コミックナタリー PowerPush - えすとえむ×オノ・ナツメ

飲んだ喋った描いた4時間半 粋な女友達が酩酊お絵描き対談!

えむちゃんのおかげで大学生っぽい感じのことできたよ(オノ)

この日はオノ・ナツメ行きつけのイタリアンレストランで取材が行われ、次々と美味しい料理が振舞われた。

オノ あの時、チカちゃんの原稿もやったよね。

えすと やった。石川チカちゃん、「KOBAN」の。

オノ それも(えすとえむが卒業した京都)精華大学の先生が手伝ってらっしゃって、トーン削る作業がすごくて。私そんなの近くで見たことなかったから、「スゲー!」って。

えすと 私は大学でやってたから共同作業とかけっこう日常だったけど、ひとりで描いてたらなかなか一緒に作業する機会ないもんね。

オノ うん、私は会社勤めして辞めてっていう、そのくらいの歳になってやっと、えむちゃんのおかげで大学生っぽい感じのことできたんだよ! あれ楽しかったな……。

えすと でもナツメさん、ボローニャにいた時代に、何か習ったみたいなこと言ってなかった?

オノ 習った習った(笑)。私、1年ぐらいイタリアに語学留学したことがあったんですけど、そのときに散歩してたら、公民館みたいなところで市民講座みたいな張り紙を見つけて、そこにマンガって書いてあったの。

えすと カルチャースクールみたいな。

映画っぽい雰囲気の作品を受け入れる土台ができてた(えすと)

オノ・ナツメ(左)、えすとえむ(右)。

オノ あのね、語学学校っていろんな国から生徒が来るんだけど、みんなけっこう英語で話して固まってることが多かったの。

えすと あー、なんか留学先で日本人ばっか固まるのとか聞くけど、外人もそうなんだね。

オノ うん。それで英語が全然わからないから語学学校では割と輪に入れてなかったのね。で、イタリア人の友達が欲しくてそのカルチャースクールにも通うことにしたの。テーマがマンガだったら、少しくらい言葉がわかんなくてもなんとかなるかな! と思って。

えすと 何習うの? 私大学ではえんえんカケアミやったりしてたよ。「きょうは4カケです」とか言って。

オノ 「これを集中線と言います」とかスライドにいろんなマンガの集中線のコマを写して、次の回はそれを真似してみましょう、みたいな。あとベタとか、トーン貼りとか。マンガってこんなことができるんですよ、っていうのを。駆け足なんだけど。

えすと マンガのことをイタリアで習ったんだ(笑)。ナツメさんのマンガがヨーロッパぽいって言われるのも、そりゃそうなるわ。ナツメさんが2005年にbasso名義で出された「クマとインテリ」で、ヨーロッパ風味というか大人向けというか、映画っぽい雰囲気の作品を受け入れる土台が、BL界にできたじゃない。

オノ そうかな、そうなのかなー。

私はユーゴ・プラットにも影響を受けたなあ(オノ)

えすと いま思い返すと、ナツメさんが先にいてくれたおかげで、私がスッと出ていけたというのはあると思う。だから私のデビュー作「ショーが跳ねたら逢いましょう」は、最初「オノ・ナツメっぽい」って言われて。

オノ 題材がヨーロッパで、あと太い線とかがマンガっぽくないっていう印象が共通してたのかな。私たち自身は全然似てないって思ってたけどね。絵だけじゃなく描き方や描きたいテーマも違うし……。

「ふたがしら」左が宗次、右が弁蔵。

えすと ただ2000年代後半ぐらいにひとつの潮流みたいのが確かにあって、その中心にナツメさんがいたのは間違いないんじゃないかな。私は「オノ・ナツメムーブメント」に乗っからせてもらったと思ってます。あざっす(笑)。

──おふたりの作家性に、なにか通底するものはありますか。

オノ うーん、えむちゃんと私って共通する好きなものは案外ない。大きくヨーロッパが好きと言っても細かい趣向は違うし、いわゆる萌えポイントみたいなのもズレてるし。ただ「コルト・マルテーゼが好き!」っていう1点だけは共通したんだよね。

えすと イタリアのユーゴ・プラットって作家が描いた冒険マンガなんですけど、シリーズがいっぱい出ているんです。私はフランス語とスペイン語で揃えようとして、多すぎて挫折した(笑)。

オノ 私もイタリア語のシリーズ集めてるんだけど、半分も揃えられないでいるから悔しい。もうねー、とにかくビジュアルが最高すぎ。私はユーゴ・プラットにも影響を受けたなあ。

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えすとえむ

えすとえむ

2006年、東京漫画社から発売されたBL作品「ショーが跳ねたら逢いましょう」でデビュー。スタイリッシュな画風と情緒豊かな内容で人気を博す。フィー ル・ヤング(祥伝社)にて連載された「うどんの女」が「このマンガすごい!2012」のオンナ編第3位にランクイン。2011年からは月刊IKKI(小学 館)にて闘牛をテーマにした「Golondrina ゴロンドリーナ」を、2012年からはジャンプ改(集英社)にて若き靴職人を描く「IPPO」を連載。BL誌、女性誌のみならず、青年誌にまで活躍の幅を広げている。

オノ・ナツメ

オノ・ナツメ

2003年、COMIC SEED!(ぺんぎん書房)にて「LA QUINTA CAMERA」でデビュー。ヨーロッパの雰囲気を上手に切り出した、小粋でアンニュイな人間模様を描き人気を博す。2009年に代表作「リストランテ・パ ラディーゾ」がテレビアニメ化、続いて2010年に「さらい屋五葉」がTVアニメ化される。2011年5月、月刊IKKI(小学館)にて「ふたがしら」を連載開始。そのほかの著書に「つらつらわらじ」「GENTE(ジェンテ)」「逃げる男」「COPPERS」などがある。