コミックナタリー PowerPush - 山本英夫「HIKARI-MAN」
山本英夫、ヒーロー物で「垂れ流し卒業」?4年ぶりの週刊新連載、その思いを語る
作品が「あまり下品にしないで」と言っている
──想定している読者層というか、どういう読者に読んでもらいたい、というのはあるんでしょうか。
そうですね……自分が読者としていろいろなものを見ていく中でスッと入ってくるのは、やはり負のリンクによるものなんです。例えば失恋したときに失恋ものを見ると共感したり、自分の言葉になったりするじゃないですか。
──マイナスの要素のほうが、共感度が高いと。
ええ。ポジティブな感情って、そんなに入ってこなくて。いわゆるトレンディドラマの「こんな恋しよう!」みたいなのって、「できるかい!」って思っちゃう(笑)。もちろんそういったものにリンクして、勇気をもらったりがんばれたりする人もいると思うんですけど。ただ自分はそういう感情よりも、陰というか、ネガティブなほうのリンクによって勇気づけられてきたところがあるので。
──なるほど。すごくよくわかります。
今作は光を描くんですが、その対としての影の部分によって、人間の泥臭いところが浮き出てくるという構造を持っているので、読者としてはそういうのを捕まえてくれる方狙いですかね。
──先ほど表現を控えめにする、という話もありましたけど、読者からのウケ、のようなものを考えたところもあるんでしょうか。
うーん、なんていうんですかね。ウケるかどうかというよりは、作品が「その部分はいらない」と言ってくれてるような感じです。あまり下品にしないでくれよ、と。
──マンガが伝えてきている。
うん。昔から僕、マンガの単行本に作者の名前って不要じゃないかと思っていて。なぜかというと、作品ひとつひとつが純粋に個人だから。読む際には、マンガ自体の個性を読んでもらいたいと思うからなんです。今回の作品でいうと、そこにグロテスクなシーンがいっぱい出てくると、作品のタイトルよりも山本英夫っていう名前が先行してしまいそうで。それを「HIKARI-MAN」は欲していないんじゃないかな、と思うんです。作品の内容が読者にスッと入るためには、邪魔なハードルではないかと。
セックスを4年間我慢していたような
──読者に向けて、ここを特に読んでほしい、という部分はありますか?
僕は「ホムンクルス」が終わってから、原作者としてやってきたいと思った瞬間があるくらい、どっちかというとお話を読んでほしいタイプだったんですけど……今回はちょっと、絵に力が入っているので、そこを読んでほしいかな。歌でいうと、詞よりもメロディを楽しんでほしいというか。それこそ雑誌を手に取って、活字は読まなくとも、絵だけは見てほしいです。それだけで多分、伝わるものがあると思うので。
──4年ぶりに絵を描かれてみて、手応えはどうでしょう。
いやー、楽しいですね。もう飽きてきましたけど(笑)。
──早いですね(笑)。
でもまあ、元々子供のときから絵が好きで、高校を卒業してすぐマンガの世界に入って、もう20数年やってるわけですから……個人的な本能としては、食事を食べたりセックスしたいというのと同じくらい、絵を描きたい欲というのがどこかにはあるんでしょうね。
──それを4年間休んでいたわけですし。
ええ。4年食事しないっていうのはちょっと極端だけど、セックスを4年間我慢していたみたいな……そこまではつらくなかったですけど(笑)。だから今回は本当に、絵があってお話があって、“ザ・マンガ”を描いているんだなっていう実感はあります。その結果を見てもらえたら。
掲載ラインナップ
- 山本英夫「HIKARI-MAN」
- 花沢健吾「アイアムアヒーロー」
- 玉井雪雄「ケダマメ」
- ゆうきまさみ「白暮のクロニクル」
- 阿部潤「忘却のサチコ」
- 河合克敏「とめはねっ!鈴里高校書道部」
- 高橋のぼる「土竜の唄」
- 真鍋昌平「闇金ウシジマくん」
- 長月キュー「東伍郎とまろすけ」
- 浅野いにお「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」
- さだやす(ストーリー協力:深見真)「王様達のヴァイキング」
- 曽田正人(原案:瑞木奏加)「テンプリズム」
- 吉田戦車「おかゆネコ」
- 小田扉「団地ともお」
- せきやてつじ「火線上のハテルマ」
- 丹羽庭「トクサツガガガ」
- 高尾じんぐ「くーねるまるた」
- こざき亜衣「あさひなぐ」
- 手原和憲「夕空のクライフイズム」
- 柳広司/渡辺雄介/霜月かよ子「ジョーカー・ゲーム」
- 水口尚樹「小光先生の次回作にご期待ください。」
- はまむらとしきり/村正みかど「エロゲの太陽」
- ホイチョイ・プロダクションズ「気まぐれコンセプト」
- 中崎タツヤ「じみへん」
- 原克玄「るみちゃんの事象」
山本英夫(ヤマモトヒデオ)
1968年生まれ。1989年、週刊ヤングサンデー(小学館)掲載の「SHEEP」でデビュー。以後「おカマ白書」「のぞき屋」「殺し屋1」「ホムンクルス」と、常に先鋭的な題材をテーマに、メガヒット作を連発。2014年12月発売の週刊ビッグコミックスピリッツ2・3合併号(小学館)より、4年ぶりとなる待望の巨弾新連載「HIKARI-MAN」をスタートさせる。