コミックナタリー Power Push - たらちねジョン「グッドナイト、アイラブユー」

神経質で小心者の男子が初の海外にびくびく カルチャーショックと心の成長描く旅ドラマ

たらちねジョン インタビュー

旅慣れしている人より、海外に興味ない子を行かせたほうが面白そう

──「グッドナイト、アイラブユー」は、モラトリアム中の大学生・大空くんが主人公の旅行記であり、成長物語です。雪広うたこ先生との対談(参照:大人オタク女子のための新マガジンCOMIC it、雪広うたこ×たらちねジョン対談)でも伺いましたが、あらためてこの作品が誕生したきっかけからお聞きしていいですか?

もともと海外旅行が好きだったんですが、姉が5年ほど前から海外で暮らすようになって、ここ数年ヨーロッパへよく行くようになりました。そんな話をしたら担当さんが「海外を舞台にしたお話を描きませんか」って言ってくださったのがきっかけですね。

──大空くんというキャラクターは、どうやって生まれたんでしょう。

「グッドナイト、アイラブユー」の主人公・遠藤大空。

旅行好きの人が海外に行くのは普通だし、どうせなら日本から出たいとも思ってない保守的な子のほうが面白くなりそうかなと。だからなるべく海外とか苦手そうな、内向的でビビりな性格になりました。ビジュアルは、黒髪センター分けが自分のタイプなのでああなりました(笑)。

──前回の対談では、3日で3都市を巡ったとおっしゃってましたね。大空くんじゃなくても、タイトなので、ヒーヒー言ってしまうハードスケジュールかと思いますが。

去年の11月にロンドン、パリ、ブリュッセルを3泊で巡り、アムステルダムには今年6月に4泊で行ってきました。

──旅行には慣れてらっしゃるのかなと思うのですが、海外は怖くないですか?

それが平気なんですよ! よく「1人旅って怖くない?」って聞かれますが、全然怖くない(笑)。何もない誰もいない辺境の地に行くわけではないので! ヨーロッパの主要都市はどこも都会なので、わからないことは聞けば誰かしら教えてくれますし、街中では比較的どこでもWi-Fiを拾えるので、困ってもすぐスマホで調べられますからね。パスポートとお金とスマホさえ持ってれば、実はなんとでもなるんです!

──ちなみに旅費はどれぐらいかかるものなんですか?

飛行機代と1週間分の宿泊費、食事で20万ぐらいですかね。ツアーではないので、かなり出費は抑えられます。でもヨーロッパは物価が高いので、あとからカードの請求額を見て凹んだりします。

ロンドンまで取材に来たのに、店が休み

──各国を取材した裏話を今日は聞けたらと思うのですが。最初に行ったのはロンドンでしたね。

実際に行けるかどうかの確認も兼ねて、マンガのストーリーと同じ道順で各国を回りました。ロンドンは比較的みんな黙々と真面目に仕事をしているイメージです。18時ぐらいになると仕事帰りの人が疲れた顔して歩いています(笑)。実はロンドンのサラリーマンは、東京と変わらないんだなって思いましたね。

──街並みはどんな雰囲気ですか?

古い建物もありますけど、割とビルも多くて、レンガ造りの家と近代的な建物が融合してる感じです。日本の浅草みたいな感じかな……。街中はすすっぽくて新しくはないのですが、基本的にゴミは少なくてキレイですし、そのあたりは東京っぽいですね。

──東京に似てる、ということは海外初心者も行きやすいかもしれませんね。

ロンドンは観光に適した街だと思います。移動もしやすくて、乗り放題のIC乗車カードは16ポンド(約3000円)も使えば元が取れますし、バスも地下鉄も全部乗れるので楽ですね。

──取材の目的地はどこだったんでしょうか。

たらちねジョンが取材してきたナイトクラブの写真。

1話目のクラブのシーンです。雑誌でリサーチした「プラスチック・ピープル」っていう若者に人気のナイトクラブの店を取材したくて。でもなんと、行ったら閉まってたんですよ……!

──えー! わざわざ日本から来たのに……!

取材しないままでは帰れないので、右も左もわからない土地で若者向けっぽいクラブを探しまわりました。そこで見つけたのが、年齢層高めのスーツ着た大人たちが踊り狂ってる店で……。レディ・ガガとかヒットチャートが流れていて、アンダーグラウンド感は皆無で……! でも踊り狂う人たちのいい写真が撮れたからOKかなと。

──クラブ以外にはどこか観光したんですか?

ビートルズのレコードジャケットを飾った、アビイ・ロード・スタジオ前の最も有名な横断歩道。

マンガでは一切出てこないんですけど、ビートルズで有名なアビイ・ロードは見てきました。有名なわりには普通の道で、もっと観光名所化されてるのかと思ったらみんな普通に歩いてるのにびっくり。あと、ロンドンにはお昼過ぎに着いたので、クラブが開くまで街中の写真を撮ったり、お酒が好きなので、パブに入ってビールを飲んだりして。

──イギリスって食事はどうなんでしょう。イマイチって印象がありますけど。

いや、そんなことはないですよ。全体的に「肉!マッシュポテト!どーん!」って感じなので、それがイヤって人にはアレかもしれないですけど。ビールには合います。……あ、でもこれは言いたい。フィッシュアンドチップスは、すごく不味かった!

──えっ、フィッシュアンドチップスって、日本で食べても美味しいのに。

そう悪くないイギリス食事事情だが、初めて食べたフィッシュ&チップスだけは、いただけなかった……!

もちろんお店によって美味しいところもたくさんありますが、1回目に行ったお店が驚きのお味だったので印象深いです(笑)。いや、日本で出てくるようなのがロンドンで出てきたら感動しますよ。白身魚が下ごしらえナシで揚げてあって、衣もねちょねちょで。イギリスの人はそこに塩コショウをたっぷりかけて食べるんですよ。でも日本人からしたら、味付けの問題じゃないですよね(笑)。

──そうして取材でいろいろと情報を吸収してきたロンドンを、マンガではどのように描きましたか?

ロンドンは東京に近い都会だったので、外国感を出し過ぎずに、大空が入りやすい雰囲気で描きました。人との距離感も都会的なので、そこも大空にとっては救われたのではないでしょうか。

たらちねジョン「グッドナイト、アイラブユー(1)」2015年10月15日発売 / 702円 / KADOKAWA / Amazon.co.jp
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一人で、母を看取った。「私の死を、ロンドンの友人に伝えて」そう書かれた遺書に従い、大学3年生の夏、大空は久しぶりに再会した兄と共にイギリスへ渡ることになった。
初めて訪れた異国の地で、母の若き日、兄の秘密、そして“家族”の真実に出逢うとは知らずに……。
新鋭・たらちねジョンが鮮やかに描き出す、ファミリールーツジャーニー待望の第1巻。

「COMIC it Vol.9」2015年10月15日発売 / 540円 / KADOKAWA / Amazon.co.jp
「COMIC it Vol.9」
執筆陣

秋山シノ、oimo、川床たろ、佐倉チカ、たらちねジョン、中条亮、藤谷陽子、雪広うたこ、武蔵野ぜん子

たらちねジョン

たらちねジョン1月20日生まれ。別名義にたらつみジョンがあり、BABY(ふゅーじょんぷろだくと)などでも活躍している。COMIC it vol.1より、初の少女マンガ「グッドナイト、アイラブユー」を連載開始。