「左ききのエレン」は、広告代理店に勤務するデザイナーの朝倉光一と、類まれなる絵の才能を持つ山岸エレンを軸に描くクリエイターたちの群像劇。広告代理店での勤務経験を持ち、「フェイスブックポリス」「おしゃ家ソムリエ おしゃ子!」など多数のヒットを生み出したかっぴーが2016年3月よりcakesにて発表した本作は、9月に完結を迎え10月より少年ジャンプ+にてリメイク版の連載がスタートした。
コミックナタリーはリメイク版1巻の発売を記念し、かっぴーとリメイク版の作画を手がけるnifuniの対談をセッティング。リメイクの経緯から、マンガを執筆するのは本作が初めてだというnifuniが抜擢された決め手、「左ききのエレン」が生まれるまでのエピソードなどをたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 宮津友徳 撮影 / 小坂茂雄
「左ききのエレン」
広告代理店に勤務する若手デザイナー・朝倉光一。自分に大きな才能がないことを理解しつつも何者かになりたいと願う光一は、努力を積み重ねながら日々の仕事をこなしていた。
そんなある日、光一は自ら勝ち取った仕事を納得できない理由で取り上げられてしまう。失意の中にいる光一がふと思い出したのは、高校時代に自分を完膚なきまでに打ちのめした天才・山岸エレンのことであった──。
キャラクター
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朝倉光一(あさくらこういち)
美大を卒業後に広告代理店に入社したデザイナーの青年。高校時代は美大進学を志すものの「周囲では自分が1番絵がうまい」と絵の研鑽に励むでもなく、ただただ無駄に日々を過ごしていた。そんな中でエレンの圧倒的な才能を目の当たりにし、情熱に火をつけられる。
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山岸エレン(やまぎしえれん)
類まれなる絵の才能を持ちながら、ある事件をきっかけに筆をとらなくなった少女。かつて光一と同じ高校に通っており、凡才ながら努力を続ける光一の姿を見つめることで、彼に苛立ちながらもアートの世界へと足を踏み入れる。
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加藤さゆり(かとうさゆり)
光一やエレンの高校時代の同級生で、光一に思いを寄せている帰国子女。何事も平均以上に器用にこなすが、自身が“主人公”ではないことを理解しており、光一とともに適度な夢を叶え幸せに暮らすことを夢見ている。
かっぴー×nifuni 対談
“意識高い系”と言われている子を笑えないです
──まずはジャンプ+で「左ききのエレン」がリメイクされることになった経緯からお伺いできますか。
かっぴー 最初から話すと……リメイク版「エレン」の編集担当をしているジャンプスクエア編集部の林さんから、「スクエア用にマンガを描いてほしい」ってメールをもらったんです。それで作ったのが「アントレース」という読み切りで。
──「アントレース」ではかっぴーさんは原作を担当していて、ジャンプSQ.CROWNに作品が掲載されるにあたり、作画担当を決める公開コンペが行われましたよね(参照:かっぴーの読切がSQ.CROWNに、ネーム全ページ公開し作画担当を募集)。
かっぴー ええ。「アントレース」は春瀬隼さんという方に描いてもらうことになったんですが、そこにnifuniさんも応募してきてくれていたんです。
nifuni 私はもともと絵を描くのが好きだったんですけど、しっかりとマンガとして描くのは今回が初めてで。ただかっぴーさんのことは学生時代から知っていたんです。
かっぴー 僕のほうは、今回「エレン」の件で連絡を取ってから、nifuniさんと過去に会ったことがあるのに気づいたんですけど。
nifuni 私は地方の美術系の大学、かっぴーさんは東京の美大に通っていて、同学年だったんです。地方の大学に通っていると、美術館に行ったり美大生同士で交流したりするために東京に足を運ぶ機会があって。東京の大学に進学していた高校の友人に「いろいろやっていて、面白い人がいるから会わせたい」って紹介されたんです。
かっぴー その紹介の仕方、やばいよね。めちゃくちゃ胡散臭い(笑)。
nifuni かっぴーさんは光一と同じように大学時代にファッションショーのアートディレクションをされたりしていたので、「エレン」を読んだときは「光一はかっぴーさんだ」って思いましたよ。
かっぴー ファッションショー以外にも、学生団体を作ったり、フリーマガジンを発行したりしていたんです。名刺も3種類持ってクリエイティブディレクターって名乗ってましたしね。僕と同じような活動をしている学生の子たちが最近“意識高い系”って揶揄されたりしますけど、「僕は笑えないな」って思っちゃいます。
nifuni (笑)。学生時代から面識があったということもあり、Webマンガを描かれるようになってからもかっぴーさんを応援したいなっていう気持ちはずっと持っていたんです。「アントレース」の作画コンペはTwitterからも応募ができて、みんなで盛り上がれるお祭り感があったので、「これを機にマンガ家になるぞ」というよりは「応募することでコンペを盛り上げられたら」と思って応募しました。
ツイッターでの投稿という方法がとてもいい。
— nifuni(左ききのエレン①12/4発売) (@ni_nifuni) 2017年4月10日
いろんな方が描いたアントレース見れるのが楽しい。
みんなで一緒に作っているようで。#アントレース漫画家募集 pic.twitter.com/a1kBDbnL5P
かっぴー そう言ってもらえるとうれしいっすね。ただ「アントレース」のコンペで「エレン」の作画担当も決めようとまでは思っていなかったんですよ。もともとコンペの前には、ジャンプ+で「エレン」の連載をすることが決まっていたんですが、当時は誰にお願いしようか悩んでいたところでした。かなりの人数見せていただいたんですが、なかなか決められなくて。
nifuni そうだったんですね。
かっぴー 「アントレース」の作画は隼さんが応募してくるまで、ほぼnifuniさんで決まりだと思っていたんです。最終的に隼さんとnifuniさんでめちゃくちゃ悩んでいたときに、ふと「そっか、nifuniさんに『エレン』をお願いすればいいじゃん」と思って。
リメイク版は「エレン」と一緒に変化してく絵がいい
──「左ききのエレン」の作画にnifuniさんを抜擢した決め手はなんだったんですか?
かっぴー 「アントレース」の作画候補を絞ったときに改めて何人かの方にカットを描いてもらったんですけど、nifuniさんは最初に投稿してもらったものからすごく絵が進化していたんですよ。「左ききのエレン」って大きな流れで言えば、夢を追った主人公の朝倉光一が、何度も叩きのめされながらそれに抗って成長していく物語なんです。それを描くには、現時点で完成された絵の方より、絵がどんどん変化していく人がいいなと思って。もちろんその時点でnifuniさんの絵は魅力的だったんですけど、「ここから『エレン』を描くことでさらに覚醒してくれるだろうな」という期待が持てたんです。
nifuni 原作版の「エレン」もどんどん絵が変化していきますよね。
かっぴー 描きたいことがどんどん明確になると、やっぱり絵って変わっていくんですよね。光一のセリフじゃないですけど、「下手だけど本気で描いてるんだ」っていうのを、僕自身やらなきゃと思っていたんです。あとnifuniさんの絵を見たときに「僕が描きたい方向性の絵だ」って感じたのも決め手のひとつですね。
──方向性というのは?
かっぴー 喜怒哀楽だけじゃない、中間の表情が描ける人だってことです。マンガが上手い人って、喜怒哀楽を記号的に描くことが多いと思っていて。マンガの表現としてそれは正しいと思うんですけど、そうじゃなくて見たときに「これってどういう顔だよ?」みたいな中間の表情を描ける方がいいなと。
nifuni 私が最初に描いた「エレン」のキャラデザイン表も、マンガ的な絵ではなかったですね。
かっぴー nifuniさんは「エレン」の連載までマンガをしっかり描いた経験がゼロっていうのもあって、技術的なことは全部手探りでやってますよね。「集中線ってどうやって描けばいいのかな」とか。それが面白くもあるし、僕としても勉強になるんですけど。
nifuni すみません(笑)。本当に走りながら勉強している感じです。
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目を離した隙にLINEの通知が40件
- かっぴー、nifuni「左ききのエレン①」
- 2017年12月4日発売 / 集英社
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コミックス 432円
Kindle版 410円
- 作品紹介
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広告代理店勤務の若手デザイナー・朝倉光一。
納得できない理由で自ら勝ち取った仕事を取り上げられた彼は、やりきれない気持ちを抱えて横浜の美術館へと向かう。そこは、彼が初めて「エレン」という才能と出会った場所で……。
大人の心も抉るクリエイター群像劇、開幕!
- かっぴー
- 1985年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学でデザインを学んだ後、2009年に東急エージェンシーへ入社。アートディレクター、コピーライター、CMプランナーなどを務めた後、2014年に面白法人カヤックへと転職する。社内での自己紹介用に執筆したマンガを見た同僚に背中を押され、2015年9月に「フェイスブックポリス」をWebサイトに投稿し話題を集める。以降、「SNSポリス」「おしゃ家ソムリエ おしゃ子!」「バズマン」「いつか絶対おっさんになるキミへ」「みーはーちゃんねる」といった作品を発表。cakesにて発表した「左ききのエレン」のリメイク版は作画にnifuniを迎え少年ジャンプ+にて連載されている。「忙しく、遊ぶ」を社訓に掲げた株式会社なつやすみの代表取締役社長も務めている。
- nifuni(ニフニ)
- 1987年生まれ。国立高岡短期大学(現・富山大学芸術文化学部)にて金属工芸を学んだ後、株式会社ケイ・ウノへ入社。ジュエリーデザイナーとして8年間勤め、デザインだけでなくマネジメントや店舗の立ち上げにも携わる。
またその傍ら、ライフワークとして絵画やドローイング作品を自主制作し地元富山県で毎年美大出身のメンバーと共に展覧会を開くなど、絵描きとしての活動を続けてきた。現在漫画家デビュー作であるリメイク版「左ききのエレン」の作画を担当、少年ジャンプ+にて連載中。