芹亜とゴーストを音階で差別化した「誠-BUSHIDO HERO-魂」
堀川 第3話の挿入歌「誠-BUSHIDO HERO-魂」は、まず沖田総司の曲ということで「和の音楽にしましょう」という発注があったんですよ。しかも「できることならコード楽器も入れず、和太鼓だけでいきたい」という話だったんですけど、さすがにそれでは世界観の構築が難しかったのと、そもそも歌いにくいだろうなということでパッドで和音を入れたりはしたんですけど。
第3話の憑依鎮魂歌、相葉芹亜(CV:藤寺美徳)&沖田総司(CV:熊谷健太郎)「誠-BUSHIDO HERO-魂」(作詞:Spirit Garden / 作曲・編曲:堀川大翼)。
藤田 たしかこれ、堀川くんから「太鼓録りたいんですけど」という相談を受けたんだけど、「あとで考えようか」ってそのまま流してしまったような記憶があって(笑)。
堀川 (笑)。でも実際にレコーディングをする段階で、このオケに対して生の太鼓を録っちゃうと埋もれちゃうよねという話になって、結局生音は録らずに打ち込みを使いました。そのほうが太鼓が前に出てくるので。
上松 太鼓って“空間”を鳴らすものだから、基本のオケがEDM系の前に出てくる音だとうまく馴染まないんだよね。どうしても太鼓だけが後ろのほうで鳴る感じになっちゃうから、狙ったサウンドにはならない。
堀川 そうですね。あと、太鼓を軸にするということはアナログサウンド主体になるので、1曲目2曲目でやられていた“アナログ=芹亜、デジタル=ゴースト”という構図が使えないんですよ。そのすみ分けをどうしようかと考えたときに、違うスケール(音階)を使って世界観を差別化するという手を思いついて。
上松 その発想、いかにも職人的だよね(笑)。
藤田 スケールで雰囲気を変えるという発想はすごく面白くて、いい発明だなと思いました。前の2曲とはまったく違うアプローチで。
上松 スケールもだし、拍子もだよね。アニメの展開的に考えても、ここで8分の6拍子が来るのはちょっとホッとするというか。
堀川 それまでの曲でやっていないことをやる、というのは意識しましたね。話数が進むにつれてどんどん選択肢が狭まっていくんですけど(笑)、このリズムはまだやってないなと思って。
藤田 あとこれ、熊谷さん(沖田総司役の熊谷健太郎)の低音もカッコよかった。すごくレンジの広い曲だなと思って。
堀川 正直、キーレンジに関しては苦情が出るかなとも思ってたんですけど……。
上松 「レンジが広すぎる」とお叱りを受けるのは、エレガの伝統だからね(笑)。
堀川 でもレコーディングでは普通に難なく歌っていらしたので、すごすぎるなと。
上松 男女ツインボーカルってのはどうだったの? 俺の中ではすげえムズいんだよね、男女で歌う曲を作るのって。
堀川 僕は逆にやりやすいですね。シンプルに使える音域が広くなるので(笑)。好きなメロディを自由に書いても破綻しにくいので、むしろ作曲家冥利に尽きるといいますか。
近藤 僕も同じくですね。男声キーや女声キーに縛られずに作れるんで、「よっしゃ、キーレンジ広がった!」みたいな(笑)。
上松 なるほどねえ。勉強になります!
近藤・堀川 (笑)。
主演・藤寺美徳は「エレガのメロディを演技でねじ伏せている」
藤田 芹亜を演じた藤寺美徳さんは、Elements Gardenの楽曲を歌われるのは初めてだったんですが、いい意味で「芹亜そのまんまだな」という印象でしたね。やっぱりどうしてもElements Gardenの曲ってテクニカルに歌いこなさないと成立しないメロディが多いんですけど、歌唱力のほうに寄せると歌が強くなってしまって、キャラクターの表現が薄まってしまいがちなんです。もちろんそれはそれで歌表現としてカッコいいものにはなるんですが、藤寺さんの場合はそっちへ行かずに、“歌をうまく歌うこと”よりも“芹亜であること”だけに専念できる人というイメージですね。
上松 役に徹して歌ってくださるところがプロだなって。うちのメロディをちゃんと演技でねじ伏せてるよね。芹亜のキャラクターを保ったままこれを歌えるっていうのは、すごい逸材ですよ。
藤田 変な言い方をしますけど、今後“うまく”ならないでほしいなと思いますね。
上松 歌唱力的な意味でうまく歌う方向に行かないでほしい、ってことだよね。“演技としての歌”がこれだけうまい人ってのは、意外と希有なので。
堀川 自分もレコーディングに立ち会って感じたんですけど、“音楽的な正解”と“キャラの心情としての正解”ってバッティングしがちなんですよね。「本当はこのメロディのアクセントはここだけど、心情的には違う位置にアクセントが来るほうが自然だよね」みたいな。そこは監督と相談しつつ、落としどころを探っていきました。
近藤 藤寺さんの歌声には、優しさの中にも切なさや強さのニュアンスが含まれているのを感じます。それがゴーストの心情に寄り添う“憑依鎮魂歌”というコンセプトにすごく合っていたな、と個人的には思いますね。
堀川 いい意味で等身大なんですよね。藤寺さんご自身が10代であるというバックグラウンドが、ちゃんと歌声から感じられるというか。
近藤 生々しさがあるよね。
堀川 そうなんですよね。実在感があるというか、プロの技術で10代の少女を演じるのとは違う絶対的な説得力のようなものがある。それでいて言葉はしっかりと届く、とても魅力的な歌声だと思いました。
藤田 このアニメ自体が「歌うことが禁じられ、AIの作った音楽しか許されていない世界で、どうやって歌で気持ちを伝えるか」というテーマを描いていることを考えると、その“生々しさ”は不可欠なものだったと言えるでしょうね。お話として個人的にも面白いテーマだと思いますし、ぜひ多くの人に最後まで見届けていただきたい作品です。
近藤 「人が音楽を作る理由ってなんだろう?」というのを考えさせられましたね。結局のところ、完成品そのものよりも「誰が何を思ってその曲を作ったのか」というストーリーに価値があるように個人的には思っていて……。
上松 結果としていい曲だったとしても、それだけでは人は感動しないってことだよね。その作られる過程に思いが乗るから作品が光るのであって。
藤田 もちろんAIの生成する音楽はすごいんですよ。基本的には大規模言語モデルと一緒で、もっともらしい答えをもっともらしく出してくるものじゃないですか。だからクオリティは高いものになるんだけど、音楽家は「こういうものを作れ」と言われたものを出すだけじゃなくて、そこに「自分はこれがいいと思う」という気持ちを乗せることで初めて意味のあるものを作れる。言われたものを出すだけの装置にならないように気をつけなきゃいけないな、とは常々思っていますね。
堀川 僕は割とAI生成音楽というものにポジティブな印象を持っているんですけど、現状ではまだAIが作り出した曲で「なるほどな」というものはあっても「面白い!」というものに出会ったことはなくて。ただ、過去に存在した膨大なジャンルの中から適切なものを出してくるクオリティは素晴らしいものがある。そういう意味では、自分の作曲家としての可能性を拡張してくれるものだと捉えています。
上松 学校で学んだことの整理だったり、技術的な部分だったりに関してはAIが得意とするところなんで、そこは今後どんどん取って代わられるよ。でも、なんで音楽を作るのかといったら、学んだことを生かしたり技術を使うことが目的じゃなくて、「音楽を作りたいからでしょ?」っていう、そこに戻るんだよね。
堀川 どうしたって僕らは音楽を作りたい人間ですからね。どれだけAIが台頭したところで、たぶん僕らは作ることをやめない。そういう気持ちを思い出させてくれるアニメだなと思います。
上松は孫悟空、藤田はピッコロ
上松 今回のプロジェクトは技術的な要求レベルの高い仕事だったから、僕は当初近藤や堀川のような若手スタッフを入れるつもりは正直なかったんですよ。だけど淳平の中には「新人を育てる」という目線があったから、この2人を含めたチームを編成したんじゃないかな。
藤田 このメンバーにしてよかったなと思いますね。「ゴーストコンサート」プロジェクトが始まった当初と比べると、2人とも技術的には今のほうが全然すごいんですけど、そんな中でもこの作品で求められる要件に食らいついてくる姿勢があった。2人とも音楽への情熱がハンパなくて……近藤くんは普段ちょっとスカしてますけど。
一同 あはははは(笑)。
藤田 大人しそうに見えて実は熱い。
近藤 確かに言われてみると、作る曲に熱さは詰め込みまくってるんですけど、普段こうして話してるときの自分は全然そんな感じじゃないですね(笑)。
堀川 曲を聴くと、作った人の人間性がわかるじゃないですか。近藤さんはとくに癖(へき)が表れがちな作家だと思うので、そういうところがいいなと思ってます。
近藤 そこがやっぱりAIが作る曲と人が作る曲との決定的な違いだと思うんで、今後も大事にしていきたいなと思っていますね。
藤田 一方の堀川くんはいろんなジャンルに詳しくて、“書き分け”がちゃんとできる人ですね。難しい要件を的確にクリアしながら「自分はこういうことがしたいんだ」ということを実現していく、針の穴に糸を通すようなことができる作家。いてくれてすごく助かりました。
堀川 ありがとうございます……! 当時は今より技術力もなかったですし、チームで一番の若手ということもあって「本当に自分で大丈夫なのか」という気持ちはありました。だからこそ音楽をたくさん勉強して食らいついていった面もあったんですけど、そういった知識面と同じくらい、どれだけ熱量を持って臨めるかが大事だとも思っていて。パッションは存分に込めたつもりなので、それが伝わっていたらうれしいです。
上松 技術と情熱のどちらかに偏るんじゃなくて、どっちも取りに行くっていうね。この2人にはエレガの魂がしっかり受け継がれていますね。
近藤・堀川 確かに(笑)。
上松 特別そういう育成方針を掲げているわけではないので、なんでそういうチームカラーが確立したのかはよくわからないですけど。僕はどっちかと言うと孫悟空タイプっていうか(笑)、1人の戦士として背中を見せてきただけだし、そうあろうと思ってるんで。その一方でピッコロタイプの淳平がしっかり後進を育てる意識を持っていてくれたから、ちょうどいいバランスだったんじゃないかとは思いますね。
藤田 ははは。
上松 人を育てる先に自分の成長もあるわけで、それが人の営みとして自然なことだと思うんですよね。それをただやっているだけだと思います。
プロフィール
上松範康(アゲマツノリヤス)
音楽事務所アリア・エンターテインメントおよび音楽制作ブランドElements Gardenの代表・プロデューサー。「うたの☆プリンスさまっ♪」「戦姫絶唱シンフォギア」「ヴィジュアルプリズン」といった作品の原案、音楽プロデュースを担当。水樹奈々、宮野真守といった数々のアーティストにも楽曲提供を行っている。
藤田淳平(フジタジュンペイ)
2004年よりElements Gardenの創設メンバーとして活動。「BanG Dream!」プロジェクトの音楽プロデューサーをはじめ、「うたの☆プリンスさまっ♪」「戦姫絶唱シンフォギア」など多数の作品に参加している。
近藤世真(コンドウセイマ)
2020年よりElements Gardenに参加。「うたの☆プリンスさまっ♪」「戦姫絶唱シンフォギア」「BanG Dream!」などに作編曲で携わる。
堀川大翼(ホリカワダイスケ)
2022年よりElements Gardenに参加。「うたの☆プリンスさまっ♪」「バンドリ!ガールズバンドパーティ!」などに作編曲で携わる。


