Twitterでそれぞれ10万人以上のフォロワーを持つ、島崎無印とにいち。かねてより親交のあったふたりは最新刊「放課後コラージュノート」「夏色の君へ 少女アラカルト2」で、お互いの作品のキャラを描く4ページの交換原稿企画を実施した。
コミックナタリーでは、この2冊の発売を記念して、島崎無印とにいちの対談をセッティング。共通の担当編集を間に挟み、10万人以上の人々に愛されるヒロインの誕生の秘訣や、SNS時代を生きる人気マンガ家の作品作りへのこだわりを聞いた。
取材・文 / 籠生堅太
自分と似た人がいるなと思ってた(にいち)
──島崎先生とにいち先生は、「放課後コラージュノート」と「夏色の君へ 少女アラカルト2」で原稿の交換をされる以前から交流を持っていらしたとのことですが、最初のきっかけはなんだったのでしょう?
にいち きっかけ……。それ、聞かれるだろうなと思って考えていたんですけど、さっぱり思い出せなくて(笑)。島崎さん、覚えていらっしゃいます?
島崎無印 時期とかは私もちょっと思い出せないですね。2、3年前だと思うんですが、いつの間にかというか。
にいち 今でこそマンガをTwitterで展開するのって、メジャーな方法になってるんですけど、2、3年前だとまだそれほどやられている方が多くなくて。そんな中で、自分と似た系統の作品を描いていらっしゃる方がいるなと、島崎先生を意識しはじめたんだと思います。
島崎 私は最初に印象に残ったにいちさんのイラストを覚えていますよ。女の子が制服の上からエプロンを着けて、後ろを振り返っているやつ。前の本(「彼女の季節 少女アラカルト」)にも収録されているイラストです。
にいち そうすると4年以上前ですね。Twitterではずっとやり取りをさせていただいていますが、Twitterの外でお話をするのは、実は今日が初めてで。
──そうだったんですね。ちなみに、これまでのやり取りというのは?
にいち 公開されたマンガの感想を言い合うのが中心ですかね。あまり他人の作品について積極的に感想を送るほうではないんですが、島崎さんの作品には感想をお送りするようにしています。
島崎 いつもありがとうございます。やっぱりネット上の付き合いしかない方って、どこか仮想の存在的なところがあるので、今日は「にいちさん、実在したんだ……」って思ってました(笑)。
男女のコントラストが、ヒロインを魅力的に(島崎)
──「放課後コラージュノート」と「夏色の君へ」、どちらにも魅力的なヒロインが多数登場しますが、彼女たちはどのように生まれるのですか?
島崎 ヒロインというか、パートナーと2人合わせて考えるようにしてます。なので、どちらか1人が決まれば、もう1人も自然と決まりますね。ヒロインがこう言ったら、もう1人はこう言うだろうなっていう、2人のコントラストみたいなものは意識してます。
にいち 私もパートナーとやり取りしているところを想像して、そこからキャラクターを作っていくことが多いですね。あとはそのキャラクターが大切にしている、その人だけの価値観ってなんだろうかっていうのを考えます。
──キャラクターを同時に2人生み出すというのは、1人生み出すことよりも、2倍大変なのでは?
島崎 むしろやりやすいかなと思います。やっぱりヒロイン単体で考えても魅力的にならなくて。ほかのキャラとのやり取りがあってはじめて、どんなキャラクターなのか、読者に印象つけることができるので。
にいち 恋愛ものを描くときは、特にですよね。
島崎 そうですね。カップルの場合は男の子と女の子のコントラスト、わかりやすい違いみたいなものを強調することをより意識しています。そうすることで、それぞれの弱いところや、コンプレックスも浮き彫りになるし。
──今コンプレックスという言葉がありましたが、「放課後コラージュノート」のキャラクターは、みんなどこかコンプレックスを抱えていますよね。
島崎 どんな人でも多かれ少なかれコンプレックスみたいなものを持ってるじゃないですか。それがその人の個性だったり、魅力だったりするわけだし、そこを活かすとマンガのネタにもしやすいので。
にいち なにかしら欠点のあるキャラクターのほうが、読者も付いていきやすいというか、自分と重ね合わせやすいのかと思います。
島崎 私もにいちさんも、今は作品をまずTwitterに投稿するので、読者の方の目はやっぱり意識しますよね(笑)。
にいち 理想の男性と理想の女性が恋愛してても、読者には関係のない世界の話かなって。だから「放課後コラージュノート」のヒロインが、拗ねたり、やきもち焼いたりっていうのは、すごくかわいく思えます。
島崎 ありがとうございます(笑)。
にいち 島崎さんの作品って、女の子はもちろんだけれど、男の子もかわいらしいですよね。
島崎 それを言ってもらえるのは、すごくうれしいですね。さっきのコンプレックスや欠点の話って、当然だけれど男の子にも当てはまる話で、彼らがパートナーの女の子に救われる部分も、あって然るべしと思って描いているので。
にいち そういう男の子の心象描写って、私の作品にはあまりないんですよ。あの年頃の男子特有の背伸びした感じや、異性との接するときの照れだったりが、島崎さんは抜群にうまいですよね。男の子がうまいから、かけあいで女の子が立ってくるのかなって思いながら読んでます。
島崎 にいちさんのマンガは、ひたすら女の子がかわいいから、もうそれだけで全部許されますよね。やっぱりイラストレーターご出身なので、絵1枚にもドラマ性があって、非常に美しい、きれいだなって。
にいち 照れますね(笑)。
島崎 そこは真似ができないなって思っています。マンガなんですけど、音楽を聴いているような。もう目で聴く音楽ですよね。「夏色の君へ」も読んでいる間、なんだか交響組曲を聴いているような気分でした。最初に全キャラが集まって、ワーっと湧き上がって、それぞれの組曲が流れて、最後に主題に戻って静かに終わるみたいな。すごくカッコいいなって。そういうところが本当に雲の上の人って感じですね。
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ギャップって、萌えの根源(島崎)
- 島崎無印「放課後コラージュノート」
- 発売中 / KADOKAWA
恋に不器用な女子と彼女のナイトを自認するもその本心に気付かない鈍感男子、身長差が気になって素直になれない同級生、無口系ツンデレ彼女にKOされる彼氏など、青春ド真ん中の胸キュンストーリーが詰まった作品集。著者がTwitterに「#放課後コラージュノート」のハッシュタグで投稿した内容を清書し、描き下ろしエピソードを加えて単行本化された。
- にいち「夏色の君へ 少女アラカルト2」
- 発売中 / KADOKAWA
著者がSNSに投稿したマンガから人気に火がつき、各所で話題を呼んでいる「少女アラカルト」シリーズの第2弾。多くのメディアに取り上げられた「ひまわりと石畳」、22万以上の“いいね”が付いた「10年前の君と、10年後の君のお話。」など、Twitterやpixivで公開されたショートストーリーを中心に、描き下ろしのプロローグとエピローグも収めた短編集。巻末にはイラストギャラリーも用意されている。
- 島崎無印(シマザキムジルシ)
- マンガ家。代表作に「怪獣の飼育委員」「オークは望まない」など。現在はツイ4にて「乙女男子に恋する乙女」を連載中。
- にいち
- 個人サークル「木漏れ陽ぱれっと」としてコミケなどのイベントを中心に活動するイラストレーター。SNSで発表したマンガをまとめた短編集「彼女の季節 少女アラカルト」(KADOKAWA)が、自身初の単行本。