コミックナタリー Power Push - ジャンプスクエア

剣心の生き様を「本当にお疲れ様」に変える北海道編

愛嬌や明るさが「剣心」には必要不可欠

──北海道編執筆のきっかけにもなった「るろうに剣心」の実写映画やミュージカルについても伺えればと思います。マンガの実写化というと「心配だ」と語るファンが多い中で、「るろうに剣心」の映画はとても評価が高かったですよね。

「るろうに剣心 ―キネマ版―」第1話より、剣心と弥彦の出会いのシーン。

やっぱり媒体が変われば尺も違ってくるし、マンガは描く、映画は演じるものですから、そのまま映画にするっていうことはできないんです。ただ「何をどう見せていくか」っていうことを考えたとき、映画の「剣心」はアクションと画作りが、「観るエンタテインメント」として非常に優れていたんですよね。ちゃんと時代劇映画でありながら、「るろうに剣心」の世界でもある。役者さんもアクションを非常にがんばってくれて、男性であればアクションを、お年寄りであれば時代劇を、女性であればイケメンを楽しめる(笑)。そういう観る人が楽しめるところをしっかり押さえていたのは「大友(啓史)監督すげえ」と思いましたね。

──先生は映画の制作にどの程度関わっていたんですか?

1作目は結構参加させてもらったんですが、続編に関してはシナリオが上がってからチェックして「ここをああしてほしい、こうしてほしい」と要望を出させていただく形でした。自分はマンガのプロとしてやっている以上、結果を出したからには信頼してほしいという思いがあるんですが、大友監督や佐藤健さんをはじめ、映画に関わった方々は1作目でちゃんと結果を出したので、じゃあ信頼しなければと。あと俺はマンガ家なので、マンガをがんばらないといけないということで、映画に比重を置きすぎるのは控えて。

──それぞれの映画の公開に合わせて、先ほどおっしゃっていた「キネマ版」や、志々雄一派を描いた読み切り「炎を統べる」を発表されましたが、これはどういった経緯で?(参照:「るろ剣」志々雄一派描く読切がSQ.に、竹村洋平の新連載も

映画「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」の公開に合わせてジャンプスクエアに掲載された、「炎を統べる ―るろうに剣心・裏幕―」より。同作では志々雄一派結成にまつわるエピソードが展開される。

プロモーションというのももちろんあるんですが、自分を育ててくれた担当編集で「バクマン。」に出てくるジャンプ編集長としても有名な佐々木(尚)さんが、「こりゃあ映画に合わせて『剣心』描かなきゃな」って言い出して。ジャンプで「るろうに剣心」の連載を終えるときは、佐々木さんに「人気がある中で終わった以上、今後『剣心』を描いたらダメだ」と言われていたんですよ。確かに自分のワガママでもある以上、「ああ、そうだな」と思っていたんですけど、あんたどの口が言ってるんだっていう(笑)。

──(笑)。そこから先生も乗り気に?

最初は「えっ、描いていいの?」って感じでしたけどね(笑)。でも自分の中でも「剣心」を見つめ直すきっかけにもなるから、「描きましょう!」と。

──「キネマ版」では「剣心」の最終章を描こうかというアイデアもあったと、先ほどおっしゃっていましたね。

でもそれがうまくハマらず、原作の後日譚……弥彦の話とか、剣心や弥彦の子供の話をということも考えたんですが、やっぱり映画のプロモーションでもあるわけだから、剣心の話にしなければダメだろうと。前日譚的な話も考えたんですが、それだと既存のキャラクターをあまり登場させられないので、前日譚はジャンプで読み切りとして描いて、SQ.では「キネマ版」をやってみようと始めたんです(参照:「るろうに剣心」ジャンプに帰還!前日譚描く読み切り掲載)。

──インタビューの前編でもおっしゃっていた、ご自身のマンガ人生を振り返ることにもつながって。

剣心のカラーカット。

昔描けたものが描けなかったりとか、逆に昔描けなかったものが今は描けたりとかっていうところが、同じ「剣心」という作品を描くことによって、すごく根掘りできましたね。自分としてはもともと客観的に見てたつもりだったけど、「ここまで違うんだなあ」というのがわかったりとか。

──具体的にはどのあたりでしょう。

剣心の髪の毛が描けなかったていう(笑)。なんとか終盤には描けるようになったんですが、最初はボサボサのラインが出せなくてすごい戸惑いました。「絵の密度は上がってるけど、ちょっと勢いがなくなっちゃたな」とか、「技術は上がったけど、若い頃のパワーはやっぱりなくなってんだなあ」みたいな、ネガティブなところもあったり。技術は上がってる分、パッと見で見たときは今の方が絶対いいっていうのはあったんですけどね。あと一番デカかったのは、初期の「剣心」には愛嬌とか笑える明るい感じがあったというのを思い出せたことですね。自分の中の「剣心」のイメージって、やっぱり終盤のほうが印象が強くなるんですよ。でも「剣心」の序盤ってコメディ要素が強かったんだって。

「るろうに剣心 ―キネマ版―」第2話より、朝食をめぐってのドタバタを描いた一幕。

──終盤の「剣心」は少し落ち着いていますね。

はい。「武装錬金」という作品を描いたときにコメディを意識していたんですが、笑えるかどうかは別として「剣心」の序盤のほうがコメディ要素多いよって妻にも言われたりもして(笑)。「剣心」っていったら人斬りという過去に悩んで、そこから脱却する、ひとつの結論を出していく物語なんですけど、そこにとらわれすぎて、初期の明るい感じを忘れてしまっていたんだなと。

キャラクターがしっかりしてればなんとでもなる

──そして今年、宝塚で「るろうに剣心」がミュージカル化されました(参照: 宝塚版「るろうに剣心」東京で開幕!「悪・即・斬」に観柳のガトリングガンも)。

剣心のカラーカット。

リハーサル、通し稽古も拝見させていただいたんですが、すごく面白かったですね。宝塚のお偉い方たちがキャストについて「人様の娘様を預かってる身としては、危険なことはやらせられない」とおっしゃっていたんですが、まさにそれは当然で、全員女性ですから映画のような激しいアクションはできないんです。じゃあ映画と違うミュージカルの魅力はどこかって考えたら、華やかで楽しいっていう部分で、そこは北海道編を執筆するにあたってすごく影響を受けています。舞台自体は終了していますけど、DVDにもなっているのでぜひこれは観てほしいですね。

──映画、ミュージカルが成功したポイントはどのあたりにあると思いますか。

うーん、基本のキャラクターを外してない、変えていないってとこですかね。俺がジャンプ、集英社に仕込まれたのは、「マンガっていうのはキャラクターが肝だから、とにかくキャラクターがしっかりしてればなんとでもなる」ってことだったんです。映画にするにしても舞台にするにしても、究極的にストーリーが多少変わってもそれは仕方がない。でもキャラクターはちゃんと押さえておかないとおかしくなっちゃう。自分の作品も人様の作品も含めて、やっぱり面白いかそうでないかというのは、だいたいキャラクターが崩れてしまっていないかどうかなんですよね。なぜなら読者はマンガのキャラクターたちを愛してくれていて、「このキャラクターたちをもっと見たい」という気持ちがあるからストーリーを読んでくれているんだと思うんです。だからメディア化されて、キャラクターが変わってしまったら、やっぱり原作ファンは悲しいんですよ。なので、まずキャラクターをしっかり捉えたっていうところが、映画と宝塚が成功したポイントなんじゃないかと。

「とりあえずお疲れ様」から「本当にお疲れ様」に

──和月先生の近作にはストーリー協力として、奥さまである小説家の黒碕薫先生のお名前がクレジットされていますが、具体的にはどのような体制でお話をつくっているのでしょうか。

「るろうに剣心 裏幕―炎を統べる―」。同書には志々雄一派を描く前後編の読み切り「炎を統べる ―るろうに剣心・裏幕―」や、黒碕薫による小説「その翳、離れがたく繋ぎとめるもの」が収録されている。

まず俺がお話を作って、わからないこととや調べてほしいことがあったら頼むって感じです。妻は職業柄、調べ物がすごくうまくて。マンガだったら「こんな事実はないけど、面白いから演出としてこれでいこう」って描けるものが、小説だと文字だけで情報を伝えなきゃいけない分、いい加減なことを書けないじゃないですか。小説は事実認識のハードルがマンガよりうんと高いんです。あと北海道編でも妻が調べてきてくれたものの中に、いくつか「これは!」っていうアイデアがあったりするのでありがたいですね。最初に「剣心」の最終章用のプロットを作って感想を求めたときも「つまらん!」とはっきり言ってくれたり(笑)。

──まさに第2の担当編集者というか。

そうですね。自分もマンガ家を20年もやっているので、担当さんが言いづらいことも多いと思うんですよ。でも妻だからバシっと言ってくれるし、創作のパートナーとしてすごく頼りにしています。もちろん人生のパートナーとしても。

──今のお話の中でも出てきましたが、北海道編はいつごろから準備なさっているんですか。

打ち合わせ自体は今年の3月くらいからしています。

「るろうに剣心 ―明治剣客浪漫譚―」の最終話より。

──ミュージカルが上演される直前のタイミングですね。映画やリメイク、ミュージカルを通して過去に描けないと思っていたテーマが見えてきたと。

はい。ジャンプでの連載時から、自分の目指している終わりじゃないなってところに行き着きそうになっちゃうから、あえてぼかしたというか、伏せたカードがいくつかあったので、それを昇華できればと。「剣心」の最終回は剣心の生き様に対して「とりあえずお疲れ様。」と言う薫のセリフで終わったんですが、その言葉を「本当にお疲れ様。」に変えていける道筋が見えてきたので、それをしっかり描いていきたいと思います。

──今回SQ.9周年ということでインタビューさせていただきましたが、10周年の際には何をなさっていると思いますか。

はは。これだけ言って、「るろうに剣心」を描きはじめていなかったらまずいですよね(笑)。人気が出なかったら終わっちゃうでしょうけど、今までのキャラクターもたくさん出てきますし、自分としてはどうあっても短く終わらせることはできないとは思うんです。まだ北海道編を描くという情報しか発表できないのですが、連載開始を楽しみにしていてください!

和月伸宏 「―るろうに剣心・異聞―明日郎 前科アリ」
「―るろうに剣心・異聞―明日郎 前科アリ」
ジャンプスクエア12月号、2017年1月号に2カ月連続掲載!

時は明治、とある罪によって東京の集治監に収容されていた長谷川悪太郎は、出所当日に同い年の少年・井上阿爛と出会い、行動をともにすることになる。食い扶持に困った2人は、悪太郎が集治監収容前に「地獄に堕ちた“言禁の首魁”」のアジトから持ち出したという悪の宝刀・無限刃を売り払い、金を得ようと目論むが……。

和月伸宏(ワツキノブヒロ)
和月伸宏

1970年東京都生まれの新潟県長岡市(旧越路町)育ち。1987年に「ティーチャー・ポン」が、第33回手塚賞佳作を受賞。1994年に週刊少年ジャンプ(集英社)で「るろうに剣心 ―明治剣客浪漫譚―」の連載を開始する。同作は1996年にテレビアニメ化され、連載終了後もOVA化、実写映画化、宝塚歌劇団によるミュージカルの制作など、さまざまなメディア展開が行われている。「るろうに剣心」の連載終了後は、週刊少年ジャンプで「GUN BLAZE WEST」「武装錬金」を、ジャンプスクエア(集英社)の創刊号より「エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-」を発表。2016年、ジャンプスクエアの創刊9周年に合わせ、「るろうに剣心 ―明治剣客浪漫譚―」と同時代を描く「―るろうに剣心・異聞―明日郎 前科アリ」を、前後編の読み切りとして発表した。