「放課後コラージュノート」「夏色の君へ」特集 島崎無印×にいち対談|SNS時代の人気作家に聞いた“読者に響く”ヒロインの秘訣

作家が読者に導かれるSNS時代

──今、おふたりは主にSNSで、4ページのマンガ作品を発表されていますが、なぜそういった手段を?

にいち 私はもともとイラストを描いていて。シチュエーションだけでキャラに深みを持たせたいって思っていたんですけれど、表現したいことがどんどん増えてきて、イラストにセリフが付き、1枚じゃ収まらなくなり、次第にマンガになったという感じですね。

島崎 私はもともと、雑誌でもっと長いページの作品を描いていたんですけれど、SNSは読者からのレスポンスの速さが面白くて。でも4ページのマンガは難しいですね。4ページ描くカロリーと、16ページ描くカロリー、作画以外ほとんど変わらないので。

島崎無印「放課後コラージュノート」より、「春夏秋冬」の1エピソード「梅雨のあとさき」。

にいち 島崎さんがどうやって作品を作っているのか、想像もつかなくて、担当編集さんに相談したことがあるんです。「放課後コラージュノート」って、4ページごとにまとまりを作りながら、それでいてつながりを作るのがめちゃくちゃ上手だと思うんです。こっちは膨らませて、膨らませての4ページなので(笑)。

担当編集 にいちさんはイラストレーターご出身なので、マンガの文法から少し外れてるところもあって、それが魅力だと思っています。エッセイっぽいというか、共感性の高いマンガを描かれますよね。島崎さんは、マンガ家としてキャリアをスタートされているので、そういう1エピソードごとのつながりを作ったりする、テクニカルな部分がお上手で。

島崎 さっき、私とにいちさんが似ているとおっしゃってましたけど、恐れ多いというか。私からすると、絶対に届かないところにいる人というか、そういう感じに思っていたので。

担当編集 えっ、そうですか。担当していても、おふたりの作品を読んだ時の感覚はすごく似ているなと思っていたので、その反応は意外ですね。実際に読者層もめちゃくちゃ重なっていますし。

島崎 はるか遠くの方にいた人が、なぜか今近くにいる……けどやっぱり届かないみたいな、そういう印象がありますね。

──マンガからスタートした島崎さんと、イラストからスタートしたにいちさんが、今ちょうど4ページマンガというスタイルで落ち合いそうなところなのかもしれませんね。担当さんとしては、どんなアドバイスを出されるんですか?

担当編集 いえ、実はあまり。島崎さんとにいちさんもそうですが、SNSで活躍される作家さんって、皆さんセルフプロデュース、セルフブランディング能力がめちゃくちゃ高くて。なので作品の舵取りはお任せして、僕はとにかくおふたりに気持ちよく描いてもらえることを心がけているというか(笑)。

島崎 大変ヨイショしてくれるので、気持ちよく描かせてもらっています。褒めて調子に乗せるのが上手というか……。

にいち それわかります、私も同じ気分です(笑)。

担当編集 よかった(笑)。やっぱり10万人、20万人を相手にしながら、そのリアクションとかを見て作品を作られているので、人の心を掴む方法を自然と心得ていらっしゃるのかなと。

島崎 多くの人の目に留まるものなので、いろいろと意識しながら作ってはいますね。

にいち よく例えられるのは、フォロワーが1000人を超えたあたりで、校長先生が全校生徒を相手にしゃべってる感じなんだ、と。それを考えると、島崎さんや私の投稿を見てくださる方の人数って、ちょっとした街ですからね。当然、街の人からは影響を受けていると思います。

真逆のキャラクターを選んだ、交換原稿企画

──単行本でやられていた、交換原稿企画のお話はどちらから?

にいち 私からですね。担当さんに相談したら「最高のアイデアだ」と言ってもらえて。担当さん経由で島崎さんにお伝えいただいたところ、島崎さんからもご快諾いただけて、実現しました。

──どのキャラクターを描こうか、悩んだりしませんでしたか。

にいち 私は「放課後コラージュノート」のキャラクターだと、猫かぶり姫がすごく好きなんですよ。

島崎 たぶんそうじゃないかと思ってました(笑)。だから交換原稿も、猫かぶり姫でくるかなと思ってたんですよ。どうして石丸先輩を選んだんですか?

島崎無印「放課後コラージュノート」より、「先輩がチョロすぎて心配な後輩くん」の石丸先輩。

にいち なんというか、石丸先輩は私には描けないキャラクターだと思ったんです。自分の中からこういうキャラクターは出てこないんですよ。だから島崎さんの中から歩き出してるキャラクターで、私が話を考えたらどうなるんだろうって思って。せっかくの機会なので描かせてもらいました。

島崎 そういう理由だったんですね。私はにいちさんの作品、絵から何から全部敵わないと思っていて(笑)。その中で唯一描けそうだったのが、「パーカーおじさんと女の子」で。

にいち 私もこの2人が選ばれたときは、びっくりしました。もっと正統派ヒロインみたいな子が選ばれるのかと思っていたので。でも2人の掛け合いで話が進む感じや、凸凹な2人の外見なんかは、確かに島崎さんの作風にちょっと近いのかもしれない。

──島崎先生は自分の作風に近いと思った2人を選ばれて、にいち先生は自分じゃ描けないと思ったキャラを選ばれたというのが正反対で面白いですね。今後、描いてみたい作品などは?

にいち「夏色の君へ」より、「パーカーおじさんと女の子」。

にいち ネタというよりも、1人ひとりをしっかり深掘りして描いてあげたいと思っています。私それこそイラスト1枚を描いてきた人なので、マンガを4ページを描くだけでも、すごく大変だったんですよ。「マンガって4ページも描かなきゃいけないのか!」って感覚で(笑)。

島崎 私の逆ですよね。16ページが4ページになった私と、1ページが4ページになったにいちさん。

にいち ですね。やっぱりSNSって流れが速いので、続きものをやるには、なるべく間を置かずに投稿していかなくちゃいけない。でも自分の作画スピードじゃ、それはなかなか難しくて。それで、これまでは4ページ1話で完結するエピソードが多かったんですけど、それこそ島崎さんの「放課後コラージュノート」のように、数話で構成されるようなお話をやりたいですね。

にいち「夏色の君へ」より、「四年目記念日」。

──具体的に掘り下げてみたいキャラクターはいらっしゃいますか?

にいち さっき島崎さんのお話にも出た「四年目記念日」の2人は、私も気に入っているので、ちょっと長く描いてみたいと思っています。島崎さんは何か、今後描いてみたいものとかって考えていらっしゃるんですか。

島崎 ちょっと前にTwitterにも投稿したんですけど、最近ハマってるのは、星新一のショートショートみたいなもの。少し不思議で、4ページできちんと落ちる話を描けたらいいかなって思ってます。

──それはやはりTwitterで発表されていくのでしょうか?

島崎 そうですね、まずはTwitterかなと思っています。やっぱりネタ一発ですぐに作品を投稿できて、その反応が見られるというのは、ちょっとした中毒性があります。

にいち 私も描けたものはどんどんTwitterに載せていきたいですね。これからもがんばって描いていくので、読者の皆さんには楽しみにしていただけたらうれしいです。

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恋に不器用な女子と彼女のナイトを自認するもその本心に気付かない鈍感男子、身長差が気になって素直になれない同級生、無口系ツンデレ彼女にKOされる彼氏など、青春ド真ん中の胸キュンストーリーが詰まった作品集。著者がTwitterに「#放課後コラージュノート」のハッシュタグで投稿した内容を清書し、描き下ろしエピソードを加えて単行本化された。

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著者がSNSに投稿したマンガから人気に火がつき、各所で話題を呼んでいる「少女アラカルト」シリーズの第2弾。多くのメディアに取り上げられた「ひまわりと石畳」、22万以上の“いいね”が付いた「10年前の君と、10年後の君のお話。」など、Twitterやpixivで公開されたショートストーリーを中心に、描き下ろしのプロローグとエピローグも収めた短編集。巻末にはイラストギャラリーも用意されている。

島崎無印(シマザキムジルシ)
マンガ家。代表作に「怪獣の飼育委員」「オークは望まない」など。現在はツイ4にて「乙女男子に恋する乙女」を連載中。
にいち
個人サークル「木漏れ陽ぱれっと」としてコミケなどのイベントを中心に活動するイラストレーター。SNSで発表したマンガをまとめた短編集「彼女の季節 少女アラカルト」(KADOKAWA)が、自身初の単行本。