円近く振り込まれたことがあったんです。当時は仕事が山のように降ってくるのに人手が足りないというストレスの溜まる状況だったこともあり、アホな買い物ばかりしていたんですよ。その中でも一番アホだったなと思うのがシカゴ大豆。先物取引に挑戦しようと思って、掛け金を200万円ばかり使ったんです。
徳武 すごい額……! まさに「賭ケグルイ」の世界ですね。
源光 先物取引も運に左右されることがあるので、賭け事に似た要素がありますね。それで3カ月で400万円ほどすってしまって。これ以上やると桁がとんでもないことになるからと、恐れをなして途中で止めたんです。それでも370万円ほどの大損をこきました。
徳武 すさまじいですね。
源光 営業マンに「君、確実に儲かるって言ったじゃない」って申し出たら、「いや、もうちょっと続けてもらったら利益が出ますよ」と言われて。
徳武 うわあ、怖い怖い。
源光 うっかりその賭けに乗るとヤバいことになるんで、もう先物取引はやらないと決めたんです。でもそんな大金もすぐ戻せると思ってしまうのがバブル期の怖いところで。そんな悪循環の中で、ある日バブルが崩壊して私の転落の人生が始まったんです。それで行き場をなくし、企業社会にも戻りたくなくて、苦肉の策で仏門に入ったという経緯があります。
徳武 へええ。
源光 そのうえ、今ちょうど新規事業を立ち上げようと思っていまして。そのために金融機関から数千万円を引き出して、借金をして挑むわけです。これもある意味賭けみたいなものですよね。そんなときに、なんの因果か今回の取材のお話が来て。だから「賭ケグルイ」を読んでも他人事に思えなかったですね。「俺やんか!」みたいな。
徳武 あはは(笑)。
源光 私はそれまでにもパチンコや競馬に競輪、競艇、株とひと通りやってきました。勝つときは勝ちましたけど、トータルでは大負けですね。世間はバブルだったので、余計に大きな額になりました。ろくなことにならないから、もう私はギャンブルはやらないと決めたんです。そのときは人生そのものがギャンブルみたいな状態でしたね。だけどこれは皆さんも同じなんですよ。明日の徳武さんは生きてるっていう保障はありますか?
徳武 うーん、ないですね。
源光 ないですよね。明日、関東大震災が来ないという保障はありません。一寸先は闇っていう言葉があるでしょう。人生っていうのはそれ自体が賭けなんです。“安心立命”という仏教の言葉があるんですが、それは「心を安らかにして、どんなことにも動揺しない」という意味でして。それをどうやって得るかというのが仏教的な課題になります。お金があって、豪邸に住んでいたら安心立命になると思いますか?
徳武 病気にかかるかもしれないし、災害に巻き込まれる可能性もあるから、それが生きていくための保障にはならないですね。
源光 ええ。いくら物質的なものや経済的なものが潤っていても、人は安心できません。だから日々、博打。人生は賭博場なんです。
──そうであるという自覚がないだけで、私たちの日々の生活もギャンブルと変わりないと。それに対し、「賭ケグルイ」の主人公の夢子は、自ら「リスクを負いたい」という欲望のもとに次々と賭けに挑んでいきます。
源光 「もっともっと」という気持ち、これが仏教で言う煩悩なんです。「賭ケグルイ」のキャラクターたちはギャンブルに支配された学園に通っているので、さまざまな賭けに挑んでいますが、普通の学園にもいろんなことがありますよね。言ってしまえば受験に合格できるか、テストでいい点数が取れるかどうかも、人生を賭けるという意味ではある種の賭けみたいなものです。仮にこういった学園でなかったとしても、結局本質は一緒なんです。
徳武 百花王学園が、たまたまギャンブルが盛んな学園というだけで。
源光 たまたまギャンブルというものに挑んでるだけなんです。じゃあ挑んでなければギャンブルじゃないのかと言うと、そんなことはないんです。私たちが日々を楽しく過ごそうと生きているのも、それが人生においての賭けであるということを自覚していないだけなんです。夢子たちは自覚的な賭けをやっているだけで、動力源が煩悩であることはリアルな社会の私たちと変わりはないんです。
「賭ケグルイ」は人間の煩悩を典型的に示した物語
徳武 その煩悩っていうのは、人間が思う「楽しいことがしたい」とか、快楽を求めたりする本能と同じものなんですか? それとも別のものなんでしょうか。
源光 どんな動物にも本能と欲望はあります。だけど、人間だけが煩悩を持っているんです。その違いを生んでいるのは言語です。人間生活は言語によって営まれていて、言語的なものに基づいて感情が湧いてきます。誰かの言葉に傷付いたり、ときには自殺にまで追い込まれたりすることもありますよね。感情を増幅させるのも、媒介をなしているのも言語なんです。動物も唸ったりすることで伝達をしたり、原始的な言語は持っていると思いますが、人間ほど高度な言語は持ち合わせていない。だから煩悩を持っていないんです。
徳武 なるほど。
源光 人間も根は動物なので、本能も欲望も持っています。「賭ケグルイ」では1つのギャンブルの中で、賭け金がどんどん大きな額に膨らんでいくことがありますよね。自分の名誉のため、プライドのため、いろんな理由があると思いますが、この「もっともっと」こそ煩悩。こんなバカなことは、人間と近いとされているオランウータンやボノボではやりません。人間だけが愚かしいわけです。そのように、欲望までで留めておけばいいものを「もっともっと」と膨らませていって、そうしてできあがったものがこの文明社会なんです。文明こそ、人間の煩悩の産物です。ただし、必ずしも煩悩が悪いことではありません。マンガもあれば映画もあって、音楽も、演劇もある。我々はさまざまな文化を楽しみますよね。それらもすべて煩悩の産物。我々がオランウータンの集団だったらマンガも映画も生まれていません。欲望しかないからです。
徳武 僕たち人間が「もっと面白いものを」「もっとすごいものを」と求めていったから、できあがった文化ですもんね。
源光 ただその文明の産物が、我々自身を滅ぼしにもかかっている。例えば環境汚染、戦争、原発……いろいろな問題がありますね。1つ便利になるというのは、1つ不便にもなるし、危険も生み出すことになる。煩悩には両義性があるんです。1枚の札の表と裏みたいなもので、表から見るといいことづくめだけど、裏を見返すと最悪だなんてことがある。煩悩というのはそういう両面があるので、そこをどこまで認識しているかが問われるんです。
徳武 うんうん。
源光 人間の知性はそれを認識するだけではなく、同時にコントロールすることもできます。だからこのままではいいはずがないと、地球環境会議もしますし、戦争をなくすべく国連も作りました。我々の煩悩によって発生した負荷や危険性みたいなものが、人間の知性をさらに発達させるんですね。それを人間は何千年も繰り返しているんです。
──それで言うと、「賭ケグルイ」の物語は1つ得ようとすれば1つを失うという、その人間社会を凝縮したお話のように思えます。
源光 そうですね。“ギャンブル”という1つの素材を使って、人間の煩悩を典型的に示した物語だと言えますね。それは「賭ケグルイ」に限らず、すべてのマンガや文学、演劇にも共通しています。誰しもが煩悩を持っているわけだから、学園ものであっても恋愛作品であっても、人間の煩悩を描き出したものになる。物語の発生ってそういうことなんです。
徳武 「賭ケグルイ」に関しては、その人間の煩悩をド直球で描いているわけですよね。ある意味どこまでも人間らしい、生々しい物語だなと。
源光 ええ。そして、そういったものに目を背けず楽しむことができるのは、物語で起きていることが他人事だからなんです。僕たちが映画を観たり、小説を読んで楽しめるのも他人事だから。感情移入することがあっても、主人公は自分そのものではないから楽しめるんです。みんな、怖い映画とかあっても観に行くでしょ?
徳武 怖いもの見たさで観に行っちゃいますね。
源光 それって結局、所詮虚構だという、最初からの安心立命があるんです。作り物という大前提で、私たちはどんな怖いマンガも、どんな怖い映画も観たり聴いたりすることができる。僕たちが一番恐れるのは、その虚構が自分の現実と化したときなんです。
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ある意味鈴井くんも狂ってる(徳武)
- テレビアニメ「賭ケグルイ」
- 放送情報
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MBS:毎週土曜26:38~
TOKYO MX:毎週土曜22:00~
テレビ愛知:毎週水曜27:05~
RKB毎日放送:毎週水曜26:30~
BS11:毎週日曜26:00~ - 配信情報
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Netflix:毎週日曜配信
- スタッフ
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原作:河本ほむら・尚村透(掲載 月刊「ガンガンJOKER」スクウェア・エニックス刊)
監督:林祐一郎
シリーズ構成:小林靖子
キャラクターデザイン:秋田学
音楽:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
制作:MAPPA - キャスト
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蛇喰夢子:早見沙織
早乙女芽亜里:田中美海
鈴井涼太:徳武竜也
皇伊月:若井友希
西洞院百合子:奈波果林
生志摩妄:伊瀬茉莉也
夢見弖ユメミ:芹澤優
豆生田楓:杉田智和
黄泉月るな:鵜殿麻由
五十嵐清華:福原綾香
桃喰綺羅莉:沢城みゆき
©河本ほむら・尚村透/SQUARE ENIX・「賭ケグルイ」製作委員会
- アプリ「賭ケグルイ チーティングアロード」
- 配信元:エイベックス・ピクチャーズ
テレビアニメ「賭ケグルイ」がスマートフォン向けゲームアプリで登場! 基本プレイ無料にて、描き下ろしのイラストやオリジナルのギャンブルを楽しめる“アドレナリン分泌系ギャンブルアプリ“だ。目下事前登録を受け付けており、登録者数に応じてアプリ内で使えるアイテムがゲットできる。アプリはApp Store、Google Playにて、今秋配信予定。
- 「賭ケグルイ」Vol.1
- 2017年10月13日発売 / エイベックス・ピクチャーズ
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- 尚村透、河本ほむら「賭ケグルイ⑦」
- 発売中 / スクウェア・エニックス
- 斎木桂、河本ほむら「賭ケグルイ双⑤」
- 発売中 / スクウェア・エニックス
- 柊裕一、河本ほむら「賭ケグルイ妄①」
- 発売中 / スクウェア・エニックス
- 徳武竜也(トクタケタツヤ)
- 長野県出身、9月15日生まれ。主な出演作に「アイドルマスター SideM」(九十九一希役)、「スタレボ☆彡 88星座のアイドル革命」(双木テラ役)、「デュエル・マスターズ」(サメジマ役)など。ツキクラ、&6alleinのメンバーとしても活動中。