モーニング×コミックナタリー PowerPush - 江口夏実「鬼灯の冷徹」
話題の地獄コメディはこうして生まれた 江口夏実が語る5つのエレメント
要素その2 動物
「鬼灯ワールド」には鬼や亡者と並び動物たちもたくさん登場。桃太郎の元・お供である犬のシロ、猿の柿助、雉のルリオをはじめ、ゾウにシーラカンス、果てはツチノコと、さながら動物園の様相を呈している。
妖怪の絵って人間より動物に近いじゃないですか
──マンガを見れば一目瞭然ですが、かなりの動物好きですよね?
実家が葛飾の方で、上野動物園が近かったからよく連れて行ってもらっていたんです。動物は両親も好きだったので、家でも兎とか亀とか、インコとか飼ってました。
──上野動物園では、「鬼灯」でもフィーチャーされているハシビロコウが一番の目当て?
ハシビロコウは、後からなんですよ。私が高校か大学の時にいきなりやって来て、「ぜんぜん動かない変な鳥がいる!」って思って。爬虫類館と夜行性館が好きでしたね。他にもゾウって、実際に見るたんびに「でかいな!」って思うんです。猿はうるさい、臭い、糞をする、噛み付くし怖い……とか。動物を自分の目でちゃんと見て、ちゃんと感じることって大事だなあっていうことは、上野動物園で教えてもらいました。あれも野生ではないですが。
──じゃあ、動物園にスケッチブックを持っていって、デッサンするということも日常的で。
そうですね。大学は美大だったんですが、その課題で何度か動物を描いたこともありますし。小学校の時にノートに描いてたようなマンガは、全部動物が主役でした。パンダが普通に買い物に行くだけの話とか、豚がチャーシュー乗ったラーメン屋開いてるとか。で、妖怪が、背景のどこかにいる(笑)。昔やっていた「わくわく動物ランド」(TBS系/1983年~1992年)も大好きでしたね。
──関口宏さんが司会を務めていた、クイズ形式の動物ドキュメンタリー番組ですね。
毎年ヌーの移動の時期になると、ヌーの移動を特集してたのはよく覚えてます(笑)。あの番組は、動物の野生の姿を見せてくれるんです。人食い虎の特集とか、結構平気でやってたんですよ。肉食動物を題材にしてたら当たり前なんですけど、ライオンがインパラをぐちゃぐちゃ食べてるシーンとかも普通にゴールデンで流してて。今はそういう場面って、モザイクがかかることがあるんです。今の動物番組ってほぼかわいい子猫とかばっかりで、あれはあれでかわいいからいいんですけど、動物ってかわいいだけじゃないですよね。怖いです。「かわいい」だけで飼うからペットを捨てちゃう人がこんなにいるわけで、「怖い」もちゃんと伝えていかないとダメなんじゃないかなあと思います。
──確かに「鬼灯」に出てくる動物達は、かわいいだけじゃなくて、怖さもありますよね。「不喜処地獄」に就職した、桃太郎の元お供の犬・シロは、鬼灯にはすごくなついていてかわいいのに、亡者を前にするとキバとツメむき出しで飛びかかっていきます。
私、小さい頃追いかけられたんですよ、白い犬に。すごい吠える犬が逃げちゃったか何かで、滑り台の上に逃げましたけど、下でキャンキャンずっと吠えていて。そういう吠えられた記憶があったりとか、よく吠える犬の前を通るときの怖さとかよく覚えていて。猫も、近付くと結構な確率でカッてやられますからね。兎だって噛みますし。マンガなのでかわいいキャラクターにはしてるんですけど、「こいつは、ひっかくんだ」「噛まれたら血が出る」っていうところがないと、ちょっと良くないなと。「犬のリードを外してはいけない」「ペットはちゃんとしつけなきゃダメだ」とか、そういう倫理観みたいなものは念頭に置いて描いてます。
──作品に込められた意外なメッセージ、いただきました(笑)。
動物への「怖い」っていう感情が、妖怪になってたりすると思うんですよね。妖怪ってどちらかというと人間より動物に近いじゃないですか、絵柄自体が。たぶん昔の人が当時まだ知られていなかった動物を、ヘンに描いたら妖怪になった、みたいなことも多いんじゃないかなって。毛がボロッボロで、目を剥いてる野犬とかを見て、昔の人は妖怪とかお化けって勘違いしたんじゃないかなあとか……。それもあって、動物が好きなんです。やっぱり、妖怪が好きだからなんです(笑)。
» 要素その3 古典
あらすじ
あの世には天国と地獄がある。
地獄は八大地獄と八寒地獄の2つに分かれ、さらに二百七十二の細かい部署に分かれている。
そんな広大な地獄で日々さまざまなトラブルに対処する鬼神がいる。それが閻魔大王第一補佐官・鬼灯である!
冷徹でドSな鬼灯の仕事ぶり、とくとご覧あれ!
江口夏実(えぐちなつみ)
2010年に「非日常的な何気ない話」で第57回ちばてつや賞佳作を受賞。その中の一編「鬼」に登場したキャラクター・鬼灯を主人公にした「地獄の沙汰とあれやこれ」がモーニング2010年32号(講談社)に掲載されデビューを果たす。その後数回の掲載を経て、タイトルを「鬼灯の冷徹」と改め連載をスタート。