コミックナタリー Power Push - たらちねジョン「グッドナイト、アイラブユー」
神経質で小心者の男子が初の海外にびくびく カルチャーショックと心の成長描く旅ドラマ
読んだ人が、旅行した気分になれるものを描きたい
──取材中はどんなことを考えているんですか?
「大空くんだったらこうするかな」とか、キャラクターの気持ちを考えています。私が見たい場所・物というよりは、大空くんが行きそうな場所とかやりそうなこととかを想像しながら。
──大空くんは別の国に到着するごとに、カルチャーショックを受けてますよね。
駅を降りるたび「なんか治安悪そう……」とか言ってますが、そろそろ慣れてほしいですよね……! 毎回「ビビってんじゃねーよ」って思いながら描いてます。大空くんと私は真逆で、彼は海外旅行は苦手なタイプなので、感情移入できなくて、実は結構苦労してます(笑)。
──そのほか描いていて苦労したことはありますか?
先ほども言ったことなのですが、やっぱり背景ですね。ヨーロッパは歴史がある町並みや建築物がほとんどだから、変に簡略化しちゃうと嘘になっちゃう可能性もあるんです。でも丁寧に描こうとすると、どうしても時間がかかってしまう……。締め切りを考えると効率よくやらないといけないのですが、作業的になってきてしまうのがツラい。絵を描くこと自体は好きなだけに。
──海外は街並みを見るのも楽しいし、背景も主役のうちのひとつみたいな部分もありますよね。
そうなんです。この物語の説得力って、背景があるからこそだと思うので。描くことは好きなので、時間さえあれば楽しいんですけど……。次に大空くんが向かうイタリアも大変そうな気がします。
──取材した内容を作品にするときに心がけていることはありますか?
その国らしいところを背景に入れること、ですかね。読んだ人が大空くんを追うだけじゃなくて、一緒に旅行した気分になってもらいたいから。有名な観光地はもちろん、現地に行かないと見れない穴場とかも描くように意識してます。
ちゃんと成長してくれないと旅は終わらせられない
──大空くんはアムスを「最後の目的地」と言ってましたが、次はイタリアに行くことが決まってるんですね。
まだまだ帰しませんよ(笑)。担当さんとは、スペインも行きたいねって話してますし。ドイツに行く可能性も考えたんですが、大空くんはアムステルダムまではお母さんの遺言通りに来たけど、そこから先は自分の気持ちで旅を続けるという展開を考えているので。彼の気持ちを考えたら、どうせなら明るく陽気な街がいいかなと思って。
──行き先は基本はヨーロッパですか?
いきなりアメリカに行ってもいいんですけど、話の流れ的にはちょっと難しいかな。個人的には行かせたいんですけど(笑)。でもまずは大空くんをちゃんと成長させて、このお話を終わらせないといけないですからね……!
──旅に出たことをきっかけに、大空くんは少しずつ成長してますね。
そうですね。母親の死を受け入れ、兄の生き方とも向き合って、少しずつ成長はしているんですが、一番の難関は父親かな……と。自分たちを捨てた父親が実は生きていて、かつ1人で幸せになろうとしてたら、簡単には許せないと思いますし。大空くんはお母さんを1人で看病していたぶん思いが強いですからね。
──でも、そのお母さんも浮気していて。
どいつもこいつも自分勝手でなんなんだよ!って思いますよね(笑)。でも親子の役割にこだわっているうちって、まだ子供じゃないですか。感情的には許せないこともあるけど、母親も1人の女性なんだって受け入れることを覚えて、人は大人になるのかなと。親子の関係から、人間対人間の関係になっていく。大空くんの悩みと、このヨーロッパ旅行がリンクして、彼が家族の問題を乗り越えていってくれればいいなと思っています。ぜひ今後も大空くんがもがいて大人になっていく様子を見届けていただけると嬉しいです。
- たらちねジョン「グッドナイト、アイラブユー(1)」2015年10月15日発売 / 702円 / KADOKAWA / Amazon.co.jp
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一人で、母を看取った。「私の死を、ロンドンの友人に伝えて」そう書かれた遺書に従い、大学3年生の夏、大空は久しぶりに再会した兄と共にイギリスへ渡ることになった。
初めて訪れた異国の地で、母の若き日、兄の秘密、そして“家族”の真実に出逢うとは知らずに……。
新鋭・たらちねジョンが鮮やかに描き出す、ファミリールーツジャーニー待望の第1巻。
執筆陣
秋山シノ、oimo、川床たろ、佐倉チカ、たらちねジョン、中条亮、藤谷陽子、雪広うたこ、武蔵野ぜん子
たらちねジョン
1月20日生まれ。別名義にたらつみジョンがあり、BABY(ふゅーじょんぷろだくと)などでも活躍している。COMIC it vol.1より、初の少女マンガ「グッドナイト、アイラブユー」を連載開始。